農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

米国:大豆に食用未承認の実験GMコーンが混入、問われる実験規制

農業情報研究所(WAPIC)

2002.11.18

 米国・ネブラスカで、少量の遺伝子組み換え(GM)コーンの大豆への混入が発見された。混入したコーンは人間の食用として承認されていない薬品用または工業用の蛋白質を含むもので、これら蛋白質の大部分は消化管で急速に破壊されるが、少量は保健問題を引き起こすに十分なほど長期に残る可能性があるという。米国農務省監視官は、収穫後24時間以内に問題をつかみ、大豆とコーンの流通を停止させたが、少量の大豆がエレベーターで他の大量の大豆と混ざり、総額270億ドル相当が廃棄処分される可能性があるという。

 事件に関係するのはProdiGene社とされ、このコーンを昨年栽培した小規模実験圃場で今年は大豆が栽培され、圃場の土に残っていた昨年のコーンの種子から茎が現れた。およそ500ブッシェルの大豆がこのコーンに汚染されたが、これらの大豆が穀物エレベーターに運ばれ、50万ブッシェルの大豆に混入することになったという。

 同社は、次年度の実験圃場も注意深く監視しなければならないという実験許可条件を満たさなかったとして、罰金または拘留刑を科される可能性があり、さらに農民とエレベーターの損失を弁済しなければならないかもしれない。「ワシントン・ポスト」紙によれば、農務省は、食品としての流通に入ることは防げることができたと、規制システムが機能していることを主張するが、この規制システムは産業の行動に依存するところが大で、信頼できないという批判が出ている。バイオテクノロジー産業協会(BIO)は、最近、薬品や化学物質を生産するGM植物の米国中西部やカナダのカノーラ生産地帯での栽培のモラトリアムを提唱したが(米国:バイテク産業、予防措置を採択)、環境グループや食品加工業者は、それでは不十分で、もっと強力な政府規制が必要だと主張している。政府もこれら作物の試験栽培規制強化の方針を出しているが、これについても、適正さを保証するために、外部からの科学的アドバイスを求め、また国民がコメントできるようにすべきだという意見が出ている(米国:医薬品用GM作物の試験栽培規制を強化,02.6.18)。

 なお、14日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙は、この事件に続き、GM作物実験サイト周辺のアイオワのコーン畑の破壊命令も出されたと報じている。最近、ローマの国連食糧機関米国大使は、飢餓に直面しているザンビアが、食糧援助として米国が供与したGMトウモロコシの受け入れを安全性への疑問を根拠になお拒んでいること(ザンビア、研究ののち、遺伝子組み換え食品を拒否)を批判、次のように発言している。

 「米国は、世界中で緊急に必要としている食糧援助の3分の2を供給している。これらすべての食糧は我々自身のストックと市場からのものである。それは我々が食べるのと同じ食糧である。そのすべては、世界中で最も厳格なわが国の食品安全・環境影響試験を通ったものである。この理由で、米国のバイオテク食品と非バイオテク食品は混ぜ合わされている。我々は、それらを分離していないし、分離する必要もないと考えている」(An argument that keeps Africa hungry,Financial Times,11.13,p.15)。

 安全性論議を、ともかく緊急に食糧を必要としている人々のための援助受け入れの是非の論議と直結させることには問題があるかもしれない。しかし、ザンビア政府が安全性を疑う根拠の一つにあげたターリンク混入事件に続く今回の事件は、このような米国の主張の説得力をさらに弱めることになりそうである。

 Biotech Case Worries Food Industry,AP,11.15
 Corn Near Gene-Altered Site to Be Destroyed,The New York Times,11.14
 Food Makers Urge Ban on Food Crops for Medicine,Reuters,11.14
 USDA Probes Nebraska Biotech Crop Contamination,Reuters,11.13
 U.S. Investigating Biotech Contamination Case,The New York Times,11.13
 Soybeans Mixed With Altered Corn,The Washington Post,11.13

 (「遺伝子組み換え情報室」の「ニュース」のページが、ネブラスカ事件については、ロイター、ワシントン・ポストの翻訳記事、アイオワ事件については「有機農業団体が危険なGM作物汚染に正式な要求書を提出(ロニ−・カミンズ)」という翻訳記事を掲載している。当研究所はこのような翻訳の権利をもたないので、一層詳細な情報を望む方は、そちらを参照して下さい。なお、当研究所自体は、著作権にこだわる考えはありません。学生が、レポート作成のために、出所も断ることなく転用・引用するのだけはお断り願いたいものですが)