農業情報研究所

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ブラジル:GM作物を禁止 既不法栽培収穫の輸出は許可

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.18

 3月6日の閣議終了後、ブラジルのルーラ・ダ・シルバ大統領が、ブラジルの遺伝子組み換え(GM)作物禁止を完全に執行すると発表した。新政府が発足した1月以来、政府はGM作物(大豆)の不法栽培を許してきたとカルドソ前政府を批判してきた。6日の決定はGM作物栽培の禁止とともに、不法栽培を許さない新政府の立場を確認したものである。

 しかし、同時に既に違法に栽培した作物の収穫物の販売(輸出)は許可する決定も行なった。このような決定をせざるを得なかったのは、違法栽培が非常に多く、その販売を禁止することの社会経済的影響が甚大だからである。GM作物に反対してきた諸団体も、既に栽培された大豆の販売を許すというのは異常な決定だが、来季の作物が汚染されるのを防ぐとこの決定を歓迎している。政府は、GM大豆は、今年収穫される大豆4,900万トンの12%に相当する600万トンになると予想している(1)。

 ブラジルでは、GM作物禁止にもかかわらず、特に南部では、GM作物の便益を求める多くの農民がアルゼンチンからの密輸種子を使って、大量のGM大豆を栽培してきた。不法栽培である以上、その規模を正確に把握するのは困難であるが、最も信頼できるとされるウベルランジアに本拠を置く農業コンサルタント・Mpradoの推計は、GM大豆の栽培面積割合は、全土で15%から21%、南部では35%から47%に達しているとしていた(2)。

 今回の決定に対しても、不法栽培が最も広がっており、ブラジル第3の大豆生産州であるリオ・グランデ・ド・スール州の反発は強い。州農業連盟(FARSUL)会長は、販売が許されたとしても、農民は州の大豆への差別、あるいはGM大豆と非GM大豆の分別への動きを拒否すると言い、それはコストを上げ、利益を減らすと主張している。州農業大臣は、GM大豆自由栽培のための戦いを継続するといきまいている(3)。政府は、決定を下したものの、今後、その実現のための厳しい具体的対応を迫られている。  

 ブラジルはGM作物の世界的普及をめぐる攻防の最前線と見られていたから(参照:モンサント、飢餓撲滅運動開始のブラジルにGMO十字軍,03.2.10)、新政府の今回の決定に対する世界的反響も注目される。フランス農民同盟(CP)は、12日、早速、この決定を歓迎し、EUもこの道を進むことを約束せねばならないとする声明を発表した(4)。CPは、同時に、GMOなしの原材料と食料品の消費者への供給を保証するために、ヨーロッパの農産物輸入業者に対して、この機会を速やかにとらえ、専らGMOを禁止した国で買い入れるように要求している。また、農民に対しては、家畜飼料の供給業者に圧力をかけて、ブラジルからの輸入品を要求するように要請している。このような動きは、ブラジル農民のGM作物禁止の遵守を支援するものとして注視する必要があろう。それは、決定を下したブラジル政府への支援ともなる。

 (1)Brazil to allow export of GM soy despite domestic ban,soyatech.com,03.3.10.
 
(2)Brazil's biotech ban means farmers make no premium on non-GMO,soyatech.com,03.2.17.
 
(3)Brazil Faces major Soy Battle-Industry,Reuters,3.10
 
(4)Communique press:Bresil sans OGM:les bases d'un nouveau partenariatGMOなしのブラジル:新たなパートナーシップの基盤),3.12