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フィリピン:広がるBt コーン反対ハンスト 政府は譲歩せず

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.16

 フィリピン政府は昨年12月4日、モンサント社が開発した害虫を殺す遺伝子組み換えBtコーン・”YieldGard”の商用栽培を承認した。4月22日、これに抗議し、その「モラトリアム」を求める農民を含む9人が、マニラの農業省前にテントを張り、水とジュースだけで命をつなぐハンガーストライキを開始した。5月1日には、そのうち5人が11日間の行動を止めたが、残る4人は、農業省がモラトリアムを決定するまでは止めないと、衰弱した体を車椅子に埋めながら、なおハンストを続けている。これを契機に、抗議はフィリピン全土に広がりつつある。

 彼らは、1.Btコーンは風媒により、在来地方品種を確実に汚染する、2.科学者はBtコーンの健康への悪影響を警告してきた。フィリピンの承認の4日後、イギリスの組織病理学者・Stanley Ewen博士がBtコーンは胃癌と大腸癌を引き起こす恐れがあり、腫瘍の成長を加速すると警告した、3.圃場がBtコーンに汚染されたフィリピン農民は、米国やカナダで起きているように、特許をもつモンサント者に告発される恐れがある、として、即刻のモラトリアムを要求している。

 5月6日には、9人のハンストを知った米国のシエラ・クラブが、フィリピン有力紙に、彼らの要求を完全に支持するという意見を寄せた(Bt corn distribution opposed,INQ7.net ,5.6)。それは、1.Btは安全に使用できる自然の農薬であるが、成長期間のほとんど全体にわたり、植物体の大部分で毒性が高いレベルで発現するようにBt遺伝子が組み込まれる、2.Bt作物は標的外の絶滅危惧種や益虫にも有害な影響を与える、3.特許を与えられた遺伝子組み換え(GM)種子の広範な使用は、1万年にわたり蓄積されてきた農業の叡智を多国籍企業の知的所有権に変える地球農業資源の危険な私物化である、と支持の理由を説明する。

 18人の著名科学者も、モンサント社のBtコーンは救命のための抗生物質を無効にする抗生物質耐性遺伝子を拡散させる恐れがあると警告の声をあげ、フィリピン・カトリック・ビショップ会議も、その効用と安全性の確かな証拠が示されるまで、未試験の新たな技術を急いで導入するのは正当化されないと、モラトリアムを要請した(Bt corn a biological time bomb,INQ7.net ,5.7)。

 ハンストは、フィリピン国内における遺伝子組み換え(GM)への関心を一気に高めることになった。フィリピン全土にハンストが広がっている。

 マニラでのハンストが16日目に入った5月8日には、バギオ市のマルコム広場で、アメリカン・ピースコーのボランティア・アンドリュー・ハララムと農民グループがハンストを始めた。既にハンストを始めていたカリンガ州の批判者がこれに加わり、翌日には、二人のアーチスト(ミュージシャンと彫刻家)も参加した。ラグナ州のロス・バニョスでは、少なくとも千人の農民が断食に入った。断食は、レイテ、イロイロ、ネグロス、南カタバト、南ダバオ、南タガログ、セントラル・ルソン、カラガにも広がった(Peace Corps volunteer,farmers go on anti-GMO fast,INQ7.net ,5.9;Iloilo farmers join hunger strike vs GMO planting,INQ7.net ,5.11)。

 それにもかかわらず、政府はモラトリアムには慎重な姿勢を取り続けている。14日、農業大臣・ルイ・ロレンツォは、農業省前でのハンストが24日目に入った4人に、平静を取り戻し、ハンストを止めるようにと書簡を渡した。この書簡は、モラトリアムの要請を、事実上、拒否しているという。大臣は、書簡を渡したあとで、反GM活動家との議論に参加したが、ハンスト指導者は、大臣が「Btコーンに関連した多くの問題に通じていない」ことがはっきりしたと言う。大臣は、書簡に、ハンスト参加者が望んでいることは、「ハンスト指導者もかつて参加した政府と民間企業の5年以上にわたる科学的研究を覆そうとする政治的行動だ」と書いている。(Bt corn sale to continue,Agri Secretary decides,INQ7.net ,5.16 )。

 マニラのハンストに加わったバギオのフリー農業研究者は、12日、政府は、Btコーンに続き、GMポテトとGM米を導入するつもりだと警告した。彼は、Btコーンの商用栽培を許す政策は水門を開くもので、ガット(WTO)が完全な自由化を許す2004年頃には、一層多くのGM食品が流れ込ん来る、在来食品を脅かす恐れがあるGM作物は、とりわけアメリカ農企業がアジアに売り込もうとしてきたGMポテトとGM米だろうと言う(Watch out for GM potato and rice,farmers warned,INQ7.net ,5.15)。

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