モンサント、薬用GM作物開発から撤退、欧州事業も縮小へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.17

 モンサント社が8月末で終わる四半期の赤字増大ととともに、遺伝子組み換え(GM)薬用作物開発やヨーロッパでの小麦・大麦種子事業からの撤退などのリストラ計画を発表した(MONSANTO COMPANY REPORTS FINANCIAL RESULTS FOR PERIODS ENDED AUG. 31, 2003; ANNOUNCES MID-TERM STRATEGIC ACTIONS,10.15)。同社は、コスト削減のために、ヨーロッパの種子・植物育種事業を閉鎖しつつある。また、除草剤事業のコストを削減、研究開発費削減のために薬用作物開発も放棄するという。

 モンサント社は、農薬とGM種子を重視して旧来の化学品を放棄して以来、資本コストの回収に苦闘している。今年は最悪の干ばつが農薬販売に甚大な影響を与え、また数年来の作物価格の低迷のために農家の農業薬剤支出も減少している。GMコーン・大豆の販売やラテン・アメリカ事業の改善はあったが、純損益は2,700万ドルから1億8,800万ドルに拡大した。

 薬用GM作物開発は、安価な薬剤生産を可能にするとして、GM作物売り込みの切り札的手段の一つとされてきた。しかし、食用作物を含む他の植物の遺伝子汚染や食品への混入の恐れから、反GM環境団体のみならず、食品業界からも深刻な懸念が表明されてきた(米国穀物飼料協会、薬品等生産用GM作物の厳格な規制を要求,03.2.28)。規制は強化され(米国:農務省、薬品等生産用GM作物の実験ルール厳格化を発表,03.3.8)、モンサントが開発の焦点を当てている薬用コーンのコーン・ベルトでの栽培も難しいと見られている。それでは薬剤生産のコストはかえって高まる恐れがあるばかりか、企業が利益を上げる見通しも立たない。モンサントは、今回の決定は薬用GM植物をめぐる論争とは無関係で、高度に資本集約的なビジネスからの長期的収益が不確実だからだとしている。研究開発支出を圧縮、短期的に利益が見込めるプロジェクトに重点を置くという。しかし、種子・バイテク事業から手を引くわけではない。激しい競争に曝されているラウンドアップ除草剤ではなく、種子とバイテクに焦点を絞るという。

 ヨーロッパの小麦・大麦事業からの撤退についても、こうした総合的戦略の一環としているが、GM作物への不信からヨーロッパ市場に明るい展望が描けないことが関係しているのは確かと思われる。16日に発表された英国のGM作物フィールド実験報告は、ヨーロッパでのGM作物栽培の展望をますます暗くしている。モンサントは、ヨーロッパでの種子・育種ビジネスの難しさを長い時間をかけて学ぶことになった。今後もこの市場に利益は期待できない。万策尽きてのヨーロッパ事業縮小であろう。

 この巨大バイテク企業が薬用作物開発が取りあえず手を引くことは、第二、第三世代のGM作物に大きな展望を見出してきた植物バイテクの将来に一定の制約を課することになるなるかもしれない。また、ヨーロッパ事業の縮小は、取りあえず、ヨーロッパの反GM運動の勝利を告げるものとも言えよう。しかし、モンサントは、今後、アフリカ・アジア・ラテンアメリカ途上国でのGM作物普及に向けて、一層攻勢を強めることになる。ビル・ゲイツ財団の支援で発足するHarvestPluspプロジェクト(ビル・ゲイツ財団、GM研究に2,500万ドル贈与,03.10.16)に乗り、アフリカのビタミンA強化トウモロコシの開発を支援することを表明した。

 関連ニュース
 Monsanto Overhauling Businesses,The New York Times,10,16
 Monsanto cuts costs in face of increased cost,Financial Times,10.16
 Crops giant retreats from Europe ahead of GM report,Independent,10.16
 Monsano shuts UK cereal business after GM setback,Guardian,10.16

農業情報研究所(WAPIC)

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境