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米国穀物飼料協会、薬品等生産用GM作物の厳格な規制を要求

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.28

 バイオテクノロジーを使って医薬品や工業製品を生産する「次世代」遺伝子組み換え(GM)植物・作物の研究開発が進んでいる。病気の治療に役立ち、あるいは病気の診断に役立つ蛋白質ー抗体、抗原、成長促進物質、ホルモン、酵素、血液蛋白、コラーゲンなどーを指定する遺伝子を組み込まれたタバコ、トウモロコシ、大豆などがある。様々な感染症に対するワクチンを生産するタバコ、ジャガイモ、バナナ、家畜の病気予防のための家畜用ワクチンを作る牧草などの研究も進められいる。さらに工業用オイルなど、工業用品を生産するための植物の開発もある。これらを大きなビジネス機会ととらえるバイオテクノロジー企業を始め、多くの官民研究開発機関が、これらの作物は農民に高付加価値の作物をもたらし、また特に途上国に不足する医薬品やワクチンを確保する機会を与えるなどとメリットを宣伝、開発を競っている。

 しかし、これらの作物や挿入された遺伝子が人間の食料や家畜の飼料に混ざったり、環境中に放出されれば、人々は常時、至るところで、否応なくこれらの薬品やワクチンを取り込むことになる。この場合の危険性は、従来のGM作物とは比べものにならないほどに大きい。米国では、このような実験はサイトごとにケース・バイ・ケースで規制してきたが、昨年6月には、米国農務省(USDA)が規制強化を発表、食品医薬局も規制の再検討に乗り出した(米国:医薬品用GM作物の試験栽培規制を強化,02.6.18)。昨年10月には、バイオテクノロジー産業協会、BIOが、北米の主要食料生産地域(中西部やカナダ平原)でのこのタイプの作物の広範なモラトリアムを決定、政府提案の規制を超える内容の自主規制を打ち出した(米国:バイテク産業、予防措置を採択)。それも束の間、11月には、ネブラスカProdiGene社実験サイトで、前年に栽培された薬品・工業製品用GMコーンの種子から発芽したコーンが、この年栽培された大豆に混入するという事件が発覚した。同社は実験許可条件を遵守しなかったと多額の罰金を科せられることとなったが、政府は規制の弱さを環境グループや食品加工企業から批判されることになった(米国:大豆に食用未承認の実験GMコーンが混入、問われる実験規制,02.11.18;米国:遺伝子改変薬品用コーンの拡散で300万ドルの罰金)。FDAは、このような作物を生産したり、取り扱う者に適用される新たなガイドラインを策定中である。

 このような状況のなか、全米穀物飼料協会(NGFA)が、FDAが策定中のガイダンスの修正を要求した(NGFA Urges FDA to Impose Stringent Conditions on Bioengineered Pharmaceutical and Industrial Crops,Grain.net,2.27)。NGFAは、国内及び輸出市場におけるこのような製品からの交差汚染に現在適用されている「ゼロ許容量」の現実を反映するように、厳格な封じ込めと加工の基準の遵守を要求している。

 NGFAは、薬品を生産する形質のGM植物・作物は、これに対応する食品や飼料の生産が存在しない地域でのみ栽培を許すか、グリーン・ハウスまたはこれに似た条件の下でのみ許すべきだと言う。その声明は、「我々はそのような許可されていない作物が一般の作物生産地域で安全に栽培されるとは信じていない。・・・また企業の責任と自主的または強制的な規制の組み合わせを通じて米国内の既存の穀物・食品のゼロ汚染を達成する可能性については強く懸念する」と述べている。それは、「多くの品質コントロール専門家が証言するように、条件が遵守されていないことを立証するシステムは人間の行為に強く依存し、そのようなシステムの開発は非現実的な期待である。・・・、汚染事故にさらされる穀物・食品産業のコストは、多年にわたる長期的悪影響を伴い、巨大なものとなる可能性がある」とも言う。

 このような現実を踏まえ、NGFAは、このような商品の生産と研究にかかわる企業、大学、その他の研究施設は、事故から生じる損失を補償できる財源または財政支援があることを立証するように要求している。

 そして、FDAのガイダンス・ドキュメントについては、次のような封じ込めと加工の諸手段を義務的とするように要求している。

 ■ GM薬品用植物の(花粉による汚染も含む)混入を防止するための措置。

 ■ そのような種子が食品または飼料に使われる資材に不適切に使用される可能性を排除するための、生存可能な種子の生産・目録・廃棄をコントロールする措置。

 ■ 種子使用を報告する措置と生産サイトの記録文書、花粉移動コントロール措置、次期栽培シーズンにおける植物体の破壊。このような措置は、最低限のサイトを特定して自生薬品生産植物を監視しなければならない。さらに、収穫後に偶然に圃場にのこされる植物体(コーンの穂軸や穀粒など)を即座に監視する職員を指定しなければならない。

 ■ 植栽・収穫設備はもちろん、これら植物や植物資材を輸送するコンテナも専用のものを使用すること。すべてのコンテナは輸送の漏れを防止するための厳格な基準を満たすものでなければならない。

 ■ これらの植物と植物資材を扱い、生産する分離された施設の使用。

 ■ 人間と動物の食用に入り込まないように保証するように加工廃棄物をコントロールする措置。

 NGFAは、FDAがガイダンスを通じてこのような条件を要求できるとは考えないならば、上記のことを義務化するルールの作成に取り掛かるように要請している。

 また、封じ込めと加工の要件の遵守を確保するために、これら薬品生産植物と植物資材にかかわる生産活動の間、大学で行なわれるものも含むすべてのフィールド実験サイトの定期的現場監査をFDAとUSDAが行なうべきとも勧告している。

 最後に、NGFAは、FDAとUSDAに対し、工業品生産植物に適用される薬品生産用植物と同様に厳格な別のガイダンスを用意するように要請している。

 なお、NGFAは、米国の非営利取引団体で、米国の穀物と油料種子の3分の2を扱う千を超える穀物・飼料・加工・穀物関連企業が加入している。