タイ農業・協同組合省、輸出拡大めざしてGM作物解禁に躍起

農業情報研究所

03.12.4

 タイ農業・協同組合省が農業の競争力強化と農産物販売・輸出拡大に躍起となっている。有名なジャスミン米は収量が少なく、高くも売れないとジャポニカ種普及を目論むかと思えば、観賞魚、伝来の鶏、ゼブラ鳩など、エスニックな輸出品の養殖による生産を奨励する。目下の最大の目標は遺伝子組み換え(GM)作物の屋外実験禁止を解除することによって、農業生産性を飛躍的に向上させることだ。タイの大豆は1ライ当たり200−300キロ程度しか獲れないが、米国のGM大豆は500キロも獲れるなどと宣伝している。

 タイは、モンサントがGM種子開発・生産の地域センターとしようと目論んできた国だ。しかし、屋外実験のGMBtワタが近隣農場に拡散、閣議決定によって99年4月以来、GM作物の屋外実験が禁止されてきた。農業・協同組合省は、この禁止がタイの農業開発の重大な障害となっていると、解禁に向けた圧力を一段と強めている。

 解禁第一弾の候補に上がっているのがGMパパイヤだ。バングラデシュやスリランカが、栄養不良人口を養うために、GMパパイヤに関心をもっていると説明する。また、南アジア諸国は、GM果実の栽培技術の共有を求めているとも言う。農業研究開発局は95年以来、GMパパイヤを開発してきた。それは、収量を大きく減少させる輪紋病ウィルスに抵抗性をもたせ、高収量で、輸出に好適な特徴―サイズが大きく、果皮が固い―をもつ。これら諸国にとって食糧確保は最大の関心事であり、従ってGMパパイヤに惹きつけられているし、パパイヤは世界で一番ポピュラーな果物だから、GM食品規制を緩めた中国も最大の市場になる可能性があるという。

 ソムサック農業・協同組合相は、タイ人は米国からの輸入大豆を毎日食べているのだから、GM作物から逃れてきたわけでは決してないと、パパイヤを手始めにGM作物の屋外実験禁止の解除を内閣に要請するつもりという。ハワイの例を引き合いに出して在来種との交雑の恐れを指摘する環境団体に対しては、省は、屋外実験禁止を解除すれば、タイがGMパパイヤの環境と消費者への影響を最初に知る国になれると強気である(1)。 このような農業・協同組合省の動きに呼応、モンサント社も攻勢を強めている。先月初めには、2006年までにタイを除草剤耐性ラウンドアップ・レディー・コーンと害虫抵抗性Btコーンの地域拠点とする計画を発表した(2)。

 しかし、省とモンサントの目論見の実現は、なおそう簡単ではなさそうだ。国内の反対は根強い。

 生物多様性グループ・Biothaiは、少なくともバイオセイフティー法が通るまで、屋外実験を認めるべきではないと主張している。これはGM作物実験機関の責任と屋外実験から生じる損害の補償を明確に定めようとするものだが、2001年に始まった立法過程は遅々として進んでいない(3)。

 自然資源・環境省のアドバイザーは、EUや日本など多くの食料輸入国の輸入業者はGM製品を買わないし、タイの食品検査・GM表示機関はGM成分混入製品を発見できないだろう、また製品の起原のトレースや表示のシステムの運用には法外なコストがかかるから、GM作物屋外実験を解禁すれば、農民と農産物輸出は損害を蒙ると警告している(4)。

 さらに、消費者・農民グループも、GM作物が商用栽培されることになれば、タクシン首相が2004年を食品安全年と宣言、タイを「世界の台所」にしようとする政府の計画も躓くことになると警告している(⇒タイ:禁止化学農薬・肥料の使用取締り強化へ,03.6.10)。屋外実験と商用栽培を許せば、タイの食品の安全性への信頼が失われると主張する(5)。

 ただ、こうした反対も押し切って輸出競争力を強めようとする省の農産物輸出指向は並大抵のものではない。日本も大変な国と自由貿易協定(FTA)を約束したものだ。

 (1)Colombo and Dhaka keen on GM papaya,Bangkok Post,03.12.14
 (2)Monsanto yet to prove case for modified crops,Bangkok Post,03.11.28
 (3)Somsak to push for field trials,Bangkok Post,03.11.27
 (4)Risk seen for exports if ban lifted,Bangkok Post,03.11.28
 (5)Minstry warned over trials,Bangkok Post,03.12.3

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