オーストラリア、GM食用作物導入は1州だけか?

農業情報研究所

04.3.31

 オーストラリア・ビクトリア州政府は25日、遺伝子組み換え(GM)作物の商用栽培モラトリアムを4年間延長、08年まで適用する方針を発表した(VICTORIA ANNOUNCES FOUR YEAR HOLD ON GM CANOLA)。西オーストリア州も22日、GM食用作物の栽培を禁止すると発表した。ビクトリアと西オーストラリアは小規模な研究プロジェクトは継続するが、商用栽培につながるような大規模実験は許さない。南オーストラリアとタスマニア(実験は実施中)は既に禁止しており、クイーンズランドもGM作物を導入することはありそうもない。全6州のうち、5州がモラトリアムを決めたわけだ。ニュー・サウス・ウエールズ州(NSW)だけが残った。

 オーストラリアでは、いままでGMワタの栽培は行われてきたが、食用GM作物の栽培はなかった。GM技術の人間の健康・環境への影響の問題に責任を負う連邦遺伝子技術規制官事務所(OGTR)は、2種のGMカノーラを承認した。だが、市場、特に輸出市場を失うことへの農民や輸出業者の不安は強い。資源農業経済局(ABARE)は昨年7月、GM作物を導入しても市場への悪影響はないという研究を発表、連邦農業省は、オーストラリアが世界市場の競争を生き残るためにはGM技術が不可欠と、GM作物導入に向けて圧力をかけている。しかし、健康・環境への悪影響を恐れる環境団体が強く反対しているだけでなく、農民や州政府も納得していない。

 ビクトリア州の08年までのモラトリアムの方針は州のスティーブ・ブラック首相が自ら発表した。そのメディア・リリースは、GM作物の市場への影響が破滅的になる恐れを強調、GMカノーラの人間・環境にとっての安全性を決定するのはOGTRだが、輸出市場への影響を考慮する責任は州政府にあると、その決定の正当性を主張している。

 首相は、ビクトリアは食品と繊維製品の大輸出州で、多くの農民や穀物・乳製品の主要輸出業者はGMカノーラの無制限の市場放出に懸念を表明している、これはGMカノーラ放出を待てという強力なメッセージだと言う。さらに、ビクトリアの食品と繊維の主要輸出先である中東を訪問した自らの最近の経験から、「中東の多くの国は、GM栽培地域からの作物輸入に深刻な懸念を抱いており、政府はこのような枢要な市場を危機に曝そうとは思わない」と決定の根拠を補強している。

 キャメロン農相は、州におけるGM作物栽培に法的コントロールを与え、また08年までGMカノーラの商用栽培を禁止する法案を今会期の議会に提出すると言う。法案には、非商用レベルのGMカノーラの科学的な研究のための実験を許す条項も含まれる。しかし、彼は、GM企業が他の州で提案しているような数千haのサイトは、限定された商業的放出につながるから不適切だと言う。モンサントとバイエルがNSWで申請した大規模実験(⇒オーストラリア:カノーラ大規模実験承認へ、GM汚染の責任を誰が取るのか,04.3.24)は、市場が受け入れるかどうかを試すために、参加農家に収穫の販売も認めるものである。

 なお、政府の決定は、州政府が発表したメルボルン大学教授・ピーター・ロイドによる輸出と市場への影響及びGM穀物を非GM穀物と分離する供給チェーンにおける産業の能力に関する報告も考慮に入れたものであることも明らかにされている。この報告は、ビクトリアにおけるGMカノーラの商業的共存試験を勧告しているが、同時に、「責任と保険の問題」、「他のカノーラ栽培州との協調」、「ビクトリア内でのGMフリー・ゾーンの実施をめぐる実際的問題」、「GMカノーラと非GMカノーラの分離とあり得る交差汚染に関するガイドライン」、「ヨーロッパを含む一部輸出市場におけるGMカノーラに関する感受性」など、一層の研究が必要な問題があることも認めているという。

 この決定は、GM企業には大きな痛手となる。新聞報道によると(NSW goes it alone with GM crops,smh.com,3.26)、モンサントのスポークスマンは、この決定は「顔面平手打ち」、ビクトリアへの投資に疑問符を付けると言っている。モンサントは、ビクトリア農業省と共に行っている研究を続けるかどうか、首相との協議を望んでいるという。

 他方、この決定は、まったく孤立してしまったNSWへの圧力ともなりそうだ。だが、NSWのマクドナルド農相は、モンサント、バイエルの提案を受け入れるかどうかは、販売・貿易・分離の問題の検討を助けるための実験が許される法律が通るときにはっきりさせるが、これらの問題は大規模実験によってのみ答えることができると言っている。GMカノーラ導入は諦めていないようだ。

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