米国:薬剤生産GM作物ビジネスが密かに復活、消費者グループの報告が明かす

農業情報研究所

04.6.5

 豚ワクチンを生産するGMコーンが食品向けに栽培されていた大豆に混じった2002年のプロディジーン社のスキャンダル(米国:大豆に食用未承認の実験GMコーンが混入、問われる実験規制,02.11.18)以来、米国における薬剤生産遺伝子組み換え(GM)植物の実験は退潮に向かったと見られていた。しかし、消費者グループの公益科学センター(CSPI)が2日に発表した報告書で、バイテク企業がこの事業を密かに復活させようとしていることが明らかになった。CSPIは、薬剤生産作物の実験申請と承認が干上がっているのかどうか、米国農務省(USDA)の公式記録を調査した。

 スキャンダルの後、USDAは規制ルールを強化した。02年7月から03年8月までに与えられた許可はったの4件、前年の25件から大幅に減少している。95年から02年までの栽培実験許可は300件以上にのぼっていた。ところが、過去12ヵ月の許可申請件数は16にのぼり、その半数は最近3ヵ月の間に出されたものという。報告は、食用作物で薬剤や工業製品を作るためにGM技術を使うという問題の多いやり方の復活がスピードを上げていると言う。

 申請の3分の2はコーン、米、大麦などの食用作物にかかわる。コーンにかかわるものが6、大麦にかかわるものが2、米、ヒマワリ、マスタードにかかわるものが各1、非食用作物・タバコにかかわるものは5にすぎなかった。02年のスキャンダルに際し、主要加工食品製造者で構成する全米食品加工者協会やアメリカ食料品雑貨製造社団体は、薬剤・工業製品生産GM植物は非食用植物にかぎるように強く要請している。食品業界の圧力も一向に効き目がないようだ。

 これらの申請の中味については、詳しいことは分からない。企業機密ということで隠されているためだ。分かったのは次のことだ。

 場所については、ケンタッキー4件、テキサス3件、ミズーリ、サウス・カロライナ、カリフォルニア、アイオワがそれぞれ各2件、ハワイ、フロリダ、ワシントン、ネブラスカ、アリゾナが各1件。プロディジーン社の最近の申請は4件、ネブラスカとテキサスで、コーンから薬剤を生産する。CSPIは、USDAの過去の記録から、有力な許可申請のほとんどは許可されると見る。

 だが、USDAの記録からは、許可がフィールド実験にかかわるものなのか、完全な商用栽培にかかわるものなのか、詳細は分からない。作物にどんな遺伝子を組み込もうとしているのか、企業が何を生産しようとしているのかも分からない。CSPIは、これら作物にどんな食品安全リスク、環境リスクがあるのか、まったく分からない、食品医薬局(FDA)さえもカヤの外だと言う。

 ただし、一部企業のウエブ・サイトから多少のヒントは得られる。プロディジーンは、膵液中の蛋白質分解酵素・トリプシンと蛋白分解酵素を阻害するアプロチニンを持つGMコーンからできる二つの製品を宣伝している。ヴェントリア・クロップサイエンス社は、ラクトフェリン(鉄と結合する乳蛋白質で、感染症に対する抵抗力をつけるとされる)とリジチーム(卵白・鼻粘液・涙液などに含まれる蛋白質で、細菌の細胞壁に作用、溶菌を引き起こすとされる)を商業的に生産するために、人間の遺伝子を含むイネを栽培しようとしている。

 CSPIの農業バイオテクノロジーに関する基本的立場は、それが人間の健康と環境に大きな貢献をするというものだ。だが、この報告は、@強力な規制システムを通じて保護が保証されるまでは、食用作物を薬剤生産に使うべきではない、AUSDAは許可を出す前に環境リスク分析を行い、食用作物がこのような物質の商業的生産のために使用される場合には、FDAが食品安全リスク分析を行うべきである、B許可のプロセス全体が開放的で、透明でなければならない、と勧告する。

 2日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙によると(U.S. to Divulge More About Modified Crops,The New York Times,6.2)、USDAのバイオテクノロジー規制官・シンディ・スミスは1日、薬剤を生産するGM作物に関する一層の情報を開示する計画を発表、省はフィールド実験されているGM作物のリスクと環境影響の分析を公開するために、ウエブ・ページを利用することを計画したという。だが、それが批判者を完全に満足させることにはなりそうもない。新たな政策は、公式な環境アセスメントが要求されるに十分なほどに大規模で、危険が大きいフィールド実験について、許可を出す前にパブリック・コメントを可能にする。それ以外の実験のリスク評価はもっと簡略にすることになりそうだ。また、これを何時から始めるかについては、ノー・コメントという。

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