EU:燻るGM作物をめぐる「共存」問題 探しあぐねる共存の道

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.22

 EUの遺伝子組み換え(GM)作物をめぐる「共存」問題論議が相変わらず燻っている。フィシュラー委員の最後の出席の機会となった10月18日の農相理事会は、これといった重要案件はなかったが、この機会に、デンマークとイタリアの農相が、とりわけ欧州タスクフォース設置によりGM作物と他の作物の共存を確保する道を探ることを提唱、理事会と委員会の関心を向けさせた。これは、ギリシャ、オーストリア、ドイツ、ポーランド、スロベニア、オランダ、チェコ、ラトビア、ルクセンブルグ、キプロス、スペイン、ベルギー、ハンガリーの13ヵ国も支持している。このタスクフォースは、情報の収集と普及のEU全体での調整を確保、共存に関係する研究の必要の確認に貢献するものだ。

 両国農相は、種子のGMO表示の混入下限値の設定の必要性も強調、さらに、17のGMトウモロコシ品種をEU共通カタログに掲載するという欧州委員会決定(⇒欧州委員会、GMトウモロコシ種子販売を許可、GMナタネ輸入・加工承認も提案,04,9.9)は、共存を律するルールの加盟国による実施の経験に関する欧州委員会の報告が出た後にのみなされるべきだと主張した。

 これに対し、フィシュラー委員は、共存に関するタスクフォースに関しては、共存は国・地域レベルで取り組むのが最善という持論を繰り返しながら、これはすべての者が車輪を発明しなければならないことを意味するわけではない、委員会は加盟国が共存への国家のアプローチを開発するのを助けるつもり、加盟国間の調整ネットワークを立ち上げる準備をしていると答えた。ネットワークは、最適なやり方と加盟国が得た科学的成果に関する情報交換のための手段を提供するという。

 他方、通常種子中のGM種子の偶然の存在の表示下限値については、今まで、いかなる値も策定されておらず、EUで栽培するために許可されたGM種子を含むいかなる種子ロットもGM種子と表示されねばならない、許可されていないGM種子を含むロットはEUでは販売できないと述べた。

 欧州委員会は、通常・有機農業の生産物のGM汚染をGM表示義務を免れる0.9%以内に抑えることで共存を確保するために、非GM種子の汚染上限を定める方針を示してきたが(EU:欧州委、種子GM汚染上限設定へ、共存は可能なのか,03.9.30)、当面はこれを定めるつもりがないようだ。他方、現状では種子も多少のGM汚染は避けられないというのだから、これではすべての種子がGM種子となってしまい、有機・通常を名乗る農業はあり得ないことになりかねない。どんな助けを得たところで、各国は共存措置など講じようがない。欧州委員会は何を考えているのか、さっぱり分からなくなった。

 今月11日、イタリア農相は、作物間の交叉汚染に関する信頼できる研究が欠如していると、極めて厳格なGM作物栽培規制案(詳細は不明)を閣議に諮ったが、自由主義的なベルルスコーニ首相により棚上げにされたという(GM crops row splits Italian government,The Guardian,10.12)。最近、デンマーク議会が共存措置を採択、欧州委員会が急いで検討中だとフィジュラー委員は明らかにしたが、ほとんどすべての国が共存の道を探しあぐねているのが現状のようだ。欧州委員会がどれだけ栽培許可品種を増やしても、現実の栽培は進みようがない。