欧州委 GMトウモロコシ・MON 863を承認 販売実現の見込みはなし

農業情報研究所

05.8.9

 欧州委員会が8日、害虫抵抗性・GM(Bt)トウモロコシ・MON 863の販売を承認する決定を行った。人間食料または栽培用ではなく、動物飼料としての輸入・加工を10年の期限つきで認めた(GMOs: Commission authorises the import of GM maize MON 863 for use in animal feed)。

 MON 863は、GMOの環境中への故意の放出に関する2001年の指令(Directive 2001/18/EC)の発効後に承認された第二の製品になる。第1号は、2004年7月19日に動物飼料への利用のための輸入が承認された同じモンサント社の除草剤耐性GMトウモロコシ・NK 603である。これは、別途食品としての利用が承認されるまで輸入はできないとされていたが、同年10月26日、97年の新規食品規則に基づき食品・食品成分としての利用も承認された。

 今回の承認の過程も、GMO新規承認のモラトリアムの解除を告げることになったシンジェン社の缶詰または生鮮スウィートコーン(Bt11系統)の輸入の承認、NK 603の承認と同様であった。規制委員会と閣僚理事会が承認の可否を決定できず、欧州委員会が決定を下すことになった。リスク評価を強化した新規制にもかかわらず、安全性評価に対する欧州市民の不信は払拭されず、各国のGM製品に対する態度はなお分裂したままだ。

 MON 863の輸入・加工・飼料利用承認はドイツの当局に申請された。ドイツ当局は人間の健康や環境へのリスクを示す科学的証拠はないと結論した。他の加盟国は、分子的特徴、アレルギー誘発性、毒性、モニタリング計画、偶然のこぼれ落ち、抗生物質耐性マーカーの存在、検出可能性などの様々な問題を指摘して承認拒否を主張したが、04年4月の欧州食品安全庁(EFSA)の意見は、通常のトウモロコシ同様に安全で、悪影響を生み出すことはありそうもないと、これらの主張を退けた。

 こうして、欧州委員会は、04年9月20日の規制委員会(加盟各国の規制官で構成され、特定多数決で承認の可否が最終的に決まる。賛否両論がどちらも規定の票数を獲得できないときには、閣僚理事会の決定に委ねられることになる)の投票にかけるべく、その承認案を提出した。ところが、9月17日、ドイツ当局が最初の申請に含まれたラットへの給餌の研究の再評価を欧州委員会と加盟国に提出した。多くの加盟国が規制委員会で公式決定に至ることに懸念を表明、結局は投票が行われなかった。再評価を求められたEFSAは、最初の意見の変更の必要性を認めなかった。

 しかし、11月29日の規制委員会の投票は割れ、承認の可否は決定できなかった。そして、今年5月には、これを食べさせられたラットの腎臓は小さく、血液成分にも変化があったというモンサント社の秘密研究の存在が暴露された(モンサントのGMトウモロコシ・MON 863、健康悪影響を示唆する秘密研究が露見,05.5.26)。6月24日の環境相理事会は、規制委員会と同様に承認の可否を決定できなかった。こうして、昨日の欧州委員会による承認決定に至ったわけである。

 欧州委員会の承認決定にもかかわらず、秘密研究の露見は、強化されたはずのリスク評価体制への不信感を決定的にした。6月24日の環境相理事会が、依然として既承認GMOの禁止を続けるいくつかの加盟国に禁止解除を求める欧州委員会の提案を圧倒的多数で多数で否決することになったのもそのためだ(欧州委、一部加盟国のGM作物栽培禁止の解除に失敗 米国の一層の攻撃に直面,05.6.25)。

 欧州委員会の決定を受け、地球の友・ヨーロッパは、この決定が加盟国の安全性への懸念を再度無視するものだと非難する声明を出した(Commission opens doors to import of  controversial GM maize:http://www.foeeurope.org/press/2005/HM_08_August_maize.htm)。それは、次のような事実を列挙、EFSAとモンサントを強く批判する。

 ・ラットへの給餌試験の結果は、大きく異なる白血球のレベル、腎臓の重量と構造やアルブミン/グロブリンの低割合を示した。

 ・したがって、フランス遺伝子操作委員会(CGB)を含む様々な加盟国の多くの科学者がこのトウモロコシを懸念し、厳しく批判した。

 ・EFSAは、申請を審査し、意見を出すに際し、加盟国の懸念をすべて拒絶した。

 ・モンサントは、ラットの研究を含む決定的に重要な文書を機密文書として公表するのを拒否した。

 ・今年6月にドイツ政府が裁判で公表を勝ち取ったモンサントの文書は、深刻な安全性への懸念があることを確認するように見える。

 今回の決定は、EUのGMOリスク評価への不信を高めただけのように見える。承認がいかに進んだとしても、市場は拒否を続けるだろう。EUのGM作物・食品導入に向けた動きは、振り出しに戻ったようにさえ見える。