フランス 相次ぐGM作物実験許可取り消し 研究開発に司法の壁

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.29

 フランスの行政裁判所による農業省の遺伝子組み換え(GM)作物実験許可の取り消しが相次いでいる。7月25日、農民同盟の訴えを受けたストラスブルグ行政裁判所がモーゼル県におけるモンサント社のGMトウモロコシ・GA21に関する二つの実験許可を取り消した。

 La justice sanctionne le gouvernement sur les OGM,Le Monde,7.26

 GA21は、カナダ、日本、米国では栽培と食用・飼料用利用、アルゼンチンで栽培、オーストラリアで食用利用が承認されているが、ヨーロッパでは未承認の除草剤・グリホサート耐性のGMトウモロコシである。その栽培実験は、他の地域での同様な実験とともに、フランス農業省が5月19日に許可した。

 17 programmes de recherche OGM autorisés,06.5.19

 しかし、農民同盟は、これらGMトウモロコシが他の非GM作物を汚染する可能性があるとして、実験差し止めの緊急の必要性を訴えた。判事は、そのうちの一つの実験は7月13日から14日にかけての夜に反GMグループに破壊されたから緊急の禁止の必要はないとした上で、農業省が周辺の非GM作物に対するリスクが非常に小さいながらもあり得ることを否定しなかったことや、GM作物の影響については”科学的不確実性”があることを明らかにした。また、この実験の適法性に関して重大な疑問があるとして、実験許可取り消しの緊急の必要性があると推認した。

 適法性に関する疑問とは、農業省が、フランスが既に批准した環境情報公開に係るオーフス条約を尊重しなかったということである。オーフス条約とは、環境分野における市民参加を促進することを目的に、国連欧州経済委員会(UNECE)が作成した条約で、各国が環境に関する情報へのアクセス、政策決定過程への参加、司法へのアクセスを法制度で保証すべきことを定める。2001年10月に発効した[日本は未調印]。判事は、農業省が実験場所を始めとする多くの情報を与えなかったと確認した。

 農業省は上告することはできるが、同様な判決が相次いでおり、フランスのGM作物研究開発計画には重大な壁に突き当たっていることがますます明瞭になってきた。7月7日には、ポー行政裁判所が同様の決定を行っている。

 Confédération Paysanne:La Conf’ obtient la première suspension d’autorisation d’essai OGM, au Tribunal administratif de,06.7.13

 昨年までに出されたいくつかの許可も取り消されている。5月4日には、クレルモンフェラン行政裁判所がピュイ・ド・ドーム県での薬剤生産GMトウモロコシ実験許可を取り消した(フランス行政裁判所 薬剤生産GM作物の屋外試験許可を取り消し,06.5.8)。4月28日には、フランスの行政最高裁判所に相当するコンセーユ・デタが、家族経営擁護運動(MODEF)の訴えを認め、2004年6月に出されたモンサント社のGMトウモロコシ2種の実験許可を取り消している。

 Le conseil d'Etat annule deux autorisations d'expérimentation d'OGM,Agrisalon,4.28

  フランスのGM作物研究開発がこのような司法の壁に阻まれているのは、基本的には規制者が遵守すべきGM規制法が未だに不備だからだ。フランスはEU指令が命じる”共存措置”も含む規制法を未だに制定しておらず、今年になって漸く始まった制定の動き(フランス政府閣議 新たなGMO法案を承認 EU指令遵守とGMO利用統制の改革へ,06.2.11)も議会審議が難航、決着は秋に先送りされている。そのなかで厳格な規制を欠く実験ばかりか、一部農民による商業栽培も進む。反GMグループによる相次ぐ破壊活動と司法によるその容認・実験差し止めも当分続くことになるだろう。