フランス政府閣議 新たなGMO法案を承認 EU指令遵守とGMO利用統制の改革へ

農業情報研究所(WAPIC)

06.2.11

 フランスの閣議が8日、フランソワ・グラール教育・高等教育相が提案した新たな遺伝子組み換え体(GMO)法案(*)を承認した。

 *http://www.recherche.gouv.fr/discours/2006/texte_plogm.pdf

 欧州委員会は、フランス政府がGMOに関するEU指令ーGM微生物の閉鎖系利用に関する指令90/219/EECGMOの意図的放出に関する指令2001/18/ECーの国内法化を怠っていると再三再四警告してきた。今月1日、これを違法とする2003年11月の欧州裁判所の判決にもかかわらず、フランスは未だに判決に従っていないと、再度の欧州裁判所提訴を決めた。この2度目の判決の日から1日当たり16万8800€の罰金を課すことも求めている。

 http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/06/109&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

 国内法制定の遅れは、実験GM作物破壊行為に対して無罪を言い渡した最近の二つの軽罪裁判所判決の重要な要因でもあった(フランス軽罪裁判所 GM作物破壊農民に再び無罪判決 欧州委は3種のGMトウモロコシ承認,06.1.14)。 それは、とりわけ現実的脅威である遺伝子汚染の予防措置の不備を問題としていた。ここに至り、フランス政府も漸く重い腰を上げざるを得なくなったということであろう。法案の目指すところは、EU指令に合致する国内法制定と 昨年の議会の要請(フランス下院委員会、GMO実験・利用に関する報告書 今年の屋外実験停止を要求,05.4.17)に沿ったGMO利用を律するメカニズムの改革という。

 法案は、GMOを利用する研究・工業・農業活動の統制を可能にする法律・司法・行政機構を完成させようとするもので、一方では企業活動の自由、他方では人間の健康と環境の保護に関するフランス市民の憲法上の権利を保証しつつ、新たな遺伝子工学技術の発展と利用を可能にする統制手段を定めるという

 それは、情報公開と一層多くの市民からの意見聴取の義務付け、公衆衛生と環境にかかわるGMO評価のメカニズムの改善、販売許可期間10年への制限、表示義務、人間の健康と環境にとってのリスクを呈する抗生物質抵抗性遺伝子の禁止などの新たな措置を定める。また、環境中のGMOの追跡義務や、GM作物と非GM作物の共存措置についても定める。

 最終的にどのような法律が成立するかは予想がつかない。フランス議会では、逐条審議で無数の修正案が出されるのが通例だ。とりわけ、米国多国籍企業に対する競争力強化のために研究の強化を強調する保守中道派が規制緩和に向けた多くの修正ー研究、情報、損害賠償などに関するーを迫ることが予想される。しかし、ここではとりあえず、法案の要点を記しておく。

 1.情報公開と一層広範な市民からの意見聴取の義務化

 ・あらゆるGMO実験の許可に先立ち、情報通信技術を使った政府ウェブサイト上での情報の提供と市民の意見聴取が行われる。

 ・実験が行われる市町村のリストを記載する国家登録簿が公開される。

 ・GMOの販売の場合には、情報公開と意見聴取はEUのウェブサイトを通して保証される。

 ・GMOの実験と販売の許可申請文書に関する情報は、公表により企業の競争上の立場が害される可能性のあるデータについては例外とし、公開される。公開が義務付けられる情報のリストは政令で定める。[欧州委員会は、フランスの国内法は企業機密保護を確保していないと批判していた]

 ・GM植物栽培の義務的申告制度を創設する。申告は、農業省地方機関に対して、播種前に行われる。GM栽培地国家登録簿が設けられ、農業省により管理される。法律で定める秘密情報を除き、登録簿の内容は行政規則が定める様式に従って公開される。

 2.健康・環境リスク評価の強化と評価の義務付け

・既存の各種科学委員会を統合、健康・環境への直接または間接、短期的または長期なリスクの評価を強化する。

・屋外実験の許可は、いかなる場合においても、実験室での研究、温室内での実験を経た後に与えられる。許可される屋外実験栽培面積は、これらの事前の実験の結果を考慮して、ケース・バイ・ケースで決定される。

・すべての販売許可申請はサーベイランス計画を含まねばならない。許可保持者は、許可で定められる指示に従って市販製品のサーベイランスを行わねばならず、その結果は行政当局に定期的に報告せねばならない。行政当局は、この結果を見て指示を変更できる。このサーベイランスは、植物保護機関が確保する国土生物監視を補完する。

3.許可手続と栽培の統制の強化

・販売許可期間を10年に制限する。

0.9%を超えるGMOを含む製品の表示の義務化。

・市販を許可されたGMO製品についての義務的申告制度の制定。

GM作物と非GM作物の共存の確保。その法的根拠を与えるとともに、共存確保の条件を省令で定める権限を農業大臣に与える。この条件が守られなかった場合、行政当局は当該作物の一部または全部の破壊を命じることができ、そのために生じる費用のすべては当該経営者の負担となる。

・抗生物質抵抗性遺伝子を含むGMOGMO製品の禁止。人間の健康と環境に有害な影響を与える恐れのある医療または獣医治療に使われる抗生物質に抵抗性を与える遺伝子を含むGMO、あるいは全体または一部がGMOで構成される製品は、今後許可されない。

4.新たな評価メカニズム:バイオテクノロジー評議会の設立

・既存の三つの諮問機関ー遺伝子工学委員会(CGG)、分子生物工学委員会(CGB)、生物監視委員会ーのバイオテクノロジー評議会への統合。その狙いは、閉じ込め利用または意図的放出の対象となるGMOの科学的評価の手続を簡素化するとともに、評価の一貫性を確保することにあるという。

・この評議会は、@研究・開発目的のGMO利用に関して、リスク評価の権限を行使し、Aこれらのリスクの予防に必要な封じ込め措置を提案し、BGMOの環境への意図的放出に関連したリスクの評価を引き受け、Cこのリスクを予防または制限するための措置を提案し、Dバイオテクノロジーに関する政府の選択の指針を与え、とくにGMOの利用がもたらす経済的・社会的結果の分析を行う。

・これらの任務を果たすために、この評議会は様々な任務に適合したメンバー構成での会合を開く。評議会には科学部会、社会経済部会が設けられる。科学部会は、遺伝子工学、公衆衛生、環境保護、農学、環境応用科学の分野の科学者で構成され、上記の科学的評価を行う。社会経済部会は関係団体・職能団体の代表者で構成され、数人の科学者も加わって、上記の経済的・社会的結果の分析を行う。

さらに、両部会が合同した全体会議がバイオテクノロジーの利用と開発の一般的問題を協議する。評議会は、必要に応じ、メンバー以外の専門家の招集も許可することができる。

5.法的基準を上回るGMOの偶然の存在で引き起こされる経済的損害の補償制度の創設

GM作物を栽培するすべての経営者は財政保証に応じる義務を負う。この保証は、0.9%を上回る偶然のGMOの存在による経済的価値の減少に関連した経済的損害 を補償するためのものである。

 ・この保証は民事責任保険契約への応募か、それがない場合には保証基金を賄うための税の払い込みによって行われる。大規模耕種作物全国職能間事務所(ONIGC)にこの基金の管理者としての法的資格が与えられる。この基金は、保険の提供が現れるまでの5年間の過渡期間のために設けられるもので、GMO栽培者により賄われる。基金の運用規則は行政規則で定められる。

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