欧州食品安全機関 クローン動物の健康・福祉の再評価で新たなデータ収集へ

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.13

  食品安全委員会が3月12日、「現時点における科学的知見に基づいて評価を行った結果、体細胞クローン牛及び豚並びにそれらの後代に由来する食品は、従来の繁殖技術による牛及び豚に由来する食品と比較して、同等の安全性を有すると考えられる」という、「体細胞クローン技術を用いて産出された牛及び豚並びにそれらの後代に由来する食品に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)」を発表した。国民の意見を聴いた後、正式に決定するという。

 http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_shinkaihatu_clone_210312.html

 安全ならば何でも食べていいわけはなく、生産者も何を生産してもいいというわけではない。このような問題は食品安全委員会の審議対象ではないとしても、これを審議する他の専門機関がないのだから、食品安全委員会はこのような問題も睨んで審議を尽くすべきだろう。このような意味で、食品安全委員会は本当に審議を尽くしたと言えるだろうか。リスク管理者はそう問うべきである。

 同じ3月12日、EUのリスク評価機関である欧州食品安全機関(EFSA)は、まだ公表されていない刊行物や科学的情報など、2008年1月以後に利用可能になった関連情報を持つ関係者に対し、動物クローンの「インプリケーション」に関するデータの提供を要請した。

 http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902371142.htm

 EFSAは昨年7月、データが制限され、複雑にして変化しつつある科学と技術については単純に答えることはできない、あるいは保証を与えることはできないという、クローン動物の食品安全・動物の健康と福祉・環境への影響に関する最終的な科学的意見を発表した(クローン動物のリスク評価 単純な答え、保証はできない―欧州食品安全機関,08.7.25)。

 これを受けた欧州委員会は、今年2月、この意見が主要問題領域とした動物の健康と福祉に焦点を当てたさらなる評価を要請した。それは、特に、@妊娠時及び出生直後のクローン動物(牛、豚)に見られる病理と斃死、及び成熟後のその頻度の低下の原因、Aクローン動物の生涯を通じての健康と福祉を、新たな科学的証拠に基づいて調査するように要請している。また、08年7月の意見の対象が牛と豚に限られていたことから、現在の知見が羊、山羊、鶏にどこまで適用できるかとも問うている。

 http://www.efsa.europa.eu/cs/BlobServer/resource_EFSA/panels/sc/sccloningrequest.pdf?ssbinary=true

 欧州委員会が昨年10月に発表した世論調査結果では、EU市民の大多数が倫理上の理由で動物クローニングに疑念を持ち、大半がクローン動物の食料生産への利用を拒んでいる(大多数のEU市民 倫理上の理由で動物クローンを拒否―EU世論調査,08.10.10)。このような問題に対する一層確かな答えがないかぎり、欧州委員会も決して流通許可は出せない。そこで再度の諮問となった。EFSAは、これに答える新たな意見を今年6月に発表するが、そのために必要な新たなデータの収集に乗り出したわけだ。

 日本の食品安全委員会、厚生労働省も、このようなEUの姿勢に学ぶべきだろう。今回の答申案で、日本の消費者、生産者が体細胞クローン動物受け入れに動くとは考えられない。