GM作物への過剰依存がその環境・経済便益を削り取る アメリカの新研究

農業情報研究所(WAPIC)

10.4.14

 全米科学アカデミー加盟機関である米国国家研究会議( National Research Council)が4月13日、遺伝子組み換え(GM)作物はアメリカ農業者に環境上・経済上の多大な利得ををもたらしているけれども、GM技術への過剰な依存がこの利得を削り取る恐れがあると警告する新たな研究を発表した。

 Report in Brief:http://dels.nas.edu/dels/rpt_briefs/genetically_engineered_crops_report_brief_final.pdf
 Full Report:http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12804

 この研究によると、GM作物は農業者が化学農薬の使用を減らすことを可能にした。あるいは毒性・有害性が低い農薬を使用を可能にした。経済的にも、種子コストは高いが、一般的には生産コストの低下や収量向上で全体としては利得をもたらしている。

 ところが、ラウンドアップ・レディーと呼ばれる除草剤耐性GM作物の余りの多用で雑草が急速に除草剤(ラウンドアップ=グリホサート)耐性になり、この技術の有用性が失われつつある。農業者はグリホサートよりも毒性が強い除草剤の追加使用を余儀なくされている。

 農業者のやり方は害虫抵抗性(殺虫性)GM作物の有用性も減らす恐れがあり、害虫の抵抗性発達が一層環境に有害な殺虫剤に逆戻りさせる可能性も高い。

 いまや、アメリカで栽培されるトウモロコシ、大豆、ワタの80%以上が、ラウンドアップ耐性か、害虫抵抗性か、あるいはその両方の形質をもつGM品種となっている。

 研究は、特に、除草剤耐性作物を栽培する農業者はもっぱらグリホサートに頼ることをやめ、他の除草剤との混合を含む広範な雑草防除方法を採用する必要があると注意する。GM作物が導入されて以来現在までに、少なくとも9種の雑草がグリホサート耐性に進化した。大部分は、グリホサートに繰り返し暴露されたためという。

 研究は、経済的に見ても、すべての農業者が利益を受けるわけではないことに注意を向ける。たとえば、有機作物・通常作物を栽培する農業者に対するGM作物の経済的影響も一層研究する必要がある。特許の経済的影響も一様ではない。

 もっと一般的に、GM作物の形質は一層多様になり、作物種類も増えるだろうが、それに応じてGM技術が現在と将来のアメリカ農業と環境にどんな影響を及ぼすかの理解を深めることが不可欠だ、そのような知識の欠如は農業の持続可能性に対するGM作物の環境的・経済的・その他の影響の完全なアセスメントを妨げている、とまで言う。 


 アメリカも、GM技術の本格的反省期に入るのだろうか。残念ながら、日本では相も変わらず、食品として安全かどうかが最大の関心事だ。環境や農業自体の持続可能性への影響には、ほとんど関心が向かない。

 関連情報
 Special Report: Are regulators dropping the ball on biocrops?,Reuters,4.13
 http://www.reuters.com/article/idUSTRE63C2AJ20100413
 インド・グジャラートのBtワタがワタアカミムシに効かない モンサント Bt毒に対する抵抗性発達を初めて認める,10.3.6
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