中国ワタ作地帯 殺虫性GMワタ普及でカメムシが重要害虫に 殺虫剤使用の変化が影響

農業情報研究所(WAPIC)

10.5.17

  中国農業科学院等の研究者による研究で、殺虫性遺伝子組み換え(GM)Btワタの普及とともに、このワタの標的害虫(麺実蛾幼虫)ではなく、以前は特別な防除対策も必要でなかったメクラカメムシが増加、ワタだけなく、穀物、野菜、果実などを含めた作物の重要害虫にのし上がったことがわかった。

 中国ではBtワタは1997年に商業栽培が承認され、今では北東部のワタ生産者の95%が採用するほどに広がっている。しかし、それが地域の農業生態系のなかに認められる多様な標的害虫以外の昆虫にどんな影響を与えるか、ほとんど注意が向けられてこなかった(これはBt作物を大規模に栽培している世界のどの国でも同じだろう)。

 研究者は、メクラカメムシの発生が通常のワタよりもBtワタで多いのかどうか、これらの害虫がより広範な農業生態系にどの程度の意図しない影響を与えるかを決定しようと、メクラカメムシの攻撃対象になりえる300万ヘクタールのワタと、2600万ヘクタールの別の作物が1000万の小農民によって栽培されている北東部の6つの主要ワタ栽培省で研究を行った。

 メクらカメムシは河北省の試験場で1998−2009年に採取されたが、その生息数は同様な管理体制が取られているワタ品種の間で大差がなかった。従って、Btワタ自体はこのカメムシの発生に影響を与えるものではなく、広範な効能を持つ殺虫剤がこのカメムシに効くことも確認される。

 同時に、研究者は、研究された地域全体の38の場所で、1997−2008年の間のメクラカメムシの生息数と、1922−2008年の間のワタに対する殺虫剤の使用状況を監視した。そうすると、Btワタの拡大につれてメクラカメムシの生息数が増えていた。Btワタの採用とともに、殺虫剤使用のパターンも変化していた。すなわち、Btワタ採用後、1992−1996年の間は、標的害虫に対するだけでなく、すべての害虫に対する殺虫剤散布回数が明らかに減った。他方、メクラカメムシを防除するための殺虫剤散布回数は、Btワタの拡大とともに増えてきた。さらに、ナツメ、ブドウ、リンゴ、モモ、ナシのメクらカメムシ感染レベルも、Btワタの拡大とともに増えていることわかった。

 こうして、Btワタの害虫防除体制の変化が農業景観レベルでの非標的害虫の出現と拡散を引き起こした可能性があるという。

 研究者によると、世界の多くの国でBt作物のようなGM作物が農業景観(landscape)支配するようになっており、その景観レベルの影響は標的害虫や天敵、あるいは蝶のような「カリスマ的」昆虫については評価されているが、非標的害虫への影響の研究、あるいはその景観レベルの影響の評価はほとんどない。 

 研究者は、統合害虫防除を前進させ、遺伝子改変技術の持続可能性を確保するためには、一層包括的なリスク管理が決定的に重要だと結論している。

 Yanhui Lu et al., Mirid Bug Outbreaks in Multiple Crops Correlated with Wide-Scale Adoption of Bt Cotton in China,Science Express ,13 May 2010
 http://www.sciencemag.org/cgi/rapidpdf/science.1187881v1.pdf?ijkey=iB5FxEN2XaG7g&keytype=ref&siteid=sci  

  なお、GM作物導入に伴う農薬使用の変化が生物多様性にどう影響するかに関する包括的研究は、かつて英国でも行われたことがある。除草剤耐性のGMビート・トウモロコシ・ナタネとこれら作物の非GM品種の栽培において使用される除草剤の種類とその使用方法のの違いが雑草と野生動物(生物多様性)に与える影響を、農場規模の実験を通して比較したものである。ビートとナタネについてはGM品種に方が悪影響が大きい、一般にアトラジンが使われるトウモロコシについては、グリフォサート・アンモニウムに使われるGM品種の方が影響は少ないという結果が出て、GMトウモロコシのみが許可されることになった。

 英国:GM作物農場実験評価報告発表(highlight),03.10.18
 
英国、GMトウモロコシ商用栽培許可へ、批判轟々,04.3.10