英国:GMO国民論争最終報告、GM作物導入は当分不可能に

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.29

 9月24日、英国政府が組織した遺伝子組み換え体(GMO)に関する前例のない国民論争の結果を総括する報告書が公表された(*)。6月から7月にかけて全国で600以上に及ぶ会合が開かれ、3万7千人以上が意見を寄せたこの論争は、政府の意図に反し、GMOに対する国民の不信を和らげるどころか、かえって深める結果になったと予想されていたが、報告は改めてこのことを確認させる。報告書は、GMOに対する国民の受け止め方は、用心から懐疑を経て敵対・拒絶に至る否定的雰囲気に溢れていると総括した。英国GM企業団体の「農業バイオテクノロジー理事会」(ABC)は、国民論争は世論調査ではなく、意見の80%は反GM運動団体のキャンペーンに従ったものだとこの論争方法を批判しているが、論争議長のグラント教授はこの批判を拒絶、GM推進派のベケット農相も、「国民の政策形成過程への参加の新たな方法」と認めた。

 GM作物は普通の国民よりも生産者を利するとする者は85%、GM食品食べるという考えには86%が「アンンハッピー」と言い、GMが環境に悪影響を与える恐れがあると言う者は91%、GM技術は国民の利益よりも利潤追求に駆り立てられたものだという者が93%に達した。開発企業を唯一の例外とし、GM技術の便益は圧倒的多数が否定した。途上国には特別の便益があるのではないかという問題では意見は割れたが、否定的意見の中では、公正貿易、食料・所得・権力の配分の改善の方が開発促進のベターで一層重要な方法だという根拠によるものが多かった。この問題では、特に多国籍企業が途上国に利益を配分する意志に疑念が表明された。明確な意見表明を避けていた「沈黙する多数」や、最初は便益を認めていた人々を選別しての論議の深化が試みられたが、GM技術について知れば知るほど、反対が増えたともいう。

 このような報告を受け、政府が今年中にGM作物商用栽培承認の決定に踏み切る可能性はますます遠のいた。イラク戦争の結果とケリー博士の自殺問題で人気が凋落しているブレア首相には、このような不人気な政策を近い将来に決定することは政治的に不可能だ。

 ただ、政府もバイテク企業も、GM作物普及を諦めたわけではない。今日29日には、EU農相理事会が、GM作物・非GM作物・有機作物の「共存」に関する欧州委員会のガイドライン(⇒EU新GMO規則成立、GM・非GM共存確保の指針も出たが・・・,03.7.24)を論議する。政府諮問機関・農業バイオテクノロジー委員会は、有機農業者の支持を取り付けるべく、非GM食品中に認められるGM成分の上限を、現在の技術で検出可能な限界である0.1とすることを勧告する用意があると表明した。

 バイテク企業は、食品としてのGM作物利用の可能性がしばらく遠のいたことから、自動車燃料用にGMナタネなどの栽培を許すように圧力をかけており、政府もこれを支持している(**)。政府は、地球温暖化抑止策の一貫として、2009年までに自動車燃料の5%を更新可能なエネルギーで賄う計画をもっているが、これはGM油料種子ナタネ170万エーカー、GM小麦・シュガービート125万エーカーで達成できるという。

 だが、国民にとっての中心問題は、GM作物の遺伝子拡散による「スーパー雑草」の誕生、非GM作物・有機作物の汚染の問題である。この問題が解決されない限り、国民の支持は得られないだろう。有機農業団体(英国だけでなく、フランス等の団体も)は、GM汚染限界0.1%を主張しているが、これが受け入れられたとしても、GM作物が大規模に栽培されるようになれば、これを実現することは不可能だ。欧州委員会は、国レベル、あるいは広域レベルでのGM禁止区域設定には断固反対しており、0.1%以内への汚染抑制は夢物語に近い。フランスでは、バスク地方の8市町村がGMフリー宣言を行なったが、知事が違法として提訴、5市町村の宣言はGM禁止の内容を含むとして、取り消しの判決を言い渡された(***)。3市町村の宣言はGM作物への遺憾を表明するだけのものとして知事の訴えが退けられたが、これだけの宣言では何の実効もない。英国政府のGM普及の野心は当分実現の見込みはなさそうである。

 *GMnation
 **GM crops could be new 'green' fuel,Independent,9.28
 ***Tribunal administratif:pas d'interdication des cultures OGM en Pays basque,AFP,9.25

農業情報研究所(WAPIC)

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