ヤドリギ と ヒレンジャク
(2008.2.)



       待ち望んでいた冬鳥のヒレンジャクが渡来して、ついにヤドリギの果実を食べに現れました!!

       レンジャクの渡来は年によって変動が大きいそうで、渡ってこない年もあるそうです。
       レンジャクをまだ1度も見たことがないので、何年かかけないと見られないかも・・・と思っていただけに、
       今年の2月にその姿を確認したときは、とても興奮しました。 

  1.ヒレンジャクの渡来

写真1 冬になると目立つヤドリギ


       ヤドリギは樹木が葉を落とした冬になると、その球状の樹形が目立つようになります。  (写真1)
       まるで冬の時期に渡来するヒレンジャクやキレンジャクを、待っているかのようにも見えます。 
       冬のヤドリギはおそらく上空からでも目立ち、遠くにあってもレンジャクにはすぐに発見できそうに思えます。

写真2 尾羽の先端の赤い色が美しい 写真3  ヒレンジャク

   ヒレンジャクはとても美しい鳥で、後方に跳ね上がった冠羽、黒い過眼線、尾羽の先端の赤色もとても特徴があります。
   ヤドリギにとって、果実を好んでたくさん食べ、ほとんど木から地上に降りない習性をもつレンジャクは、ベストパートナーです。
   今回見つけた時は、ヤドリギの果実を食べている最中で、食べ終えて枝にじっとしているところを撮せました。  (写真2・3) 


 2.ヒレンジャクの糞とヤドリギの種子 

    ヒレンジャクをしばらく見ていると、木の枝に止まったままで、糞をし始めました。 「しめた!!」 これが見たかったのです。
 


写真4-1 糞を始める

写真4-2 2個の種子がつながって出る

写真4-3 3個の種子がつながって出てくる

写真4-4 4個の種子が出てくる


    糞を始めたヒレンジャクのお尻からは、白い筋でヤドリギの種子がぶら下がって出てきました。 
    他の植物の種子であれば、すでに地上に落下しているところです。   (写真4-1)    

    短い時間で次々と糞を出しますが、出てきたヤドリギの種子はすべて白い筋でつながっています。  (写真4-1〜4)

    糞がこんな数珠繋ぎ状態だとは、想像していませんでしたが、数個の種子どうしがこのように白い筋で長くつながることは、
    樹木の枝などにくっつく際に、1個だけの場合よりもはるかに効率が良くなります。

    ヤドリギの果実には「独特の仕組み」があって、このすばらしい仕組みで種子をヒレンジャクのお尻にぶら下げています。
  
      ※ヤドリギの果実の「独特の仕組み」については、「ヤドリギの果実」のページをクリックしてご覧下さい。

 



写真5-1 

糞を始める、先頭は種子


写真5-2 
果肉と種子が混ざった糞を出す


写真5-3 
多量の果肉と種子が混ざった糞を出す

     またヒレンジャクは、多量のヤドリギの果皮と果肉と種子が混ざった糞も出していました。  (写真5-1〜3)

     このような糞の場合には、この後 糞自体の重みで大部分が、ヒレンジャクのお尻からポトリと落下してしまいました。

写真6-1 地上に落ちた果皮・果肉と種子の混ざった糞


    

写真6-2 落ちて間もない糞 写真6-3 果皮・果肉だけの糞

    ヤドリギが寄生している樹木の付近には、地上に落下した糞がいくつも見られました。 (写真6-1〜3)
    10個ほど糞の内容物を確認したところ、すべてヤドリギの果実だけで、他の果実や虫などは混じっていませんでした。

    中には果皮・果肉だけの糞がいくつかあり、種子と果皮・果肉がうまく分離されたのだと思われました。 (写真6-3)


    「一般に、果実食の鳥類の消化管の中で、種子は果肉と分離されたのち、消化されることなく、速やかに排出されるらしい」
     (福井晶子、被食種子散布における動植物の相互関係) ということです。 
    この糞のように、果皮・果肉と種子の混ざったものが見られるのは、もしかしたら、多くの種子どうしの白い筋がからまって、
    種子と果皮・果肉がうまく分離できなかったのかもしれません。


 3.白い筋でからみついた ヤドリギの種子 

    樹木を見上げると、あちこちの枝や幹に、白い筋がからみついたヤドリギの種子が見られます。  (写真7-1〜3)

写真7-1 白い筋でからみついたヤドリギの種子 写真7-2 ヤドリギの種子

写真7-3 ヤドリギの種子 写真8 定着した若いヤドリギ

    この白い筋でからみついたヤドリギの種子は、風に揺られていました。 
    このように枝にからみつくことができた種子は、風などで枝や幹にうまく貼りつき、さらに良い条件が整えば、
    発芽してゆくのでしょう。   (写真7-1〜3)

   写真8は、この木に定着した1節の若いヤドリギです。
   ヤドリギは1年に1節伸びるということですが、樹木大図説によれば、「初め2年間は生長遅く、普通見るような葉状をなすには
   5年かかる。」 と書かれていますので、この写真のものは少なくとも3年以上前にくっついた種子が、寄生根を伸ばし、
   ようやく、この姿に成長したものだと思われます。 

   
   今回、ヒレンジャクのお尻にぶら下がる種子を実際に観察できて、ヤドリギはこんなすごい種子散布の方法をとっていたのかと
   あらためて、その仕組みのすばらしさに驚かされました。

                                                       (2008.2.20)

******** 追 記  (08.2.28) *************************************

ヤドリギの果実を食べに来る鳥は、キレンジャクやヒレンジャクだけではなく、ヒヨドリもときどき訪れて果実を食べています。 レンジャクと同じように、ヤドリギの種子の糞をするところを観察できました。 かなりヤドリギの果実を食べていることが確認できました。 (図1〜4)

図1 ヤドリギの果実を食べに来たヒヨドリ 図2 ヤドリギの種子の糞を出すヒヨドリ

図3 樹木にぶら下がったヤドリギの種子 図4 ヤドリギの果実を食べに来たヒヨドリ


  【 参考文献 】
   ・上原 敬二 1975. 「樹木大図説」 有明書房
   ・富成 忠夫 1979. 「野外ハンドブック・7 樹木2」 山と渓谷社
   ・福井 晶子 1993. 「シリーズ地球共生系5. 被食種子散布における動植物の相互関係」  平凡社
   ・叶内 拓哉 2006. 「絵解きで野鳥が識別できる本」 文一総合出版
                                                             
                                                            

 
1.ヤドリギの果実    2.ヤドリギとヒレンジャク    3.ヤドリギのviscin組織    4.ヤドリギの花

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