農業と気候変動に関するEU閣僚会合 小農場育成で農村人口流出をストップせねばならないと専門家

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.13

 9月9日から12日まで、農業と気候変動の関係に関する欧州連合(EU)環境・農業相の非公式会合が開かれた。今年のG8でも気候変動問題を国際社会の最優先課題として取り上げた英国政府が主催したものだ。英国政府の熱意にもかかわらず、会合の大半は、共通農業政策(CAP)による大量の補助金支出を攻撃、その大幅削減を求める英国政府と、2007−13年のCAP支出に関する2002年の首脳の合意(欧州理事会(EUサミット)、CAP予算枠で合意,02.10.29)を崩すことは絶対にまかりならぬというフランス政府との間の論争に費やされた。気候変動については、会合に招かれた7人の専門家の意見を聞くにとどまったという(Subsidy row taints EU debate on farming, climate change,AFP via Yahoo News,9.12)。

 それでもこのような会合はEUでも初めての試みであり、農業と気候変動の関係を指導的政治家に意識させた功績は大きいだろう。議長を務めた英国のベケット農業食料農村問題(DEFRA)大臣は、この会合を締めくくる演説で次のように述べた(http://www.defra.gov.uk/news/2005/050911a.htm)。

 「気候変動は我々が直面する最も深刻で長期的な挑戦であり、農業は英国の温室効果ガスの7%を排出する第二の排出源である」。

 農業者[土地管理者]はEUの土地面積の42%を管理しており、気候変動への挑戦において決定的役割を演じる。それは農業者に大きな課題を突きつけるが、同時に新たな農村企業の創出の機会ももたらす。「農業者は、例えば洪水のリスクを減らす水管理を通して気候変動のドラスチックな影響に取り組むのを助けることができる。また、農業部門は、例えばエネルギー作物生産や肥料・堆厩肥施用の管理慣行の変更を通じて、自身の温室効果ガス直接排出を減らすことにいかに貢献できるか考える必要がある」。

 閣僚たちは専門家から、今夏、ポルトガルやスペインを襲ったような大規模な森林火災(ポルトガルの森林火災は制御不能にー対症療法だけでは今後の備えにならない,05.8・17)が、土地放棄と気候変動の結果として今後一層増えるだろうと警告を受けた。一部の国では、1970年代以来、農村人口の20%が土地を棄て、これが大きな面積の土地の貧弱な管理につながっている。干ばつと熱波は一層頻度を増し、貧弱な土地管理と相まって破局的森林火災をもたらす。農地の放棄により、生物多様性の減退、農業者によってチェックされない野生動物が引き起こす動物病の大規模な保育地の創生などの問題も生じる。人口の高齢化が進み、保健サービスなどを求めて田舎から都会に移動する人々がますます増えるだろう。干ばつと激烈な天候は一部地域における農業の継続を困難にし、農業を棄てる人々も増えるだろう。

 欧州環境庁(EEA)を率いるジャックリーン・マックグレード教授は、CAPの改変のような行動で、農村地域の人口減少をストップさせる必要があると述べた。彼女は、EEAの既存の研究に基づき、「厳しいエネルギー危機が起きる。深刻な洪水は洪水に脆弱な地域からの人々の脱出を余儀なくさせ、農村景観に跳ね返る。当初の困難にもかかわらず、大部分の人々は挑戦にどう立ち向かうか知っている。人々が自身の生活の再建に苦闘するから、共同体精神が再発見される。多くが有機農場で構成される小規模農場が芽生える。政府の政策はこの新たな生活スタイルを支援するために変わりつつある」と言う(EEA:Europe's environmental future demands more action in key sectors;http://org.eea.eu.int/documents/newsreleases/outlook-en)。

 確かに、CAPは、エネルギー作物奨励も含め、そのような方向に転換しつつある(EU共通農業政策(CAP)改革の内容,04.5.8)。しかし、農村人口はなお減るばかりだ。CAPの解体ではない。一層の改善が必要だ(欧州議会、公正な農家所得安定策―競争力と多面的機能を両立させるCAPを要請,04.2.10)。

 わが国では、今回の衆院選挙における都市住民の圧倒的支持で、自民党が圧勝した。都市が農村に勝利した。農政はEUが目指すような方向からますます遠ざかるだろう。しかし、都会の人々もいずれ、対抗のしようのないいずれ自然からのしっぺ返しに出会うことになるだろう。

 なお、この会合に先立ち、温室効果ガス排出への農業への影響に関する数字が発表された(Environment and Agriculture Informal Ministerial Councils Figures on the impact of agriculture on greenhouse gas emissions,9.9)。農業からの排出は、EU25ヵ国の全排出量の10%を占める(エネルギー部門に次ぐ第二の排出源)。排出量は、主として牛と羊の数の減少(95−2004年で6%、食事の嗜好の変化ー鶏肉への移行のため)と化学肥料・堆厩肥の利用の減少により、94年から99年の間に6%減少した。他方、バイオマス利用は93年と03年の間に47%増加、陸地でのエネルギー総消費の4%を占めるようになった。