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地理的表示国際ネットワーク立ち上げへ

農業情報研究所WAPIC)

03.6.12

 6月10-11日、先進国・途上国の地域特産飲食料品生産者がジュネーブに参集、WTOにおける地理的の一層の強化を目指す国際的キャンペーンを開始した。イタリアのパルマ・ハム、南アジアのバスマティ米、フランスのワイン、スイスのグリュイェール・チーズ、ギニアのコナクリ・バナナなど、世界25ヵ国の生産者が国際地理的表示ネットワーク機関(Origin,Organisation for an International Geographical Indicatuins Netwaork)を立ち上げたである。

 このキャンペーンはEUやその他のヨーロッパ各国だけでなく、多くの途上国の政府に支持されている。EUは、農業補助金削減の圧力を受けるなか、これを現在のWTO貿易交渉ラウンド(ドーハ・ラウンド)の重点要求の一つにあげている。しかし、米国、カナダ、オーストラリア、ラテン・アメリカの一部諸国は、これらの著名な名称を使う自国内の生産者への影響を恐れて、表示保護の強化に強く反対している。ワインとスピリッツの保護地理的名称の登録に関する交渉は、9月のメキシコ・カンクンでのWTO閣僚会合までに結論を出すことになっているが、登録にすべてのWTO加盟国を拘束する効力を与えるべきかどうかをめぐって停滞している。EU等はワイン・スピリッツ以外の製品にも登録を拡張しようとしているが、これは強く阻まれている。

 Originは、地理的表示は地方の仕事を創りだし、製品に付加価値を与えるだけでなく、環境と自然資源の保全や料理・職人的熟練・文化にかかわる遺産の保全に役立っていると言う。しかし、これら生産者は、全く別の、しばしば品質の劣る製品を販売するためにこれらの名を騙る競争者により巨額の損失を蒙っていると主張している。

 欧州委員会の通商担当委員・パスカル・ラミーは、この集会に宛ててブリュッセルからのメッセージ送った(Pascal Lamy EU Trade Commissioner Creation of the Organisation for an International Geographical Indications Network (ORIGIN) ORIGIN Brussels, June 11 2003)。

 彼は次の五点をあげて地理的表示の保護の重要性を訴えている。

 第一に、それはヨーロッパの農村地域開発の重要な手段となっている。

 第二に、それは米国等が主張するような売買もでき、地理的限定もない「商標」やブランドとはまったく異なる。それは地域社会の共同財産をなし、地域に属する者は望みさえすれば誰でも取得できる。生産量は限定されており、誰が生産者かすぐわかり、消費者に厳格な品質基準の遵守を保証する。

 第三に、それは付加価値のバランスの取れた配分を助ける。一方では生産者と流通業者の間の適正な配分を助長し、他方では特許のような巨大な研究開発投資を必要とすることもなく(「ダージリン紅茶」、「ジャスミン米」、「「アンティグア・コーヒー」はそのままで共同の遺産であり、インド、タイ、グアテマラの遺産をなす国際名称である)途上国に利益をもたらし、南北間の適切な配分を助ける。

 第四に、それは品質改善を刺激し、結果的に競争力を強める。

 最後に、それは国と地域のアイデンテティーに貢献する。それが保護する名称は数千年の伝統、文化、ノウハウを象徴する。

 こうして、彼は、ワイン・スピリッツの地理的表示の多角的登録とその他の製品への保護の拡張を歓迎するともに、EUが途上国に対する技術支援を強化すると表明している。

 保護地理的表示は、止めようもないグローバリゼーションの大波に襲われて沈没の危機に瀕している世界中の農業・食料生産者が大波を逃れてたどり着く島である。大波はますます高まり、島をも飲み込もうとしている。防波堤を作らねばならない。それは成功するだろうか。

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