++「BRING ME TO LIFE」第十章(2)++

BRING ME TO LIFE

第十章・歌姫と戦争
(2)







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「キタデー、アンチャンキタデェー」
「あら! 今朝はお客様が多くて嬉しいですわ」
 歌姫のそれとは違う、少女の微笑みを全開にしたラクス。
 そんな彼女の部屋に招き入れられるが早いが、するりと腰に手を回し、抱き締めてキスをしようとする。
「いけません! こんなところで」
 しかしそれをぐいっと離す。
「何だよ。昨夜はバタバタしてたし、オレ達がこんなにゆっくり二人っきりになれたの、何週間ぶりだと思ってんの?」
「ダメですわ。誰の目があるかわからないのですから」
 こういうケースでは女性の方が強いのが定石。
 ちぇ、と呟き、椅子に腰掛けるディアッカ。
「そんでさ。聞いておきたい事あるんだけど」
「まあ。何でしょう?」
「あのストライクのパイロットって、女なんだよな?」
 …きょとん、と首を傾げ、ピンクのハロがふわふわと飛び跳ねる。
「どなたか、そう仰ったのですか?」
「いや、言ったっつーか。でもアスランもイザークもそっちのケはないはずだし、なんか話聞いてたらやっぱり女みたいじゃん? …オレ は最初っから疑ってたけどさー、胸はたいらだし、自分のこと僕とか言いやがるし、もうどっちなんだかハッキリしろよって感じで隊長に 送られたあいつのデータ確認したら、男になってるし。マジわけわかんねぇ」
「…ディアッカ。…アスランと、イザーク様が、何か?」
「あいつら取り合ってるんだよ、あのキラってヤツを」
「……………」
 なんたる展開。
「って事はだ。…やっぱり女か」
「……皆様は、秘密を守って下さいますか?」
「秘密? って、それ秘密なのかよ? 多分もう上に報告いくぜ?」
 …嗚呼。
 ラクスは思わず頬に手を当ててしまう。



「それにしてもさぁ」
 お茶を出されて寛ぎながら、暢気な調子でディアッカが尋ねる。
「お前、あの裏切り者の事、なんでそんなに気に入ってるんだ?」
「キラは裏切り者ではありません。己の心のままに戦われただけですわ」
 にこりと微笑を浮かべて、即答するラクス。
 ディアッカは呆れたように溜息を一つ。
「…だから。その心ってのが裏切ったって事じゃん」
「……わたくしが、何故キラを気に入ったかという質問でしたわね? ディアッカ」
 唇に寄せようとしたラクスのティーカップは、その中身を減らす事なくソーサーに戻された。
「…そうですわね。理屈で言うなら…あの方は、守る為に戦う方。そして迷う強さを持った方だからです」
「あぁ?」
 眉が寄せられ、こちらは逆にティーカップを取る。
「お前って、時々オレにはわかんないものの言い方するよなぁ」
 嫌味でも苦情でもなく、率直にそう言って、紅茶を一口。
「何だよ、迷う強さって。迷うって事は、そんだけ弱いって事だろ」
 ふふ、とラクスは微笑んだ。
「ディアッカ。あなたはその正反対の方ですわね」
「反対?」
「…あなたは、何故戦うのですか?」
 にっこりと微笑みながら、しかし強い視線を投げかけてくる。

 …囚われたのは、この眼だ。
 幼い頃から親の関係で多少の親交はあった。が、それだけだった。…それだけで終わる筈だった彼女に囚われたのは、この眼に気付いた時。
 ほややんとして歌が好きな、天然娘。ラクスのそんな印象が、百八十度変わった。
 そして、…どうしようもなく惹かれたのだ。理屈が介在する余地もなく。

「…何故、ってね。ナチュラルを黙らせて、戦争に勝つために決まってるだろ」
 今までにも話した事のない話題ではない。ディアッカは、当然のように答えた。
 するとラクスは、更に微笑みを深め、小さく首を傾げた。
「戦争に、勝つため。…そうですわね。あなたはそのために、ザフトに志願した」
「ああ」
「では、どうすれば勝てますか」
「…」
 そう問い返されたのは初めてだった。
「……そりゃ………」
 そして、即答できない。
 一瞬、視線が空中を泳ぐ。
「…勝ち続ければ、勝ちだろ」
「それでは、敵が戦いを仕掛けてくる限り終わりませんわ」
「だから。…地球連合軍のトップを潰せば、壊滅だろ」
「指導者の代わりなどいくらでもおります。最悪の場合、総意を表すだけの傀儡でもよいのですから」
「だったら、その代わりも出てこないくらい徹底的にブチのめしてやったらいいんだよ」
「まあ、それではナチュラルの方はいなくなってしまいますわね」
「そうそう。それでこっちが勝ち残って、戦争終結。ごちゃごちゃ鬱陶しいナチュラルがみんないなくなって、平和に解決」
「それは『戦争』とは言いません。『殺戮』と言います」
「……………」
 お前時々笑顔のまま怖い事言うよな、と言おうとして、言葉を飲み込む。
 ―――――彼女は自分の言葉を言い換えただけだ。
「あなたのその信念で戦争を終わらせようとすれば、あなたはご自分のお祖父様とお祖母様も、その手にかけることになりますわね」
「え?」
「皆様、まだご存命なのでしょう? でも、『ナチュラルを徹底的にブチのめ』して、『戦争に勝つ』ためなのですから、たとえご老人で あろうと見逃すわけにはまいりませんわね。それこそ身内でも」
「…………」

「あなたは、この戦争はどこから始まったとお考えですか?」
「…血のバレンタインだろ。それは間違いない」
 農業コロニー・ユニウスセブンに核が撃ち込まれ、二四万三七ニ一人ものコーディネイター達を死に至らしめた、地球軍による残虐な 攻撃。
 開戦はその僅か三日前だったとはいえ、この卑劣極まりない攻撃が事実上口火を切った形である事は明白だと、ディアッカは考えていた。
 ラクスは、やはり微笑んだままだ。
「…同じ問いかけを、何人かの方に致しましたわ。圧倒的に多いのが、やはり『血のバレンタイン』。他に、C.E.五十年代から 堅著になった経済較差による軋轢が原因だと仰った方もおられますし、理事国がプラントの独立を認めなかったからだというご意見も ありましたわ。…そもそも、ファーストコーディネイター、ジョージ・グレンの存在が…彼の告白がなければ、こんな事にはならなかったと。 そして彼がナチュラルに暗殺されたことで、完全に楔が穿たれたのだと仰った方もおられます」
「…てんでバラバラじゃねェか」
「ええ。どれが正解で、どれが違うのか…今となってはもう、判断することはとても難しいでしょうね」
 一旦言葉を切って、ぬるくなった紅茶を飲むラクス。

「では、それを踏まえて。…この戦争の構図を、どう御覧になります?」
「…また次から次へと…最初に質問したのがオレだって事、忘れてない? それに、それとあのキラって女と、何の関係があるんだよ。 ラクス」
 さすがにそろそろ疲れてきたぜ、とこぼすディアッカに、しかしラクスは微笑みを崩さない。
「無関係ではありませんわ。お答え下さいな、ディアッカ」
「…」
 やれやれ、と溜息をついて、足を組みかえる。
「ザフト対地球連合軍。つか、コーディネイター対ナチュラル、だろ」
「…これについては、ほとんどの方がそうお答えになりますわね。稀なものでは、地球対宇宙だというご意見も伺った事がありますけれど。 …でも、結局わたくしと同じ意見を下さる方とは、巡り合えておりません」
「…? お前は何だと思ってるんだよ」
 彼女はやはり笑顔を崩さず、きっぱりと告げた。

「親の子殺し、子の親殺し」

 可愛らしい顔からとんでもない言葉が飛んできて硬直したディアッカに、ラクスは静かに続ける。
「己の生み出した子を恐れ、利用し、支配しようとする親たるナチュラル。新たな種として生まれ、自分より能力の劣る親を蔑み、 はいつくばらせようとする子、すなわちコーディネイター。……わたくしの眼には、そう見えます」
「……………」




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
すいません、海原バカなんで難しい話苦手です。
考察の甘いところは勘弁してやって下さると嬉しいです。
……………。
えー、2003/07/12、このへんで喚いていた事は見苦しかったので緊急削除しました(^^;)
大変失礼いたしました。
……………。
あの、そういえば血のバレンタインは開戦(宣戦布告?)から三日後の事だった、
ってどっかの資料か何かで見た気がするんですけど、これって公式設定として正しいんでしょうか…。