BRING ME TO LIFE
第十一章・天使の旅路
(1)
凍り付き張り詰めた空気をなんとかしようとは、ディアッカは思わなかった。
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてあの世行き。しかもこの二人が相手では、しゃしゃり出たなら間違いなく確実に殺してくれそうだ。
なので、うっかり妙な事は口走らないようにイザークの横に間を空けて座り、ただ黙っていた。
十時五分前。
ピピッとルームコールが鳴って、ニコルに連れられたキラが入ってくる。
「…さ、キラさん」
既に待ち構えていた三人に注目されてたじろぐキラに、アスランの隣へ座るよう促す。
基地の女性兵士から私服を借りたキラは、ジーンズにタートルネック。アスランが刻んだ傷跡やキスマークを、しっかりと隠して。
…女性としての身体のラインがくっきりと見て取れて、一瞬アスランもイザークもはっとしてしまった。
「…………」
華やかな色合いの服とは裏腹に沈んだ表情のキラ。ニコルに誘導されるまま、躊躇いがちにアスランの座る椅子の奥に座る。
ニコルはさりげなくキラの正面に回るように、イザークとディアッカの間に座った。
部屋の手前から、アスランとキラ。二人とテーブルを挟んで正面に、ディアッカ、ニコル、イザーク。
そんな構図で、対面の席は設けられた。
「………お前達の会いたがっていた、ストライクのパイロットだ」
睨み合っていても仕方がないと、アスランが口火を切る。
「氏名、キラ・ヤマト。年齢、十六歳。現在地球連合軍所属。階級は少尉」
「は〜い。質問質問」
ぴりぴりした空気の中で、わざと軽くディアッカが手を上げる。
「お前、なんで女なのに男ってことにしてんの?」
「………黙秘、します……」
隣のアスランからも射るような視線を投げられ、中央のテーブルの上をじっと見つめて告げる。
やれやれと肩を竦めたディアッカに、ニコルが小さく苦笑した。
「順を追って尋ねませんか。…アスランとは、お知り合いなんですよね」
「…はい」
「キラとは、物心ついた頃からずっと一緒だった」
硬い声で割りこむアスラン。
「母親同士が友人関係だったから、ずっと兄弟のように育てられた。月の幼年学校でも一緒だったし、卒業して俺がプラントに行く事に
なるまで、ずっと、ずっと親友だった」
「………」
語りながら牽制するような強い視線を投げかけてくるアスランを睨み返し、一瞬眉間に皺を寄せるイザーク。
お前の入る隙間などないのだと、そう宣言しているような視線に反発するように。
「そうなんですか?」
だが冷静なニコルは、そのアスランの言葉をキラに確認する。
「…はい…。アスランとは、四歳くらいの頃から三年前までずっと一緒で…友達、でした」
親友だった。友達でした。
…お互いに過去形でしか語れないことが切ない。
「つまりお前達は、いわゆる幼馴染ってヤツか」
今度はイザークが口を挟む。
「…はい……」
「それで。アスランはプラントに、お前はヘリオポリスに別れた」
「…はい」
「そしてお前はMSの操縦について訓練を受けた」
「え? そんなの受けてないよ」
突拍子もないイザークの言葉に顔を上げるキラ。
「いくらコーディネイターだからって、何の訓練もない一般人が初見のMSをあれだけの精度で動かせるわけないだろう」
「…そんなこと言われても…あれは、見よう見真似っていうのもあったし、学校で、MAや作業車の操縦についての授業はあったし…
だから、なんとなく動かせたっていうか」
絶句するイザークと、目を小さく見開くニコルと、肩を竦めるディアッカ。
「何となくであんだけのことされちゃ、オレ達立つ瀬ねェじゃん」
「…まったくですね…」
感嘆のようで、皮肉とも取れる言葉。キラはまた、視線を落としてしまう。
「では、あなたはどうして、ストライクに乗る事になったんですか?」
小さな沈黙の後、再びニコルが尋ねる。
「…アスランがプラントに行った少し後に、僕の家もオーブに、ヘリオポリスに移る事になって…」
「そもそもそこがおかしいよな。なんでわざわざ中立国なんかに行くんだよ。お前もプラントに来ればよかったのに」
早速口を挟んできたディアッカ。キラは困ったように小さく微笑した。
「僕は第一世代だから…両親はナチュラルだから、もし開戦したら…プラントでは暮らせない」
「それにしたって、お前程の腕のヤツがザフトに来りゃ、それこそエースパイロットの両親としてちゃんと保護されるだろ」
「僕は戦争は嫌だ」
そこは、はっきりとディアッカの顔を見て告げる。
「殺し合ったら平和になるなんて、間違ってるよ」
「ちょっと待って下さい、話が脱線してます。…それで、ヘリオポリスに移住して?」
「…、 …………」
冷静に話を見極めるニコルにはっと気付いて、一度口を噤む。
「……工業カレッジに通ってて、教授に仕事、手伝うように頼まれてて。それで学校が終わってから、モルゲンレーテに行ったんだ。
…そしたら突然、攻撃されて」
「オレ達のG奪取作戦だな」
「うん。奥に走っていく子を見つけて、放り出すわけにいかなくて、追って行ったら…そこに、ストライクがあった」
「…っておい、お前マジでそこで初めてMS見たとか言うなよ。ほんとはどっかで訓練とか受けたんだろ?」
「だから…受けてないって言ってるじゃないですか。そりゃ、テレビのニュースとかでは見た事あるけど、本物のMS見たのは
初めてだったよ」
おいおい、と真顔で肩を落とすディアッカと、溜息をつくニコル。
そして、初めて聞くキラ側の事情に、アスランも難しい顔のまま黙って耳を傾けている。
「そこが戦場になったから、すぐ彼女を連れて近くのシェルターに逃げたんだけど、そこはもういっぱいで、一人しか入れなくて。だから
僕は彼女を先に避難させて、隣のシェルターに逃げ込もうとしたんだ。そしたら、…戦っていた作業服の女の人が、向こうのシェルターは
もう扉だけだって」
「そしてお前は、その作業服の女を助けた」
静かに割りこむアスラン。
「地球軍の、味方をしたわけだ」
「あの時は、あの人が地球軍の軍人だなんて思わなかったよ!」
キッとアスランに顔を向けるキラ。
「モルゲンレーテの作業服着てたし、わけわかんなかったし! だから、モルゲンレーテの会社の人だと思って! そうしたら君が、
……ザフト軍のスーツを着た、君が…」
『………アスラン!?』
『っ、……キラ…………』
あの時の衝撃は、一生忘れない。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
あの時キラ、マリューさんの事どう思ったのかなぁ…。
みんなモルゲンレーテの作業服着てたし、襲われてるから応戦してるモルゲンレーテ社員、
くらいにしか思ってなかったよなぁ、きっと…。……多分…。
ああ、でもカガリが「地球連合軍の新型機動兵器」って言ってたんだっけ。
それじゃ、地球軍の人だって思ったのかな?
うーん、DVD見返して修正入れるかもしれません(^^;)