BRING ME TO LIFE
第十一章・天使の旅路
(2)
そうして。
マリューにコクピットの中へ落とされて、まだ現場近くにいたトール達を助けるために、成り行きでストライクのOSを書き換えて、
操縦して。
軍の最重要機密を見たという理由で拘束され、AAに乗り込む事になってしまって。
アスランと、今度はMS越しに再会。やはり彼だと確認して。
…成り行きのまま戦った。
あの時。
初めて、MSを撃破して………人を殺した。
そして―――――崩壊したヘリオポリス。
推進部が故障していた救命ポッドを回収し、避難民を乗船させた。その中にいたフレイという少女。
彼女に、憧れていた。
自分は、本当は男じゃなくて女。でも対外的には男として暮らしてきたから、その『男』の部分が彼女に惹かれたのも事実。けれど、
彼女をつい意識してしまうのは、本来の『女』の部分が彼女に憧れを抱かせたからだと思う。女性として、彼女の女らしさに。
アルテミスの崩壊。ユニウスセブンで物資を補給し、感謝と追悼の紙花を捧げ祈った。そこで救助した、ラクス・クライン。自分を
コーディネイターとしてではなく、一人のひととして受けとめてくれた彼女への感謝と好意。
フレイの父親の乗る艦を、守れなかった。
責められる。同じコーディネイターだから本気で戦ってないのだろう、と。
「…きっつい女だなぁ」
おおいやだ、とでも言うかのように、ぼそっとディアッカが零した。
ラクスを人質とした事をよしとせず、彼女を帰そうと決意。友人の協力を得て、イージス…アスランとの合流を果たす。
お前も来いと言われた。けれど、首を縦に振ることはできなかった。AAには、守りたい友達がいるから。
それが意味するものは――――――アスランとの決別。
第八艦隊との合流。フレイの志願。紙花をくれた少女。
…撃ち落されるシャトル。
「………」
イザークは複雑な表情で、視線をキラから外す。
守れなかった…指の隙間から零れ落ちた命。
その重圧に手を差し伸べてくれたフレイ。癒してくれた、フレイ。
砂漠に落ちたAA。バルトフェルド隊との戦いと、レジスタンスにいた少女。それはヘリオポリスで助けた少女との再会。そして。
バルトフェルドに、捕えられた。
「……………そうだったんですか…」
終わりを迎えた話に答えるように、ニコルが呟く。
「…本っ当に、要領の悪いヤツだ」
真面目な顔でそう言われて、困ってしまう。キラは小さく視線を机に落とした。
呆れているディアッカの正面で、アスランは険しい表情のまま、キラから視線を外している。
…これが全てではない。
キラの旅路は、これが全てではないはずだ。大きな流れは話の通りでも、そこには端折られたエピソードがいくつもある筈。
そう、たとえば例のキスマークを残した男とのロマンスとか。
「………まだ疑問が全て晴れたわけじゃないぞ」
今度はイザークが言葉を投げかける。
「お前、本当にGを動かす訓練を受けてないのか」
「うん」
「MSに乗った事もなかったと言うんだな」
「うん」
なんだかなぁ、とまた小さく溜息をつくディアッカ。
「……………もう一つ聞きたいことがある。あの時、お前がこの傷をくらわせた時のお前の戦い方は、突然尋常じゃなくなった」
「っ……」
びくん、とキラの身体が震える。
「あの力はなんだ。お前は一体、何者なんだ」
今朝と同じ言葉。でも、違う問いかけ。
「………」
何者、と言われても。
どう答えていいのかわからず、ますます俯きこんでしまうキラ。
………昔ならこんな時、アスランが助けてくれたけど。
もう、彼には縋れない。甘えられない。
「な…んて言ったら…いいのか、わからない…けど…」
それでもぽつぽつと、自力で言葉を紡ごうとするキラを、イザークは待った。
「………何か…何かが、僕の中で弾けるような感じがして、そうしたら、急に体が速くなるような、意識が速くなるような感覚がして、
…自分が自分じゃないみたいな…」
「トランスしちゃってるってワケか」
要約するディアッカに、キラは複雑に小さく頷いた。
「バルトフェルドさんには、そう言われた。あと、バーサーカー…とも…。だけど……よく…、わからないんだ…自分でも…」
やはり、秘められた才能だという事なのだろうか。
「…わかった」
辛そうに眉を寄せるキラを気遣ってか、それとも自分が納得のいくようなはっきりとした答えを得られそうにないと悟ったからか、
イザークはそう言うと椅子の背にもたれた。
「そういやさ、お前が女だって事、秘密にしてたんだろ?」
「あ…はい。ずっと、…アスランにも…秘密にしていました…」
気まずく、アスランから顔を伏せるキラ。
アスランの表情も、一段と冷めたものになってしまう。
「ヘリオポリスのIDも地球軍のIDも男扱いって事は、お前のこと知ってるヤツって、マジで家族以外全然いないわけ?」
「…あ、いえ、一人だけ」
「時間だ」
フレイの事を話そうとしたキラの声を打ち消すように、アスランが立ち上がった。
「捕虜との面会はこれにて終了とする。これ以後、面会を希望する際は俺を通してもらう」
「なっ、ちょっと待て!」
冷たく言い放つアスランに、イザークも立ち上がって噛み付く。しかし。
「この後クルーゼ隊長との定時連絡がある。捕虜に関して何か要望があるなら、俺から隊長へ伝えておく」
「何!?」
「ちょ、ちょっと、突然どうしたんだよイザーク」
自分が出る幕ではないだろうと思いながらも、仲裁に入る様子のないディアッカとニコルの様子に、キラが立ちあがった。
「面会にお前の許可を取れ!? どういうつもりだ!! 捕虜の身元引受人がお前一人になるからって、そんな勝手が通用すると
思ってるのか!!」
「え…一人って、ラクスは…」
「聞いてないのか? 歌姫様は今日の午後、一人でプラントに帰るんだぜ」
「っ…」
ラクスが、帰ってしまう?
詳しく話を聞こうとディアッカへ身を乗り出したキラの腕を、アスランがぐいと引いた。
「!」
「現在捕虜の身元引受人は俺だ。俺が、キラ・ヤマトの身柄を一任されている。文句は言わせない」
「貴っ様ァ……っ!!」
「以上で面会を終了、解散とする」
一方的に言い放って、キラを無理矢理引っ張って部屋を出ていく。
「…まったく…困った人ですね」
誰にともなく、ニコルが呟いた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
…これだけ全部喋っても、AAの内部の詳細とか、
そんなのはのらくらとかわしてたんだろうなぁ。