BRING ME TO LIFE
第十一章・天使の旅路
(3)
「…………アスラン…っ!! アスラン、痛いよ! ちゃんとついていくから、…放してよ…」
こちらを見ようともせずにずんずんと進んでいくアスランに訴えるが、一向に態度の変わらない彼に、口調は弱まる。
彼はキラの部屋に入り、部屋をロックして、それからやっと腕を解放した。
「………」
強い視線。冷たい視線。
………心が、痛い。
アスランが何を考えているのか、キラにはわからなくなっていた。
尋問じみた面会だったけれど、とにかく事情を話して、自分の置かれていた状況をわかってもらいたいと思ったのに、彼の態度は
変わるどころか、ますます硬化したようにも感じる。
いたたまれずアスランから視線を外し、部屋の奥へとぼとぼ進む。
…と、部屋の隅に置かれたスーツケースが目に入った。
そういえば、これからは同室だと宣言されたのだった。面会の間に荷物を運び込むと。
「………あの、アスラン…、……君も、この部屋を使うって……」
「ああ」
やはり冷たい声。
「…って…あの、まだ荷物…」
「俺の荷物はあれだけだ。これ以上搬入するものはない」
ぎくり、と体がかたまる。
搬入するものはない…と言われても、この部屋にはベッドは一つしかない。
では彼はどこで寝るというのか。ベッドの変わりになりそうなソファなど、あるわけがないのに。
それでは、……………………まさか。
彼が、ゆっくり歩み寄ってくる。
強い視線。…射抜くような、捕えるような、奪うような。
「あ……っ、そ、それじゃ僕…床で寝ればいいよね……」
「………」
視線を外しながら慌てて言うキラを、アスランは無言で睨み付け。
―――突然強引に抱き寄せて唇を塞いだ。
「!!」
体を震わせて、逃れようと腕を突っ張る。
だが、彼はそれを許さなかった。
「んっ…ん…………、っ………!」
相変わらず乱暴なキス。
奪うだけの。犯すだけの。
逃れようとアスランの腕を掴むが、それを押しどかそうとする前にキスの刺激に神経細胞が犯されきってしまって、力が上手く入らない。
「んっ………、!! い、いやだっ!」
アスランの唇が、そのまま耳朶を攻め始めた。
タートルネックの裾から手が潜り込み、簡単に胸の膨らみを捉えてしまう。
「アスラン!! アスラン!!! やめてよ!!」
どんなに叫んでも聞いてはくれない。目の端に涙が滲んでも、その手を止めてはくれない。
「っ!!」
しゃにむに彼を突き飛ばして、反動で自分は床に倒れ込んでしまう。
二人の荒い息だけが、部屋に充満する。
「………っ、ちぃ…っ…!!」
吐き捨てるように零して、アスランは踵を返した。
内側からロックを解除するためにIDカードをスリットに通し、暗証番号を入力して扉を開き、外からまたロックをかける。
「……なん…で……!?」
また、涙が溢れてくる。泣きたいわけでもないのに。
わからない。
アスランが、一体何を考えているのか。
ただ、一方的にぶつけられる怒りが辛くて。
怒りをぶつける手段も、あまりに彼らしくないから。
だって。
だって彼は、僕のことを好きなわけじゃないのに。
例えば好きだったとしたって、それは『幼馴染だった昔の友達として』であって、……自分のように『恋愛』として『好き』なわけじゃない。
そんなこと、あるはずない。
あるはずがない。
それなのに……どうしてこんな事をするんだろう?
―――――わからない。
外に出るなり、壁に拳を打ち付けた。
ぎりっと拳に力が込められてゆく。爪が、手の平に食い込む。
泣かせたいんじゃない。怯えさせたいんじゃない。
だけど。
――――――キラが好きな男は俺じゃない。
自ら秘密を明かす程に彼女の心を占めている男は、俺じゃない。
それを認めたくなくて、その男の話など聞きたくなくて、無理矢理彼女の言葉を遮って面会を終了させた。
実際に予定の時刻は迫っていたとはいえ、公私混同以外のなにものでもない行為。
キラが秘密を自ら打ち明けた相手は俺じゃない。
キラが特別な感情を向けるのは俺じゃない。
俺はキラの瞳に映らない。
どんなに、どんなに想っても。
キラにとって俺は、ただの昔の友達でしか、ない。
それが許せなくて、認めたくなくて、辛くて。強引に想いをぶつけてしまう。
一番、最低な方法で。
「…くそぉ…っ…! ……キラ………………!!!」
苦しい。苦しい。苦しい。
こんな思いをするくらいなら、プラントへ移らなければならなくなった時、無理矢理キラを連れていってしまえばよかった。最初に
ストライクを捕獲した時に、何があっても離さなければよかった。
…そんなことを今更悔いても、時間が戻る筈もない。
せめてキラへの想いを絶ち切ってしまう事ができたら。
………絶ち切る?
…できるわけがない。今までずっと、諦めることも捨てることも、忘れることもできなかったのに。
むしろ、自分でも制御できないくらい膨れ上がる一方だというのに。
そう。キラを傷つけてでも力尽くで手に入れようとしてしまう程、膨れ上がる一方だというのに。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
…アンタ達、二人共お互いにちゃんと話をしなさいよ。
勝手に思い込んで決めつけてないで!!
……という感じです。
って書いたヤツが言うなよ!! ってツッコミも来そうですが(^^;)