BRING ME TO LIFE
第十二章・歌姫との別れ
(2)
その頃、通信室では。
「―――以上の点から、捕虜キラ・ヤマトは心身ともに衰弱状態にあり、早急に然るべき医療処置を施す必要性が認められます。報告は
以上です」
「ふむ。了解した」
相変わらず仮面の下に表情を隠した上官に対し、淡々と報告を行うアスラン。
「隊長、捕虜のヴェサリウスへの送致日程は、まだ決定しないのでしょうか」
「…その点だが、アスラン。君達には捕虜と共にもうしばらく地上に待機してもらう」
え、と小さくアスランが表情を変えた。
「…、では、イザーク達は…」
「イザーク、ディアッカ、ニコルの三名についても同様だ」
「しかし、それでは」
「宇宙の事は心配しなくてよい。それより、評議会からの決定事項を伝える」
「…、はっ」
「捕虜キラ・ヤマトの身柄について、オーブの特別平和大使が引き取りを求めている」
「は?」
突拍子もないクルーゼの言葉に、思わず一瞬疑問の形に眉がよってしまった。
「彼は元々オーブの国民だろう。それが戦闘に巻き込まれ、コーディネイターでありながら、ナチュラルの友人を守る為に地球連合軍へ
志願した。…ナチュラルと相容れるコーディネイター。ナチュラルと手を取れるコーディネイター。そんな彼を、この大戦の平和的解決の
糸口となりうる重要人物として保護したいというのが、大使の言い分だ」
「…そんな、無茶苦茶な…」
「非常識な申し出には違いない。そもそも、オーブが地球軍の戦艦やMSなど建造したのが、今回の件の発端なのだからな。だがこの平和
大使の代表者は、だからこそ我々がその幕引きを行うべきだと主張している。そして、この戦争そのものをも平和的解決へと導きたい、
とな」
「………」
うっかり眉間に盛大な皺を寄せてしまいそうになって、寸前、通信とはいえ上官の前だと己を引き締める。
その平和大使代表とやら、言っていることはご立派だが、どうも理想主義というか、青臭いというか、…本当にそんな事が可能だと
思っているのだろうか。しかもそこにキラを引き合いに出すとは、どういう神経をしているのだろう。
アスランも基本的に戦争は嫌いだ。好き好んで戦いに身を投じているわけではない。だが、血のバレンタインによって綺麗事だけでは
何も守れない事も思い知らされている。
平和的解決など、夢でしかない。…そう、思い知らされている。
正直に言って…苦手なタイプのようだな、と咄嗟に思ってしまった。
「現在この特別平和大使八名がそちらへ向かっている。大使と合流し、彼らと共に捕虜を連れてヴェサリウスへ帰還せよ。大使一行との
合流を確認後、改めて捕虜送致日程を検討する。これが評議会からの指示だ」
「は!? …特別平和大使を、ヴェサリウスに…ですか!?」
今度こそ勢い良く問い返してしまったアスランを、荒れるモニターの中の仮面の男は手で制する。
「…君の疑問はもっともだ。だが、…政治にはいろいろと駆け引きが必要なのだという事は、君が一番よくわかっているだろう」
「………」
兵士ならば、いかにして敵に勝つかを考えていればいい。
だが、国を治める政治となると、それだけというわけにはいかない。それは父の姿から、よく思い知らされていたつもりだ。
となると、…これを機に、あわよくばオーブを取りこもうというのだろうか。
確かに本土にあるマスドライバーとモルゲンレーテ、それにオーブ自体が持つ様々な技術は魅力ではあるが、頑なに中立を主張する
オーブを、キラ一人の存在だけで左右できるものなのだろうか。
「オーブから送られてきた特別平和大使のデータを送る。基地責任者に話を通して、彼らを迎え入れる体勢を整えておくように」
「は…、はっ」
「それから、アスラン・ザラ、ニコル・アマルフィ両名から申請された件、ラウ・ル・クルーゼが承認した。拘留中キラ・ヤマトに対する
医療行為は全てニコル・アマルフィに一任する」
「了解しました」
これでキラがザフト軍の捕虜となっている間はニコルが彼女の主治医になる。
…逆に、例えば自分がキラの保護権を失っても、捕虜として拘留されている限り、ニコルはキラの主治医として堂々と傍について
いられる事になる。
「以上だ。三分以内に特別平和大使のデータを送信する」
「了解」
ぶつん、と。
あまりにもあっさり、通信は切れた。
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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ああ。
仮面隊長が出て来ても難しい話になるのね。
うう。
…とりあえず。
こういう話(平和大使の主張)をこの頃のアスランが聞いても、
こんな感想しか抱けなかっただろうな…という感じです。