BRING ME TO LIFE
第十ニ章・歌姫との別れ
(3)
ウィス大会と昼食会を経て、キラ達はすっかり打ち解けていた。
突然アスランに強姦された事で萎縮してしまっているキラだが、本来は人懐こく、誰とでもすぐ仲良くなれる性質。イザークや
ディアッカがキラを受け入れさえすれば、打ち解ける事は難しいことではなかった。
…過去、人との関わりを拒絶したこともあったが、それもやはり、アスランが関係していたからで。
「でもさー、今でこそこうやって和んでられっけど、お前がミゲル殺したことは変わんねぇんだよな」
何気なく零されたディアッカの言葉に、キラの表情は一瞬曇ったが。
「あら、仲が良いのはいいことではありませんか。それに、あなたも戦場で人を殺してきたのでしょう?」
にっこり笑った歌姫の一言に、その場は別の意味で凍り付き、そしてニコルによって話題はすぐに変えられたのだった。
そして突拍子もなく。
「なあキラ。お前ってまだ彼氏できたことないだろ」
「………は?」
またもやディアッカが、そんな事を尋ねてくる。
「アスランとも付き合ってたって雰囲気じゃなかったし、そもそもお前が女だってこと、アスランも知らなかったんだろ?」
「う、うん…まあ…そうだけど…?」
「…だってさ。ガンバレよ」
悪戯っ子のような表情でウインクなどしてくるディアッカを、イザークは遠慮なく睨み返した。
その様子に、ニコルとラクスはクスクス笑っていて。
そしてキラは、よく状況がわからずにきょとんとして取り残されてしまう。
特別平和大使を基地内へ受け入れる為に、アスランはあれやこれやと仕事を行っていた。
だが、一応まだ婚約者であるラクスの見送りには顔を出さなければと、シャトル連絡口のある棟へと向かう。
シャトルへの乗り込み連絡通路の前には、ラクスの他に何名かの護衛兵と、ディアッカ。それにイザーク、ニコル、キラの姿も。
「キラ!?」
部屋に閉じ込めてきた筈のキラが何故そこで皆と和んでいるのだろう。アスランはその名を呼ぶと、迷わず駆け寄る。
びくっと怯えるキラと、キッと睨み返すイザーク。
「お前、一体誰の許可を得て部屋を…」
「ああ、僕です」
にっこりと微笑み小さく手を上げながら、さりげなくキラの前に出て盾になるニコル。
「ニコル、お前!」
「部屋に閉じこもっているのはよくないと思って、みんなで昼食を摂って、ラクスさんの見送りに来たんです。医師同伴ですから、
問題はないでしょう?」
「………」
穏やかな笑みではあるが、妙に牽制されているような気分になるのは何故だろう。
「…確かに、クルーゼ隊長からお前をキラの主治医にする件は許可が下りた」
「本当ですか? だったらますます問題ありませんよね」
「それでもまず俺に一言あって然るべきじゃないのか」
「こういう場合、身元引受人より主治医の判断の方が優先されると思いますけど」
譲らない。
意志の強さなら、ニコルはここにいる誰にも引けをとらない。
優しくて穏やかなその気性に騙されてしまいがちだが、彼は弱くはないのだ。
「丁度よかった。僕、キラさんの事でアスランに話があったんです。イザーク、その間キラさんと散歩でもして、彼女に外の空気を
吸わせてあげて下さい。ラクスさんの見送りには、ディアッカが残ればいいですよね」
てきぱきと役割分担を決めてしまって、ニコルはぐいっとアスランの腕を引いた。
「ちょっ、おいニコル!!」
「それじゃ皆さん、あとよろしくお願いします。ラクスさん、またお会いしましょう」
「ええ。ニコル様、キラとアスランをお願いしますわね」
「任せて下さい。それでは」
「ニコル! お前一体…」
流石に眉間に皺を寄せてニコルの腕を振り払おうとするアスランだが、ぐっと固定された腕は容易に外せそうにない。
笑みの消えた強い瞳が、見つめ返してくる。
「…冗談じゃないんです。アスラン」
はっきりと。
彼にだけ聞こえる音で。
「……………」
「…それじゃ、失礼します」
一転、いつもの穏やかな表情に戻って、ラクスに会釈。
ラクスもにっこり微笑んで小さく手を振り返し、ハロが「ハロハロッ、オマエモナー」と返事を返す。
結局アスランは、ニコルに引っ張られるようにして行ってしまった。
四人の微妙な短い沈黙を破ったのは、ラクスの上品な笑い声。
「アスランは本当に、しかたのない方ですわね」
やれやれ、とディアッカが肩を竦める。
「…あ、いけない。忘れてしまうところでしたわ。キラ、あなたのプロテクターはお部屋に運んでもらうように手配しておきましたから」
「あ、ありがとう」
「でも、できればさらしを使ってくださいね」
「……努力するよ」
困って苦笑いになってしまうキラ。結局もらったさらしは駄目にしてしまったし、どの道手元にあったところで、自分では上手く巻けた
試しがなかったから。
「そういえばお前、着替えが無いとか言ってたな」
「え? うん、まあ…」
「…よし」
すっ、とキラの手を取るイザーク。
「近くにザフト勢力下の小さな街がある。そこで何か調達して来るぞ」
「えっ!?」
「まあ、ショッピングですか? キラ、プラントにいらっしゃったら、わたくしともお買い物に行きましょうね」
「あ、うん。ってそうじゃなくて!」
だから、僕は捕虜なんだってば!! みんな忘れてない!?
と訴える瞳が可愛くて、思わずディアッカは笑い出してしまう。
「ま、ゆっくりデートしてこいよ。たまにはアスラン以外の男もいいぜ?」
「はっ!? な、な、何っ」
「ではキラ、ごきげんよう。またお会いしましょうね」
「あっ、うん! ラクスも、気を付けてね」
「ええ。ありがとうございます」
「行くぞ、キラ」
繋いだ手が引かれて、小走りについてゆく。
そんな二人を見送って、ラクスとディアッカはクスクス笑っていた。
「ね? わたくしがキラを好きな理由がおわかりになるでしょう?」
「んっとにな。マジ小動物系? つーか、あいつのトモダチって連中も気付けよって感じだよな」
「ハロハロッ、オマエモナーッ」
結局ラクスの搭乗時間ギリギリまで、キラトークに花を咲かせてしまう二人だった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ザフト勢力下…っていうか、親プラント国家の領地が近いんでしょうね。
この基地、一応地球軍との小競り合いの最前線に当たるはずだし。
そう、キラの言う通り、捕虜一人にかまってる場合じゃないハズなんですよ、ほんとは(笑)
でもまあ、このへんの小競り合いは、前に出てきたようにお互い利用しあってるっていう感じなので、
あまりマジメな戦いではないというか。
ひょっとしてクルーゼはそれを知っていて見越した上で、
キラをジブラルタルやカーペンタリアじゃなくてこっちの基地に拘留しているのかもしれません。
そこまで考えてなかったけど(←おい!!!)
…しかしそれにしてもすごい説明セリフだなこのイザークの発言(−_−;)
とっほっほ〜…海原の未熟者〜…。