++「BRING ME TO LIFE」第十三章(1)++

BRING ME TO LIFE

第十三章・錯綜する想い
(1)









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 イザークに連れてこられたのは、確かに小さな街。
 けれど、衣服を調達するのに困るような事は無かった。

「好きなのを選べ。オレは女の服はよくわからん」
「……って言われても………」
 洋服屋に入るなりそう言われても、キラは困ったように固まってしまった。
「僕、お金持ってないよ」
「オレが持ってる」
「えっ、そんなの悪いよ」
「いちいち細かいことを気にするな」
 有無を言わさぬ勢いでびしっと言われ、ぐっと引いてしまうキラ。
 店員がクスクス微笑みながら、二人に近付いてきた。
「お客様、よろしければお見立てしますわ」
「え? いえ、あの」
 戸惑ってしまうキラだが、そのまま店員につかまって、あれこれと服を勧められる。

 服がなければ困るのも確か。結局イザークの言葉に甘えて、いつもの自分の趣味で何点か選んでしまった。

「ごめんね、イザーク」
 帰り道でそう呟いたキラに、イザークは小さく溜息をついた。
「しつこいぞ。気にするなと言ってるだろう」
「でも、結局お金出してもらっちゃったし…」
「オレがいいって言ってるんだから、いいんだよ」
「……」

「こっちだ」
 ぐいと腕を引かれて、来た時とは違う道へ連れて行かれる。
「あれ? イザーク、道が…」
「ああ。ニコルが少し外の空気を吸って体を動かした方がいいって言ってたからな。散歩して帰るぞ」
「あ、…うん。…荷物、僕が持つよ」
「いいから」
 紙袋を取ろうとするキラを、じっと見つめ返す。
「…」
 綺麗なアイスブルーの瞳に説得されて、手をひっこめてしまう。



 度々戦闘が繰り返される場所では、手放しに「いい景色」と言うわけにはいかなかったが、それでも基地の敷地内よりは日常らしい 風景が続いていた。
 ふわりと乾いた風がキラの髪をさらって、乱れた髪をなおそうと細い指がそれを梳く。

「…お前、逃げないんだな」
 彼女のあまりにも穏やかな表情に、思わず口からついて出てしまって、はっと口元に手をやるイザーク。
 言うつもりはなかった。これを言えば、キラは必ず。
「え? 逃げるって?」
 …と尋ね返してくるから。
 こうなると、何でもないから忘れろ、と言ってもきかないだろう。
 一つ息をついて心を決め、立ち止まってキラをまっすぐに見る。
「……足付きの事が気にならないのか?」
 はっとしたキラも、足を止めた。
「今ならオレを振り切って逃げることも、出来るかもしれないんだぞ」
「逃げるって…。そんなことしたら、イザークに迷惑がかかっちゃうよ」
「それでも、幼馴染のアスランと戦ってでも守りたかった連中なんだろう。オレの迷惑を考えてる場合か?」
「………」
 キラの顔が、どこか淋しそうに伏せられる。
「…まだ…同じ場所にAAがいるとは、思ってないよ。向かう場所は分かってるけど…今の僕にはストライクどころか、車もないんだよ?  今から追い付くなんて、どうしたって無理だよ。それに、イザークにも、みんなにも、…アスランにも、迷惑がかかるから…。……逆に、 もし追いかけたとして、僕を追跡されてAAの場所が知られちゃったら困るなっていうのも、あるんだけどね」
 小さく苦笑したキラに、イザークもふっと表情を緩める。
「…なんだ。結構したたかに計算してるじゃないか」
 軽く言って、再び歩き出す。
「計算っていう程大袈裟なものじゃないと思うけど、………」
 イザークを追うように歩き始めたキラ。だが、ふっと何かに気付いたように辛そうに眉を寄せて、口を噤んだ。
「…どうした」
「ううん、…何でもない………」
「それが何でもないって顔か? いいから言ってみろ」
 できるだけ優しく語り掛ける。ニコルが言ったように、キラが怯えないように。
 そんなイザークの思い遣りが届いたのか、キラは顔を正面まで戻し、小さく息をついてから、やはり小さな声で零した。
「…イザークに服買ってもらったなんて言ったら…アスラン、また怒るのかな…って…」
「………」
 ムッとして、思わず眉間に皺が寄ってしまう。
「あいつ、そんなことでいちいち突っかかってあんなことするのか?」
「え? あんなことって…」
「…襲われかけてただろうが。あの時」
 はっと気付いて肩が震える。そして、複雑にまた地面へ視線を落としてしまうキラ。
 あの時とは、今朝の事だろう。
 イザークが食事を持ってきてくれて、話をしていたところに彼が現れ、イザークが部屋から出て…そうしたら、話してる内にまた乱暴 されそうになって。

「……………」
 微妙に重い、沈黙。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
しつこいようですが。
このお話は『アス×キラ(イザ→キラ、ニコ→キラ含む)』です。
イザ×キラ派の方には申し訳ないですが、「→」が「×」にはなりません。
イザ×キラ話は別に考えてますので(予告編「冷たい海」)、そちらの連載開始をお待ち下さい。
……できれば気長に待っていただけると嬉しいです(^^;)