BRING ME TO LIFE
第十三章・錯綜する想い
(2)
「…キラ。お前、オレのところに来い」
「えっ?」
基地の出入り口に近くなってきた頃、不意にイザークが口を開いた。
「お前は捕虜だから、今は国防委員長の息子であるアスランに任されてるんだろう。だが、お前はコーディネイターには貴重な女性だ。
しかも…その、オレ達の仕掛けた戦闘に巻き込まれて、地球軍側に拾われたって経緯になるわけだろう。そうなったら、国防委員会による
処分という形じゃなく、法務委員会の管轄下で処遇を決められるはずだ。…法務委員長のエザリア・ジュールは、オレの母親だ」
「…え、あの…イザーク、それって…」
「オレがお前の身元引受人になるって言うんだ。そうすれば、お前はヤツから解放される」
「解放…って、そんな…大袈裟だよ」
小さく笑って顔を背けるキラ。
だがイザークは誤魔化されず、ぐいっとキラの腕を掴んで立ち止まった。
「……このままで、いいわけないだろう」
「…イザーク…」
「あれが幼馴染に対する態度か!? あんな一方的な扱いがあるか! 理不尽だと思わないのか!? 自分のことだぞ、キラ!!」
真剣な瞳。
本当に、自分を心配してくれているんだと解る、真っ直ぐな眼。
けれどキラは、困ったように微笑して、小さく俯いた。
「だって…アスランが怒っても仕方ないような事を、僕はしてきてるから…」
「地球軍に居た事なら、さっき釈明しただろう!」
「そうじゃなくて。…ううん、それもだけど……女だって事、隠してたから…。ずっと、嘘ついて、騙して、………」
「…………」
不意にキラの言葉が止まり、口元が固まる。
小さく、華奢な肩が震え出す。
「…ず…っと……騙してた……誰より一緒にいたのに、ずっと、一番近くで支えてくれたのに、…そんなアスランを…騙してたんだ、僕は
………アスランが怒るの…当たり前だよ………」
頬に涙の筋が描かれた。
「……」
そのまま、地面にぽろぽろと水滴が落ちてゆく。
アスランが何を考えているのかわからない。
でも、一つだけはっきりしてることがある。
…彼は、怒っているんだ。
ずっとずっと騙してきた自分に。
長い時間を共有していながら、その裏で彼を欺き続けていた自分を、怒っているんだ。
こんなことになるなら、彼にだけ、両親に内緒で知らせてしまえばよかった。
…今更そう思ってみたところでどうしようもなくて。
そして再会してからも、彼が差し出してくれた手を、ずっと、ずっと払い続けてきた。例え友人を守るためだったとしても、結果だけ
見ればその事実は変わらない。
ずっと一緒だったのに、突っぱねて、騙し続けて。
………アスランが怒るのは当たり前だ。
不意にトサリと紙袋が地面に落ちる。
イザークが、声を殺して泣き続けるキラを抱き締めたから。
「……………」
驚いて、涙をいっぱいに溜めた瞳を見開くキラ。
「……だ、…だめ…だよ。アスランに見られたら、誤解されて、また…」
「ここは基地の外だぞ。こんなところにまであいつの目が届くわけないだろう」
「…でも…っ」
「キラ!」
ぎゅっ、と抱き締める力が強くなる。
「やっぱりオレのところに来い! 怯えきってるじゃないか、お前!」
「………」
イザークの腕の中で、小さく、でも確かに顔を横に振る。
「キラ!!」
ぐっ、とイザークの腕を押すキラ。
…彼は一瞬離すまいと腕に力を込めたが、それでもそっと逃れようとするキラに、仕方なく少し力を緩め、彼女を解放した。
「……………イザーク、忘れてる」
「何を!」
「僕は、地球軍の少尉だよ。そして、ザフトの人達を沢山…殺してきた」
「だから、それは…」
「どんな理由があろうと、現実は変わらないよ」
すっと上げられた顔。そこには、泣き止んで穏やかな表情があった。
「イザークのところにいるとか、アスランのところにいるとか、僕が決められる問題じゃない」
「……キラ………」
「………プラントでの、処分の決定に…従うよ」
僅かに微笑んだような、どこか悟ったようなその顔。アメジストの瞳はまだ涙の余韻で潤んでいたが、しかし。
そこに後ろ向きな翳りはなかった。
むしろ、これで償えるのだと…正当な贖罪の方法を与えてくれるのだと、安堵しているかのような穏やかさ。
イザークは、ただ立ち尽くしてキラを見つめることしかできなかった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
エザリアさんが法務委員長だというのは完全に捏造です。
公式では『ヒラの評議員』(スーツCD5・イザーク談より)だそうですが。
…でも国防委員ってのがあるんなら法務委員とか財務委員とか厚生委員とかもありそうじゃない?
と思って勝手にくっつけちゃいました。
エザリアさんってやり手そうだし。
本編で次週(第47話)出てくるようですが、何してくれるのか密かに楽しみです。