++「BRING ME TO LIFE」第十三章(4)++

BRING ME TO LIFE

第十三章・錯綜する想い
(4)









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 イザークに連れられて部屋に戻り、服を着替えて、扉の前で待っていた彼にに今まで着ていた服を渡す。
 元々の持ち主に、返してもらうために。
「多分また、ニコルが夕食にでも呼び出すだろう。それまで少し休んでおけよ」
「うん。ありがとう」
 微笑みを返して、イザークは扉の向こうに消えた。
 少しの間があって、ロックをかける電子音が鳴る。

 イザークに買ってもらった服の入った紙袋を部屋の隅に置いて、ベッドに座ろうとする。
 が、歩み寄ろうとしてぎくりと体が止まった。
 このベッドで、何があったか。………不意にアスランの事を思い出してしまったから。
 無理矢理自分を蹂躙した、冷たいアスランの瞳。
 面会の時に突き刺された、鋭い視線。
 その直後の、乱暴なキス。

「………アスラン……わかんないよ、もう………」
 君が、何を考えているのか。


 一体君は、何を思って…僕を………。


 怒っているのはわかる。
 ずっとずっと騙していた自分を怒っているのは、それはわかる。
 でも。
 その怒りのぶつけ方が、あまりにアスランらしくなくて。

 ……ひょっとして、と考えなかったわけではない。
 ラクスに対して恋愛感情が無いと言った、あの冷たい言葉が本当であるなら。

 ひょっとして…同じ想いを抱いていたのだろうか、と。
 それ故の暴走だったのだろうか、と。
 そんな考えが脳裏を掠めた事も、正直言って何度かある。

 けれど、そんなものは自分に都合のいい願望でしかない。ひょっとしてと思う度にそれを思い出して否定し、結局はまた、なぜ、という ところに戻ってしまう。
 そもそも自分はアスランにとって、ずっとずっと『男』だったのだから、恋愛感情などいだかれると思う方がおかしい。
 それに。
 昔からアスランは理知的な性格で、もっぱら大雑把に好き勝手やる自分を諌める役目を担ってくれていた。今も、彼のその性格は 変わっていないと思う。
 だから、自分が女だと知っただけで、突然自分への感情が友情から恋愛へ変わってしまうとは、ますます考えられない。

 昔の友達として、いろいろ心配してくれていたのはわかる。
 ヘリオポリスが崩壊した直後の戦闘で攫われかけた時、あの時の彼の行動は命令違反だったのだと、ニコルから聞いた。何度も、彼は 何度も自分を気遣い、こっちへ来いと声をかけてくれた。敵軍の制服に身を包む自分を。
 だがその友情も、あくまで『昔の友達だから放っておけないだけ』なのだと解釈していた。そう、彼は優しいのだから。…本質は、 とても優しいのだから。だからその『友情』が、性別が違ったからといってすぐ恋愛感情に昇華してしまう程に強烈なものだとは、とても 思えなかった。
 これは一方的な、自分だけの片想いだとしか思えなかった。
 幼馴染だから、放り出すに放り出せないのだと。彼にとっての自分は、それだけなのだとしか思えなかった。
 なぜなら、………なぜなら、彼は。








 キラとアスランの間にある、三年間の空白――――――。
 それが大きく深い溝となって、二人のすべての思いをくい違わせていた。


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 イザークの予想通り、ニコルが夕食に誘いに来て、四人で食事を摂った。
 まだまだ量は微々たるものだったけれど。

「あの、…アスランは?」
「ああ、アスランなら、まだ仕事中みたいですよ」
「…そうですか」
 ほっと溜息をついて、次の瞬間、顔が強張る。
 ………アスランが居ない事にほっとしている自分に気付いて。

 そんな自分が嫌だった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ちょっと長さが中途半端ですが、今回はここで。
次回がちょっと長めかな?
キラとアスランが再び修羅場です。