BRING ME TO LIFE
第十三章・錯綜する想い
(5)
部屋に戻り所在なくしていると、ピピッとコールが鳴って、荷物を持ったアスランが戻ってきた。
「…夕食はちゃんと摂ったのか」
つかつかと歩み寄られ、そう問われる。
「うん…。…アスランこそ…今までずっと仕事…?」
「ああ」
「……そう…」
小さく息をついて、ふとアスランが手に持っている荷物と、バインダーに気付く。
「…まだ仕事残ってるの? それは?」
「こっちは、ラクスからお前に」
渡された包みを広げると、…例の、プロテクター。
キラはほっと息をついた。
「…良かった…。ありがとう」
「それから、……これはお前に見せる為に持ってきた書類だ」
「え?」
顔を上げると、硬い表情のアスランが、バインダーから数枚の書類を抜いて、すっとそれを差し出した。
「ニ、三日中に、オーブから特別平和大使が来る。お前を、オーブに保護するために」
「…え、ええ!? 何それ、どういう事!?」
「そんな事、こっちが聞きたい。代表者のカガリ・ユラ・アスハ直々の指名だ」
「カ、カガリ……!? カガリが、代表!?」
「…」
慌てて受け取った書類に目を走らせる。一番上にあったのは、代表のカガリのデータ。
「えっ、オーブの元代表の娘!? カガリが!?」
「…俺に聞かれても困る」
「あっ……、……ごめん……」
不機嫌に返され、ハッと我に返る。
…きっとアスランは、この事も快く思っていないんだろう。
溜息をつきそうになってぐっとそれを止め、立ったまま書類をめくる。
ぱっと目に入った写真を見て、思わずきょとんとしてしまった。
「……………なんでアイシャさんまで…?」
首を捻って、また一枚めくる。
びくっと手が止まったのを、アスランは見逃さなかった。
「………そんな………」
だが、その表情は恋人の顔を見つけたような華やかなものではなく、困惑と不安。
「どうして…! フラガ少佐までAAを離れたら、みんなは……!!」
「………」
そんなに、AAが心配か。
ニコルはキラが無抵抗に留まっているのは俺のためだと言ったが、きっとそれは違う。
追跡されて、AAの場所を知られることを怖れているだけだ。
そうやって彼女は今も、ナチュラルを守っている。
ぐっ、と拳が握られた時、キラの表情が目に見えて変わった。
「………う……嘘………! みんな……!?」
ぱらり、ぱらりと書類をめくる音が続く。
そこには確かに、ヘリオポリスから一緒だった友達のデータが記されている。
そして―――フレイのデータも。
はっ、とキラの表情が変わる。
「………ほ…ほんとに……!? ほんとに…こんなところにまで……!?」
フレイが自分を利用している事は気付いていた。
その為に、自分が女だと知っても何も言わず、傍に居てくれたのだという事も。
自分は彼女の企みを知っていたけれど、それでも確かに彼女の存在に救われていた。
だから、彼女が憎むコーディネイターばかりのこの基地へ、コーディネイターである自分のために来てくれるという事が、無条件に嬉しかった。
彼女に心の底から拒まれていたわけではなかったのだ、と。
嬉しくて嬉しくて、顔がほころび、自然と涙が零れる。
「――――――っ」
突然、キラの持っている書類をアスランが弾き飛ばした。
「!」
びくっと震えるキラ。
部屋の中を、弾かれた紙がはらはらと舞った。
「…ア…アスラン……」
「そんなに!! …そんなにナチュラルの連中が大事か…!」
どこか苦しげな、でも確かな怒りをたたえるアスランの表情に、キラは思わずあとずさってしまう。
「ア…アス……」
「またあいつらのところに戻るつもりか! そうしてまた、俺と戦い合うのか!!」
ぐいっと腕を掴まれて、体が強張る。
「痛! ま、待ってよ、ちょっ……」
「俺よりナチュラルを選ぶのか!! キラ!!」
「……っ!!」
そのまま、抱き締められて。
勢いのまま、ベッドに押し倒された。
「…ア…スラ……ンっ、苦し………!」
ぎりぎりと締め付けるように抱き締められて、体が悲鳴を上げる。ただでさえ男女差がある上に、彼は軍人として訓練を受けている身。
首筋に顔を埋められて、その肌の感触と吐息にびくっとしてしまう。反射的にシーツを掴んだ。
腕が緩んだと思ったら、シーツを掴んだその手を無理に解かれて、アスランの背中へ降ろされた。
再び体を抱き締められ、耳に頬をすり寄せられて、思わず彼を抱き締め返してしまいそうになる。
「っ………」
だが、キラにはそれはできなかった。
例え彼が自分を抱いたとしても、それは決して愛によるものではないと、そう思っていたから。
だから、縋ることはできなかった。
震える腕を無理矢理シーツに落として、またそれを掴む。
どうしたって俺を拒むのか。
キラのその動作に、アスランはますます追い詰められてゆく。
「………渡さない………」
折れよとばかりに抱き締めて体重をかけ、ベッドへ押し付ける。
「渡さない…!! ナチュラルどものところへなんか、二度と帰すものか!! そんな事、絶対に許さない!! お前はっ、ずっと俺の
傍にいるんだ!!!」
「…………っ」
アスランの叫びを耳元に聞いて。
―――その苦しげな声と内容に、キラの中で溜まっていたアスランへの疑問が、不満が、不安が、恐怖が、心に澱んでいたものが、
張り詰めていた何もかもが、―――――すべてぷつっと音を立てて切れた。
「いい加減にしてよっ!!!」
叫んで、逃れようと暴れ出す。
「アスラン、わけわかんないよ!! 今更どうしてそういう事いうんだよ! ずっとずっとほったらかしにしてたくせに!! ずっと、
無視してきたくせに!!」
キラの突然の剣幕に、アスランもつられて更にテンションが上がる。
「ほったらかし!? 無視!? 一体何の事だ!」
「確かに僕はずっと君に隠し事してたよ!! 何年も女だって事隠して騙してて、それを怒るんだったら分かるよ!! でもっ、みんなを
守ろうとした事まで君にどうこう言われたくないっ!!」
「何!? まだそんな事言ってるのか、キラ!! お前はコーディネイターで、俺達の仲間なんだぞ!! ヘリオポリスでは仕方なかった
としても、もうこれ以上ナチュラルに味方する義理なんかない!!」
「ナチュラルもコーディネイターも関係ない!! 一番辛かった時、傍にいてくれたのは君じゃなくて、サイ達やフレイなんだ!!」
「―――っ」
ぎりっ、と噛み締められた奥歯が鳴る。
「君なんか、ずっとずっと僕のこと無視してたじゃないか!! どんなにメール送ったって、返事一度もくれなかったじゃないか! 通信
回線のコールかけたって、受けてくれた事なかったじゃないか!! 三年間ずっと!!」
だが、噛み締められた奥歯は、すぐに緩んでしまう。
「キラ!? 何言ってるんだ!?」
「ずっと!! 三年間ずっと、返事くれなかったじゃないか、君は!!」
「だから!! 何を言ってるんだ! 俺はちゃんとお前に連絡してた!! 返事をよこさなかったのはお前の方だろう!!」
「今更ごまかさないでよ!! 三年間ずっと、君は僕にメールの一通も、通信回線のコールだって、くれたことなかったじゃ
ないか!! なのにっ、なんで今更渡さないとか離さないとか、そういう事言うんだよ!! 勝手だよ!! 勝手過ぎるよ!!! わけ
わかんないよっ、アスラン!!」
「…っ……そんな、バカな………!!」
アメジストとエメラルドの瞳が、至近距離で睨み合う。
―――――アスラン。
―――――キラ。
ずっと君に、訊きたいことがあって。
再会したら、真っ先に尋ねようと思ってた。
『どうして三年間、ずっと連絡くれなかったの?』
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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
それぞれのサイト様で、この三年間については様々な解釈がなされていますよね。
ここでは、キラもアスランもお互い連絡し合っていたのに、それが互いに全く届いていない、という状態です。
ちなみに、キラはアスランがプラントに行ってからも、しばらくは月にいた設定になっています。
詳しくは今後出てきますので、少々お待ち下さい。
……しかし今回少々ビックリマークが煩いですね(^^;) すみません、見苦しくて…。