++「BRING ME TO LIFE」第十四章(1)++

BRING ME TO LIFE

第十四章・嵐を呼ぶ少女
(1)









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 目が醒めると、もうアスランの姿はなかった。
 その代わり目に入ったのは、…床に散った、壊されたプロテクターの残骸。

「…………………」

 あの後、派手な言い争いになって。
 返事をしたのしないの、コールをかけたのかけないのと、水掛け論でしかないのに。
 キレて暴れ出した自分は、咄嗟に手に取ったプロテクターを彼に投げつけて。彼はそれを取って、壊してしまった。
 こんなもの必要ないだろう、と。どうせナチュラルの友達とかいう連中も、知っているんだろう、と。
 そこからまた泥沼の口喧嘩になって。
 ………その後、結局アスランが部屋を出ていったことは、おぼろげに覚えてる。
 そして自分は、暴れ疲れて眠ってしまった。

 プロテクターは壊れ、さらしはない。
 この後ニ、三日の内に、カガリ達が来るというのに。
 …どうしよう。


 盛大に溜息をついたところに、イザークが朝食へと誘いにきた。


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 昨日あれだけ話しても同室を撤回しなかった男が、ケンカしたというだけで出てきた。
 やれやれと溜息をつきながら、アスランをじっと見るニコル。
「…何だ?」
「いえ。…あなたも色々情緒不安定なようですし、ちょっと検査してみますか?」
「俺は別に、検査が必要なことは…」
 と言っている間にアスランの腕を掴み、袖をたくし上げて小型の採血機をちくりと一刺し。
「血液検査も侮れませんよ。いろんな事がわかりますからね」
「……………」
 にっこり笑うニコルに、アスランは暗い顔で俯く。
 そんなアスランの凹み様に、うっかり二度目の溜息をついてしまうニコル。
「…それで、今度は何があったんですか?」
「………」



 冷静になって考えてみれば。
 ………自分のメールが、どこかで止められていた可能性は、ある。
 プラントに来て父と暮らすようになってから、…とはいうものの、実際に父と親子らしい交流はなかった。顔を合わすことのない日の 方が多かったくらいに。
 自分のことは一切執事任せにしておきながら、一方的にザラ家の子息としての思慮ある行動を求められ、厳格に生きることを義務付け られた。ご丁寧に、婚約者まで用意されて。
 特にパトリック・ザラは、月での交友関係にうるさかった。恐らくザラ家の恥になるような連中と付き合いがないかとか、そんな監視も されていたに違いない。
 だから。
 ひょっとしてそこで、キラへのメッセージが止められていた可能性はあるのだ。
 そして同じように、キラからのメッセージも。アスランのところまでとどく前に消されていた可能性がある。
 …父の気性を考えれば、可能性が高いどころか、充分有り得る話だ。
 だが、それを確認しようにも、ここからではどうしようもない。
 昔と違い、現在はNジャマーによって地球の電波状況は最悪な状態。その間隙を縫って宇宙となんとか交信しているような状況なのに、 地球から自宅のあるプラント首都『アプリリウス・ワン』にある通信記録のログを調査できるわけもない。
 キラ側のログを調査しようにも、ヘリオポリスはもう消滅してしまっている。IDや電子マネー等の重要情報は、オーブ所属の別の プラントにバックアップがあったようだが、さすがに個人の通信ログまではフォローされていないだろう。
 そして、自分達が九年間一緒にすごした月は、現在地球軍の宇宙戦の要。開戦前には、それでも中立区域としてコーディネイターが 普通に住むことができたあの場所も、今やすっかり地球連合軍の庭だ。
 自分の通信ログから調べるしかない。
 そして、せめてこの誤解は解きたい。

 そのためにも、いつまでもここにいても仕方がない。
 せめてヴェサリウスへ、早く移動したいのだが。
 …現状は相変わらず、評議会の決議待ち。



「…アスラン」
「……………いや。………お前に言っても、仕方がないから」
 そっと促すニコル。だがアスランは、それだけを独り言のようにこぼして、仕事の準備を始めた。
 やれやれと肩を竦めたニコルは、採取した血液のケースを鞄に放りこんで立ち上がる。
「溜めこみすぎはよくないですよ。体にも、心にも」
「ああ。分かってる」
 本当ですか? と更にもう少し言ってやろうと思ったが、そろそろ時間が迫っている。
「それじゃ、僕キラさんの診察に行きますから」
「………ああ」
「また後で」
 するりと出ていくニコルを見送って、アスランは重い溜息をついた。




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 四日後。
 オーブの特別平和大使が、いよいよ基地に到着した。

 キラはぷっつりと切れてアスランと派手な言い争いを繰り広げてからというもの、何かがふっきれたらしく、ニコルを通じて自分から 積極的にイザーク達に会いに行き、色々な話をしてきた。
 だが対照的に、アスランとは口をきく事はほとんど無かった。
 結局アスランはキラの部屋に戻ったものの、アスランの方も気まずく押し黙ったままで。
 他に変わったことといえば、ニコルによるキラの定時診察に、各種の検査が加わったことだろうか。
 毎朝行われる検査。その結果について尋ねても、ニコルはにっこり微笑んで「ちょっと栄養が足りてないですね。頑張って食べて下さい、 キラさん」と告げるだけ。

 そんな中での、特別平和大使到着。



「…行くぞ、キラ」
 すっとベッドから立ち上がるアスラン。
 キラは彼と視線を合わせずに立ち上がって、後ろに続く。
 …無理矢理犯されて以来の過剰な怯えは消えたものの、喧嘩がうやむやに終わっている事もあって、気まずいまま。
 三年間の連絡についても、真偽が定まらないままだ。
 アスランはドアのロックを解除しながら、キラの方を振り返りもせずに告げる。
「キラ。お前がどう言おうと…お前はナチュラルには渡さない」
「………」
 わからない。その執着の、意味が。
 三年間ずっと無視していたのに、どうして今更。
 だが、問いかけたところでまた水掛け論になるのは目に見えている。
 複雑な視線を床に落としたところで、ドアが開いた。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
サブタイトル、嵐を呼ぶ少女。
…平和大使の人員を見れば誰のことかは一目瞭然…ですよね。
……ははっ。
嵐、来ます。
嵐が来る前に警報出しますので、彼女が嫌いな方はスルーして下さいね。
この件に関しての苦情苦言批判その他をお受けする気はありませんのでご了承下さい(^^;)