++「BRING ME TO LIFE」第十四章(2)++

BRING ME TO LIFE

第十四章・嵐を呼ぶ少女
(2)









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「オーブ特別平和大使代表、カガリ・ユラ・アスハだ、今回は我々の駐留を認めてもらって、感謝している」
「特別平和大使、ムウ・ラ・フラガだ」
「同じく、アイシャ・サバーハです」
「ラウ・ル・クルーゼだ。大使殿におかれては遠路はるばるご苦労と、一先ず申し上げておこう」
 目の前に基地責任者がいるというのに、実際交渉するのは宇宙から音声オンリーで繋がれた通信回線の先に居るこの男。
 フラガは内心あまり良い気分ではなかったが、キラが拘留されているのはこの基地でも、実際に彼の身元を預っている人間の上司に あたるというのだから、クルーゼとの交渉になるのは仕方が無い。
「早速だが、キラ・ヤマトをオーブで引き取る件、検討してもらえたか」
 毅然としたカガリの声に、雑音混じりにふむ、と答えるクルーゼ。
「それを検討するのは、残念だが私ではないのでね」
「では検討できる人物に代わってもらいたい」
「それは無理だな。プラントは独裁国家ではない。誰か一人の承認ではなく、複数で構成される評議会で決議されなければならない。 そして、大使殿から連絡があって以来のこれだけの日数で、そう簡単に答えを出せるものでもない」
「プラント国防委員長は何と言っている」
「確かに捕虜の身柄に関して命令権を持つのは国防委員長だが、捕虜を他国へ引き渡すかどうかの決定まで独断できるわけではない。 それに本国では今回の件、もはや軍だけの問題ではなく、国際問題であると判断されている。あくまで、評議会での決議が必要だ」
「では、我々は評議会の答えが出るまで待てということか? あと何日待てばいい」
「それは何とも…」
 余裕を崩さないクルーゼの口調に、カガリは苛立ちを覚えた。
「なにしろ問題の捕虜キラ・ヤマトは、コーディネイターでありながら地球軍に組し、同朋を多く倒してきたストライクのパイロット。 いわば、裏切り者だ。それをオーブが引き渡せというこの事態に、評議会も混乱している。果たしていつ決議採択が為されるものやら…」
 ずいずいっと前に出ていって、バンと通信機の乗る机を叩く。
「先日も言った! キラは裏切ったんじゃない! 友達を守ろうとしただけだ! それがどうして、お前らに裁かれなくちゃ ならない!! そもそもお前らがヘリオポリスを攻撃したのが発端なんだぞ!」
「それは地球軍並びにオーブ側に非のあること。我々の預り知るところではない」
「なんだと!?」
「おーいおいお嬢ちゃん、お前さんは仮にも平和大使の代表なんだぞ。そうカッカしなさんな」
 宥めるフラガを、クスクス微笑しながら見ているアイシャ。
「…ともかく、ここでヘリオポリス崩壊の責任問題を持ち出しても意味がありませんわ。我々の要望については、既にそちらへ正式に 伝わっているはずですわね?」
「ふむ。…キラ・ヤマトのヘリオポリスでの行動理由については、友人を守るためであった事。救命ポッドを二度にわたり回収し、救命 活動に積極的であった事。AAにおいても、友人を守るためだけに訓練もなく出撃を繰り返していた事実。それに、捕虜となった際の 柔順な姿勢。…これらを根拠に、キラ・ヤマトが個人としてザフト並びにプラントへの反抗の意志あって地球軍に組したものではないと、 そう主張するとあったが」
「その通りだ」
 幾分落ちつきを取り戻したカガリが、アイシャの後を受け継ぐ。
「我々特別平和大使は、それを証明する証人となれる人物ばかりだ。何ならプラントまで出向いて、評議会で証言してもいい」
「それもまた、私の一存では決められぬ事。とにかく、評議会にはその意向伝えてある。後は、評議会での結論を待たれるのだな。大使殿」
 含みのある言い方に、カガリとフラガはまたムッとしてしまう。
「では評議会の決議が行われ次第、また連絡しよう」
「ああ」
 プツン、とあっさり回線は途切れた。
「…捕虜と面会したい。それは、構わないだろうな」
「ちょっと待ちなさいって!」
 今度は基地責任者にキッと向き直るカガリの肩に、フラガの手がぽんと乗った。
「それは今、あの坊主達が会いに行ってるところでしょうが。特別平和大使の代表であるお嬢ちゃんには、まだまだ仕事があるはずだぜ」
「だが、まずキラの無事を確認しないと」
「だから! ったく、もうちょっとあいつら信用したら?」
「サイ達を信用してないわけじゃない! けどっ、やっぱり…」
「心配なのはわかるけど、先に仕事をしてしまいましょう。ね?」
 子供に言い聞かせるようなアイシャの口調にムッとして、フラガの手を払う。
「…失礼した。では、今後この基地での捕虜の処遇について、それから我々の滞在計画について、交渉させていただきたい」
 置いてけぼりにされていた基地責任者が、疲れた溜息をついて頷いた。


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 先日Gパイロット五名が集まったのとはまた別の、少し広い応接室。
 テーブルは取り去られ、壁際に椅子だけが並んでいる。
「断る」
 険悪な口調でイザークが言いきった。
「何故オレがナチュラルどもの出迎えなどしてやらなくちゃならない。お前が行けばいいだろう!」
「俺は捕虜の身元引受人だ。大使側に座るわけにはいかない」
「フン。そういう役目なら、適任がいるじゃないか」
 ちらっと二つある奥の扉の片方を見遣る。
 その中の部屋では、ニコルとディアッカ、そしてキラが、アスランに呼び出されるのを待っていた。
 イザークの言う『適任』が誰のことを指しているかは、容易に察しがつく。
「…ニコルではだめだ。あいつは物腰が柔らかすぎる。お前くらい脅かしの効くヤツの方が、牽制になるだろう」
 すっと自分の顔の上に指を滑らせる。丁度、イザークの傷のある部分をなぞるように。
「………」

 言いようは気に入らない。
 だが、言わんとする事には同感。
 ―――キラは、渡さない。
 イザークとて、いくら友達を守りたいとキラが言っても、これ以上地球軍に居続ける事がキラにとって良いこととは思っていない。 かといって、オーブに渡すつもりもない。
 彼女がコーディネイターである事は厳然たる事実。ならば、今後はプラントで然るべき保護を受けるべきだ。
 キラが守りたがっている連中も、話を聞いてみれば、そう大した理由で志願したわけでもないらしい。なら、さっさと除隊するべきだと。
 そう考えていたから。
 だから、渡したくない。

「……貴様に遣われるのは気に食わないが…いいだろう。今回は目を瞑ってやる」
「…頼んだぞ」
 頼む、などとアスランが自分に言うのが珍しくて、おもわず眉を寄せる。
「…」
 差し出されたバインダーを無言で受け取り、さっと踵を返して、キラ達が控えている部屋のドアの向かいにある、反対隣の部屋へ通じる ドアへと消えるイザーク。
 アスランはそれを見送ってから、キラ達を応接室へ呼んだ。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
カガリvs仮面隊長。…フラガは?(笑) 一緒にいるのに(笑)
…わかっててわざと無視ってたっぽいですねぇ、仮面隊長。
それで逆に煽ってるというか。カガリのことも煽って遊んでるし。
ああ、やっぱり「フラガ」のほうが呼び慣れてて呼びやすい…と違うところで感動してたのは置いといて。
さて次回、やっとこさカレッジ組との合流です。