++「BRING ME TO LIFE」第十四章(3)++

BRING ME TO LIFE

第十四章・嵐を呼ぶ少女
(3)









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 そんなやりとりから、十分程たっただろうか。
 ピピッとルームコールが鳴って、プシュンと扉が開く。
「失礼します」
 先頭に立つ眼鏡をかけた理知的な少年を筆頭に、茶髪の少年、外巻きにはねた髪の少女、どこか不安そうに中を伺う少年と、きつい 目つきの赤毛の少女が、順番に入室してきた。
 彼らは皆オーブの軍服ではなく、特別平和大使の制服を着ている。
 オーブのイメージカラーの白を基調に、所々緑のラインが入っている清々しい制服。
「特別平和大使、サイ・アーガイルです」
 まっすぐにイザークを見て、先頭に立っていた少年は告げた。
「同じく平和大使の、トール・ケーニヒです」
「ミリアリア・ハウです」
「カ、カズイ・バスカークです…」
「…フレイ・アルスター」
 妙にビクついているのが一人と、やたら敵意を飛ばしてくるのが一人。この二人が気に触ったが、他の三人はどこかキラと似たような 雰囲気を感じる。
 敵意を飛ばしてくる女は、フレイ・アルスターと名乗ったか。…という事は、キラに難癖をつけたのはこいつだな、と視線を一瞬 走らせた。
 全員渡された資料と相違ない事を確認し、バインダーを閉じるイザーク。
「そちらの捕虜になっている、キラ・ヤマトとの面会許可、ありがとうございます」
「礼ならオレじゃなく、中にいる身元引受人に言え」
「あ、はい」
 少々たじろいでしまうサイと、うっと萎縮してしまうトール達。フレイだけは相変わらず、敵意を隠そうともしていなかったが。
 …ナチュラルを見下す高圧的な態度。生粋のオーブ育ちであるサイ達には、それを面と向かって受けた経験がなかった。
「現段階でお前達に許可されているのは面会だけだ。それを忘れるな」
「はい」
「…あの」
 ミリアリアと名乗った少女が、ふと口を開いた。隣でカズイが何を言い出すんだとばかりに露骨に不安がる。
「…キラ、元気なんですか?」
 隣のカズイの様子に気付いているのかいないのか、彼女はそう尋ねた。
「そのくらい自分の目で確かめろ」
「は、…はい…」
 威圧的な言葉と、恐らくは不安から俯く少女。そっと隣のトールが肩を抱いて、力づけるように慰めた。
 ―――この後すぐ本人に会えるってのに、何を言い出すのかと思えば。まったくナチュラルなんてのは本当にバカばっかりだ。
 …キラが必死で守っているのがこんな間抜けた連中かと思うと、腹が立ってくる。
 苛付く気持ちを押さえて、腕時計を見る。
「…時間だ。入室を許可する」
 隣室に繋がる扉のロックを外し、自分が先に中へ入ってからサイ達を促した。


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 落ちつきなく深呼吸を繰り返し、奥の扉をちらちらと見るキラ。
 ディアッカの指が、そんなキラの頭をこつんと突ついた。
「な〜に緊張してんの。会いにくんの友達だろ? もうちょっと落ち付けって」
「大丈夫ですよ。キラさんが一生懸命守ってきた友達なんでしょう? きっと、ちゃんと受け入れてくれますよ。キラさんの事」
 茶化すディアッカと、そっとキラの肩に手を置いて優しく言うニコル。
 ニコルを振り返ると、彼はそっと頷いてくれた。

 …結局、胸を隠す手段がないまま、面会の日を迎えてしまった。
 さらしの代わりになりそうな布や、押さえつけられそうなゴムベルトも探したが、そうそう都合よくものが出てくるわけでもなかった。
 一度はこれならどうにか、と思われるものを見つけてきたのだが、その用途に思い当たったのか、イザーク達と食事をしている間に アスランが処分してしまった。

 …ずっと嘘をついてきた。それは、みんなにも同じ。
 三年間、ずっと騙し続けていた。
 アスランと同じ事なのだ。その年数に差があるだけで。
 怒るかもしれない。軽蔑されるかもしれない。
 いろいろ、…いろいろあったけれど、それでも友達であり続けたいと願うのは、甘い考えだろうか。


 男装したキラを引き合わせるつもりなど、アスランにはなかった。
 キラが女だという事は、もはやおまえだけが知っている秘密ではないのだと、キスマークの主に思い知らせてやるために。
 そして、その時の彼らのリアクションから、誰がキラの『恋人』なのかを知るために。
 返す返すも、キラが特別平和大使の資料を見て涙を滲ませた時、その時見ていた人物を確認せずに弾き飛ばしてしまったのは失敗だった。
 …しかもあの後、あんな言い争いに発展してしまうくらいなら。
 食い違っている歯車を一つ見つけることができたといえば、それも確かにそうなのだが。



 ―――ピピッ。

 ドアのロックが解除される音に、はっとキラが立ち上がった。
 開いた扉から、まずイザークが入ってきて。
「失礼します」
 サイの声だ。
 彼は姿勢をぴんと伸ばして、部屋に入ってくる。自分の姿を見つけて、ホッとしたように息をつき、複雑に小さく微笑んだ。
「キラ。………えっっ」
 そして、仰け反って硬直。お約束のように眼鏡を斜めにずらして。
「キーラっ! うわっ!?」
 後ろから続いてきたトールも、驚愕してあとずさってしまう。
「痛っ! ちょっとトール、どうした…の………」
 ぶつかってきた背中を押して、部屋の中を見るミリアリア。途端に、目と口がこれでもかというくらいに開かれて。

 ……………大体予想通りの反応に、キラは困ったように笑うしかなかった。

「なになに、どうしたんだよ」
 扉のところでつっかえているカズイには、まだキラの姿は見えていない。
「ちょっと何やってんのよ! どいて!!」
 きつい言葉とともにそのカズイを押し退けたフレイ。
 強引に部屋に入り、キラの姿を見つけるや、ハッとその表情が変わる。
「キラ!!!」
 安堵と喜びを満面に浮かべて、何の躊躇もなく駆け寄る。
「フレイ…、っっっ」
 そして。

 抱き着いて、唇を重ねた。



 口の端を引き攣らせるディアッカ。
 ぱちくりと目を瞬かせてしまうニコル。
 誰がキラの相手なのかと目を光らせていたアスランは、そのまま固まってしまって。
 イザークは遠慮なく、眉間に皺をよせていた。

 カレッジ組はといえば、ダブルショックに目を白黒させてしまうだけ。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ええ…と。フレイ暴走開始…という感じで…。
キラが女の子だって事はちゃんと分かってますよ、彼女。
…暴走開始、という感じで…。
ここで「あン!?(怒)」となられる方は、次とその次はすっ飛ばして下さいね。お願いします。
あああ怖いよぅ(^^;)