++「BRING ME TO LIFE」第十五章(4)++

BRING ME TO LIFE

第十五章・ほどけゆく心
(4)









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「……アスランくん。念の為に尋ねておくけど…まさか、合意がなかったとは言わないわよね?」
「…っ」
 ぎくっ、と体を震わせて硬直してしまう。
 それが雄弁な答えとなってしまって。
「………………げっ、お前マジかよ!? …な〜んか雰囲気おかしいとは思ってたけど、そういう事だったわけ!?」
「…最低ね」
 ぐっさり。
 ディアッカの呆れた声と、アイシャの冷たい言葉が、やたらと鋭利な刃物になって自分を真っ二つにしてしまった。
「なんだよ、いよいよいくとこまでいっちまって逆に気まずくなるってパターンかと思ってたら、…おっ前、そりゃヤバいって」
「っ、わ、わかってるそんな事!」
「わかってないわね」
 すぱっと斬り捨てるアイシャ。
「あなた、キラちゃんのこと全然なにもわかってないわ」
「……どうしてあなたにそんなことまで決め付けられなくちゃいけないんですか」
 四歳からの付き合いであるキラのことを『全然なにも』とまで言われ、さすがにムッとしてしまうアスラン。普段の彼なら受け流すなり 何なりするのだろうが、他ならぬキラのことでもあるし、酒の効果も出ているようだ。
「俺達は物心つく頃から九年間、ずっと二人一緒だったんです。少なくとも、捕虜になってから一週間程度過しただけのあなたよりは、 あいつを知っています」
「…、あら、それじゃ昔月に住んでた頃の幼馴染って、あなたなの?」
「え? は、はい…。…あいつ、あなたにまでその話を…?」
「という事は、三年間の空白があるという事ね」
 アスランの言葉に答えず、二人の溝になっている部分を言い当てる。
「馬鹿ねえ。三年も離れていたら変わるわよ。特にあなたたちくらいの年頃の子は。変わらないところがある一方で、確実に変わる部分も あるでしょう」
「…」
「例えば、あなたはカガリ代表達のことは知らないけれど、でも彼女達はキラちゃんの友達よ。逆にあなたがプラントに行ってから知り 合った友達を、キラちゃんは知らないわ。それだけでも大きな変化だと思わない?」
「……」
 やれやれと溜息をついて、アイシャは席を立った。
「アスランくん。あなた、もう少し広くものを見たほうがいいわね」
「え?」
「あなたが思っているほど世界は狭くないし、意外と単純だったりもするって事よ。それじゃ、お先に。お休みなさい」
「お疲れ様です」
 ディアッカが言葉を返し、アスランは戸惑いながら小さく会釈して、優雅に部屋を出て行く彼女を見送った。
「っと、いけない」
 が、不意に降り返った彼女に、え、と小さく目を見開く。
「…私がこんなこと言うのもなんだけど、アスランくん。…カガリ代表のキラちゃんへの面会要請、受諾しないでくれないかしら」
「は?」
 普通は逆を頼みそうなものなのだが。
「大体わかるでしょ? 彼女、ああいう性格だから。キラちゃんと会って、テンションが上がったら、このままキラを連れて帰る! …な んて言い出しかねない勢いだもの」
「そりゃ、確かに」
 自分に面会許可を出せと食って掛かってきた彼女を思い出し、ディアッカが肩を竦める。
「平和大使としては、そうなると困るから。キラちゃんはオーブに連れて帰るけど、ちゃんと正当な手続を経てからでなければ『平和大使』 の意味がないわ。そうでしょう?」
「まあ…そうですね」
「そういう事だから。お願いね。それじゃ」
 今度こそにっこり微笑んで、廊下を曲がっていくアイシャ。

「…おっとな〜、って感じだな。さすが砂漠の虎・アンドリュー・バルトフェルドの愛人だけあるぜ」
「…あいじん??」
 その微妙な語感に、思わず眉をよせてディアッカを振り返ってしまう。
「何、お前知らないの? 結構その筋じゃ有名だぜ」
「…どんな筋だ、一体…」
 げっそりと背中を丸めて顔を沈め、盛大な溜息をついてしまうアスラン。
「てーか、お前。マジでどうすんだよ」
 グラスを傾けながら改めて問われて、黙り込んでしまう。
「……ったく、なァにやってんだか。そんなんじゃ、マジでイザークにもってかれるぜ?」
「…」
「ま、オレには関係ないけど〜。オレ基本的にラクスの味方だから、ぶっちゃけ、キラが幸せになるんならどっちでもいいわけだし。 けど、今ちょっとイザークに味方したい気分かも」
 イザークが聞けば「お前の手などいるかっっ!」と吐き捨てられそうなセリフにも、アスランはリアクションを返せない。
「………何をどうしてそうなっちゃってんのか知らねーけどさ。いっぺんちゃんと話してみたら?」
 ぐいっとグラスを空けて、ディアッカが立ち上がる。そして、ひょいっとアスランの手からグラスを取り上げてしまった。
「片付けといてやるよ。このままヤケ酒されて、明日お前が二日酔いになったりしたら、オレの責任になっちまうからな」
「ディアッカ…」
 にっと口の端を吊り上げる一つ年上の同僚に、アスランは小さく微笑して。
「……お休み」
 言葉通り片づけを始めたディアッカに小さく声をかけると、彼は背中のままひらひらと空いている手を振った。
「はいよ。お疲れさん」
 微笑して、アスランは自室へ戻った。

 キラのいる部屋ではなく、そこへ移るまで使っていた空き部屋へ。


 今は、彼女と二人になる自信がなかった。
 彼女とどんな顔をして会えばいいのか、わからなかった。
 それに。
 ……………一人で考えたいこともあるから。



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 部屋の扉の前に立つフラガに、アイシャはクスリと笑った。
「ご苦労様」
「ご苦労様、じゃねえよ。どこ行ってたんだ?」
「眠気覚ましに一杯頂いてきたの」
 それ普通逆だろ、と小さく溜息。
「夜は私に任せて。彼女とは同室だもの、私のほうが適任でしょう?」
「女性の夜更かしは肌に悪いんじゃないのか?」
「寝不足への耐性も、コーディネイターの方が上よ。その代わり、昼はお願い。あなたが常に彼女をサポートする役目でしょう? 分担は これが一番いいと思うけれど」
「…まあ、そりゃそうだが」
「だからあなたは明日に備えて、ゆっくり睡眠を取って頂戴。咄嗟の暴走を抑える役目は任せたわ」
「………ラジャー。それじゃ、頼むぜ」
「ええ」

 奇妙なやりとりを交わして、二人はそれぞれ自分が寝泊まりする部屋へと戻った。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
まあ、とりあえず色々悩んで下さい若者よ。ということで(笑)
アスランいちいちグッサリきて痛かったでしょうねぇ。
まあこんな暴走ができるのも若い内ということで。…っていうには若すぎる気もするけど…。
別口の複線も張りつつ、まだまだ続きます。