BRING ME TO LIFE
第十六章・失っていた歯車
(2)
フレイは思いの他落ち着いていて、大人しくキラの隣に座り、時折その肩をトリィの宿り木にさせていた。
「へぇ〜、サボテンって本当に花咲くんだ」
「うん。画像で見たのより大きくて、でもちっちゃくて可愛かったよ」
「って、どっちだよそりゃ!」
ハハハ、と愉しげな笑いが応接室に響く。
その様子を見守っているイザークとニコルも、この平和な光景に内心ホッとしていた。
「…キラ」
不意に、ただ黙ってキラの隣にいたフレイが口を開いた。
「……昨日は、ごめんなさい」
意外そうに眼を見合わせたのは、ミリアリアとトール。そしてサイも複雑な視線を彼女に向け、所在なさげに端に座っていたカズイは、
不意に聞こえた別人のような声にぎょっとしている。
「…私…興奮しちゃって…。キラを、ちゃんとオーブに連れて帰らなきゃいけないのに…」
「……うん……」
キラには、それしか言えなかった。
「………でも」
苦しそうにフレイの表情が歪む。
ハッとするキラ。トリィがフレイの肩から飛び立って、くるくると部屋の中をゆっくり旋回する。
「それでも………あたし…………!!」
父を殺したあの機体を、あれを操っていたコーディネイターを赦せない。
父を殺したザフトが、コーディネイターが、あいつらが。
憎くて憎くてたまらない。
キラが同じコーディネイターだって事もわかってる。だから利用しようとした。
…でも。
今はもう、キラを利用して、戦場で死なせようなんてこと、考えられない。秘密を共有して、その痛みを間近で見てしまった今は。
だけど、そのキラの友達なのだと言われたって、あの男を赦すことなんてできない――――。
…理屈では制することのできない憎しみが、フレイの心をもたげる。
そんなフレイに、キラはただ、まっすぐに彼女の瞳を見つめた。
「……フレイ…ごめんね」
「な…なんでそこで、あんたが謝るのよ…」
涙を拭きながらぶっきらぼうに尋ねるフレイに、キラは困ったように微笑んだ。
「守れなかったのは、僕だから」
「………」
「…本当に、ごめん」
「キラ…」
そっと優しく呟いたのは、ミリアリア。
「…………あの人は…僕の、大切なひとなんだ」
「……」
「…ごめんね。フレイ」
「…」
フレイは黙って俯きこんでしまう。
「………早く終わればいいのにな。戦争なんて」
キラの正面で、サイが小さく呟いた。
「…そうですね」
それに答えたのは、キラを挟んでフレイの反対側に座るニコル。
えっ、と意外そうに顔を上げるトール達に、ニコルは思わず苦笑してしまった。
「僕達だって思いは同じですよ。終わらせたいから戦っている。…でも、それでも戦火は広がっていく…。やりきれませんよ」
「戦いを終わらせたくて、戦う、か…」
「…な〜んか、それ自体矛盾してない?」
暢気に頭の後ろで手を組んで、しかし鋭いところをさりげなく言い当てるトール。
「けど、やらなくちゃやられちゃうし」
「でもやるからやられるんでしょ?」
「そもそも、なんでやられなきゃいけないんだよ」
「それは、……………えーっと、だから……どっちが?」
「え?」
だんだん話がこんがらがってきて、顔を見合わせてしまう一堂。
ぷっ、と思わずミリアリアが笑ってしまう。
「やーだもう、言い出したトールが混乱しちゃってどうすんのよー」
「え!? 言い出したのはサイだろ!?」
「え、オレ? …あ、そっか」
「あ、そっか、じゃないよも〜ぉ」
「ハハ、ごめんごめん」
皆の様子に、キラも思わず小さく笑ってしまった。
「なんか、不思議な感じ。みんなと、…サイ達もニコルさん達も一緒に、こんな話してるなんて」
「あ、そういえばそうよね。地球軍とザフトと中立のオーブ、そのそれぞれがここに集まってるって事になるんだもんね。一応」
「え? もうみんなは地球軍じゃないんでしょ?」
「お前だ、キラ」
やや呆れたような口調で指摘したのはイザーク。
「実際のところこいつらはどうなってるのか知らんが、お前は捕虜だからな。まだ除隊したわけじゃない」
「あ…そっか」
ラクスがいた時やイザークと買い物に出る時には、自分は捕虜なのにこんなに自由にしていいのかと戸惑っていたのに、今ではすっかり
自分のほうがこの環境に馴染んでしまっている。
それもまた可笑しくて、クスクス笑ってしまった。
やがて面会時間は終わり、キラはニコルとイザークに連れられて部屋へ戻っていく。
それを見送って、カレッジ組も部屋へ戻り始めた。
その途中の通路で、階段から降りてきたカガリとフラガの二人を見つけて立ち止まる。
「あ、カガリ! 交渉どう?」
「平行線だ!」
明るく声をかけたミリアリアに、カガリは不機嫌丸だしの声。
「こっちが何言っても『評議会からの決議待ち』の一点張りだ! まったく、身元引受人のくせに情けない!!」
「こらこらこら! 彼だって仕事なんだから」
「だから情けないと言ってるんだ!」
苛立ち声を荒げるカガリに、うざったそうな視線を向けるフレイ。
「それより、キラは!?」
「うん、元気そうだったぜ」
「そっか…」
ホッとして、少し落ち着きを取り戻す。
「とりあえず、部屋に戻ろう。こんなところでずっと固まってたら、邪魔になるよ」
至極ごもっともなサイの意見に、皆部屋に向かって歩き出す。
「アーガイル大使」
そのサイを呼び止める声。…カガリ達が来た階段からだ。
え、と振り返ると、そこにはキラの身元引受人でイージスのパイロット、アスラン・ザラの姿。
「あ、はい」
「…少し、話を聞きたいんだが…」
「え、オレにですか?」
思わず驚いて聞き返すと、彼は真面目な顔で頷いた。
「あ…わかりました」
「サイ」
心配そうなフレイの声に、サイは苦笑して振り返る。
「ミリィ達と一緒に、部屋に戻ってて。大丈夫だから」
「………」
怪訝そうにアスランを睨むフレイ。
「…何も取って食おうっていうんじゃない」
「……」
僅かに困ったような、でも穏やかなアスランの声に、フレイのほうがバツが悪くなってしまってふいっと顔を逸らす。
「じゃあ、あたし達先に戻ってるわね」
「ああ」
いこ、フレイ、とミリアリアが促し、サイを除いて全員が部屋へもどってゆく。
「…少し長くなるが、構わないか?」
「ええ、オレは別に。それじゃ、どこか部屋で?」
「ああ」
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
カレッジ組のみんなもね、なんにも考えてないわけじゃないんだよね。
漠然としすぎてて、考えるっていうほど真剣に掘り下げてるわけじゃないけど。
…っていう感じじゃないかな、と思うのです。
そう、カレッジ組っていえば、トール! お誕生日メッセージが二日遅れになっちゃってごめんよ〜!!