++「BRING ME TO LIFE」第十七章(1)++

BRING ME TO LIFE

第十七章・通じ合う心
(1)









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 その扉を開くのには勇気が要った。
 つい先日までは平気で開け閉めしていた捕虜の部屋。今はキラを閉じ込める篭である、その部屋のロックを解くのに、勇気が要った。


 自分の早計な言動が、どれだけ彼女を傷つけていたのか。
 いや、彼女が捕虜になる前も。
 自分がいない間の彼女を支えてくれた友達を、キラが見殺しにできるはずがない。裏切ることなど、もっとできるわけがない。
 それなのに、何故こちらへ来ないと責めて、撃つと宣言して…。


 向かい合うには勇気が要る。
 けれど、…キラを愛する気持ちは、まだほんの少しも揺らぐことはないから。
 だから。

 ピ、と音がして、ロックが外れた。

 扉を開き、閉じて、中からロックを施す。
「…お帰り、アスラン」
 遠慮がちにかけられる言葉。
 それでも、優しい響きは消えない。
 そっと歩いてベッドに近付く。暗い廊下から、明かりの差す部屋へ入る。
 座っている彼女の隣に…、と思ったところで、複雑な表情だったキラの顔がさっと変わった。
「え…、アスラン!? どうしたの!?」
「え?」
 座っていたベッドから立ちあがり、小走りに駆け寄る。
 なんの躊躇もなくその白い手が伸びて、細い指が口元に触れた。
「つっ…」
「! ご、ごめんっ」
 とたんに走った鈍い痛みに顔を顰めると、キラは申し訳なさそうにその手をびくっと引っ込める。
「でも、これ…どうしたの? 大丈夫? ちゃんと医務室行ってきた? …まさかイザークとケンカしたとか…」
「え? い、いや」
「ちゃんとニコルさんに診てもらったほうがいいよ。行こう!」
 言いながらアスランの腕を取って、ぐいっと扉へ引っ張る。
「いっ、いいよ! そんな大袈裟にしなくても」
「駄目だよ! もし何かあったらどうするんだよ! 何ともなければそれでいいんだから、早く…」
 ぐいぐいと引っ張っていこうとするキラ。
 そんな彼女を、逆にこちらへ引っ張って。

 腕の中へ、抱き締めた。



「……………」
 一瞬体が震えたけれど、不思議とアスランへの恐怖は感じなかった。
 …何だろう。
 今までとは、何か違う。

「………キラ………ごめん」
 思い詰めたように耳元に響く声。
「…アスラン…? どうしたの…?」
 戸惑って声をかける。
 小さくアスランの体が震えた気がした。
「………俺は……友達がいるなんて、嘘だと思ってた……。いや、お前が友達だと思ってても、ナチュラルがお前を利用するために騙してる んだと思ってた」
「………」
「騙されてるんだって…そうでもなければ、お前が俺と敵対するなんて信じられなかった」
「……………アスラン…どうしたんだよ、急に……」
 涙声のアスランに戸惑う。
 急に…こんな。
「……」
 アスランはぐいっと袖で涙を拭いて、キラの肩に両手を添え、すっと体を離す。
 お互いがお互いを見つめられるように。
 キラの目を真っ直ぐに見られるように。



「……………お前のことが、好きだ」



 大きな瞳が、更に見開かれる。

 …何を…、彼は今、何を言った?

「愛してる。キラ」

 幻聴じゃないだろうか。
 そうでなければ都合のいい夢でも見てるんじゃ…。

 がくっと力の抜けた足が崩れてしまう。
「!」
 咄嗟にキラを支えるアスラン。がくがくと震える様子に立たせないほうがいいと判断して、彼女をベッドへ座らせ、自分もその隣に座った。
「………何……? 今……」
「……キラが好きだって言った。…愛してるんだ。お前だけを」
「…………っ」
「お前が女だって分かって、…その時、ここにキスマークがあるのを見て」
 すっ、とキラの胸元を指差す。
「…お前にはもう、体を許した男がいるんだと思った。足付きにいるナチュラルの中に、俺の知らなかったお前の秘密を知る恋人がいる んだと……それで…頭に血が昇って…だから無理矢理……お前を抱いた」
 アスランは、何を言っているんだろう?
 それじゃまるで、本当に僕のことを想ってくれてるみたいじゃないか。
 そんな都合のいい話があるわけないのに。
「すまない。…謝って済むことじゃないのは分かってる。けど、…けど…っ、俺は…! 俺はっ、ずっとずっとお前だけを見てきた!!  初めて逢ったときから、お前だけが俺の全てだったんだ! 女だって知らなかった時だってそうだ! お前だけが、俺の…!!」
 胸が詰まってそれ以上言葉にならない。
 涙がまた流れてきて、キラから顔をそらしてまた拭う。

「……………ほん…と…に………?」
 呆然としたようなキラの声にはっと振り返ると、…彼女もまた、涙を流していた。
「……アスラン……それ……全部、本当…?」
「…ああ。本当だ」
 しっかりと頷く。
 …途端に、キラの瞳から更にぽろぽろと涙が零れて。
 そして、アスランの制服をぎゅっと握って、胸に額を預ける。

「……僕も…僕もずっと、ずっと君のこと…好きだった…」
 はっ、とアスランの表情が変わる。
「父さんと母さんから、男の子として育てられてきて…、だから、アスランにも本当のことは言っちゃ駄目だって言われて、だから気持ち 伝えられなくて……君を騙し続けるしかなくてっ…それが…辛くて…!!」
「…キラ……」
 そっと肩に手を置くと、キラは手の甲で涙を拭って顔を上げる。けれどキラの瞳に溢れた涙は、すぐに流れ落ちて、また頬を濡らして しまう。
「ずっと嘘ついててごめん。僕も、アスランのこと大好きだよ……!!」
「……キラ…!!」
 堪らず、細い体を抱き締める。
 折れよとばかりに込められた力。はぁっ、とキラの唇から息が零れた。
 掴んでいたアスランの制服を離して、そっと背中に手を回す。
 あまりにきつく抱き締められて、苦しくて息が辛い。でも、この苦しささえも、あなたのくれるものなら。

 抱き締め合って、お互いを感じて。
 確かな鼓動を重ねて。
 ふ、と顔を離して見つめ合い、………口付ける。

 深く。
 深く、求め合って。

 そのままどちらからともなく、ベッドに倒れ込んだ。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ラブラブおめでとうございまーす!!!
やっとここまできましたよ〜一体何文字何頁何キロバイトかかってるんですかお二人さーん!!
(いや、この話捏造してるの私だって)
一人ボケツッコミ。
野暮ですみません(^^;)