BRING ME TO LIFE
第十七章・通じ合う心
(3)
「…アスラン」
不意に、アスランの腕の中でキラが声をかける。
その音はまだ情事の余韻で濡れていて、甘い。
「…ん?」
「……ありがとう」
「……」
それはアスランのほうこそ伝えたい言葉だった。
今までの我侭な、傲慢な行動を許してくれたばかりか、それでも好きだと言ってくれたキラに、感謝の気持ちと愛しさでいっぱいで、
溢れてしまいそうになる。
だから、言葉の代わりに彼女をそっと、力強く抱き締めた。
「………キラ、一つだけ…」
「…え?」
とろんとした目でアスランを見つめるキラ。
うっ、と一瞬詰まってしまったが。
「…しつこいかもしれないけど…、ここにあったキスマーク、いつ、誰につけられたんだ?」
「………」
え、と自分の体を見る。
「………っっっ」
あちこちに散らされた紅い愛の痕に、かあっと一気に頬が赤くなる。
「………、…え? え!?」
混乱したのか、わたわたと慌て出すキラが可愛くて、くすっと微笑が零れた。
そして、少し悪戯したくなる。
「……見てて」
甘く囁いて、鎖骨からやわらかく膨らんでゆく胸へと唇を寄せる。
「!! ちょ、アスランっ…………あ…っ」
一体何を、と続けようとした声は、色めいた音へと変わる。
きゅ、と吸われて。
「んっ」
喉が鳴る。
アスランが顔を上げると、唇が寄せられていたところに、同じように紅い痕。
「キスマーク。…こういうこと、誰かにされただろ? そうじゃなくても、何かがずっと当たってたとか…」
「そ、…んなこと、いきなり言われても…」
真っ赤な顔で、一生懸命考えるキラ。
そして、やがてあっと声を上げ、まいったというようにがっくり頭を枕に預けてしまう。
「?」
「…多分…バルトフェルドさんだよ」
「え?」
あの引き渡しの時に会った、…愛人がいるという、砂漠の虎が?
「最初に捕虜になったとき、身体検査で女だってことがバレて、それでバルトフェルドさんにからかわれたんだよ。その時悪戯で
つけられたんだ、多分」
「………………」
今は平和大使になっている、元砂漠の虎の副官、アイシャ・サバーハ。彼女が優秀な砲撃手である事は聞いていたが、バルトフェルド
隊長の愛人でもあったとは。砂漠の虎は、愛人を戦場でも側に置くような人物なのか、そうは見えなかったが…と。
さっきディアッカから、愛人の話を聞いたときにぐるぐる頭を廻ったものだが。
キラにこんな悪戯までするとは、ますます「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドという人物が理解不能になってきてしまう。
思わず頭を押さえたアスランを、キラは心配そうに見つめてくる。
「…大丈夫だ。…わかったから。…ごめん、キラ。疑って」
「………ううん。…誤解が解けて、よかった」
そっと肩を抱き寄せると、キラも擦り寄ってくる。
触れ合う肌が心地よくて、愛しくてたまらなくて、眩暈がしそう。
「キラ……。これから、どうする」
「…………」
二人の表情から、甘さが少し引いた。
「……ずっとこのままでいられたらいいのに、って思うんだ」
「………ああ」
「けど、今の僕は地球軍の軍人で、捕虜で………。これじゃ、君のそばには長くいられないし、また同じ事の繰り返しになる。
何も変わらない。何も、終わらない。だから、…カガリ達と一緒に、オーブに戻ろうと思う」
「…そうか」
「僕になにができるわかわからないけど…それでも、戦争を終わらせるきっかけだけでも、作ることができたら………そしたら……」
「そうしたら、一緒に暮らせるな」
かあっ、とキラの頬に朱がさした。
優しく微笑んで、更にキラを抱き寄せる。
「俺も軍の中で何ができるかわからないが、できる限りの力で終戦に持ちこみたいと思ってる。…それまでは、また…離れることになる
けど」
「でも、気持ちは変わらない」
「ああ」
見詰め合って。
再び唇を重ねる。
「…なんか、ちょっと怖いな」
「え?」
「こんなに何もかも、突然うまくいっちゃうなんて」
「………今までがこじれすぎてたんだ。解けるときは、案外早いものさ」
「…だと………いいんだけどな……………」
まだ少し不安そうなキラの額にキスをおとして、寝かしつけるように肩の上から毛布をかけてやる。
情事の疲れか、昨夜の徹夜が効いているのか、キラはそのまま眠ってしまった。
その寝顔を味わって。アスランも眠りにつく。
キラの不安が現実となって立ちはだかるその時は、すぐそこまで迫っていた。
安らかに眠る二人は、まだそのことを知らない。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
さて。
私的には次章からやっと本編へのプロローグに入れるという感じです。
キラとアスランが両想いになってくれて、やっと話を運べます。
ザラ隊やアークエンジェル組を合流させたいというのもあったけど、
両想いになる前に話進めるとちょっとキラに不利すぎるというかアスランに不利すぎるというか。
次章、第一部最終章です。