++「BRING ME TO LIFE」第十八章(1)++

BRING ME TO LIFE

第十八章・『発芽』
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 その光景に、誰もがぎょっとした。

「絶対オムレツ! ふわふわの、中が半熟になってるの!」
「わかったわかった。ちゃんと研究しとく。…って、お前も料理くらいしろよ? 別に女だから男だからって問題じゃないぞこれは」
「できるよー! …食べれるように加工する程度には…」
「まったく…! オーブに帰ったら、おばさんにちょっと特訓してもらえ」
「う〜……」

 …………………これは一体。

「あ、ニコルさん! おはよう!」
「あ……、お、おはようございます……」
 今日はサイやミリアリア達が一緒に食事をしたいというので、なら朝食と昼食を彼らと一緒に過ごして、その後はスケジュールの都合上 解散、という流れになる予定。なので、ニコルの検診は午後に回された。
 というわけで食堂には、ニコル、イザーク、ディアッカ、そして大使組から一足先にやってきたアイシャが揃っていたのだが。

 その場にいた誰もが、現れた二人の様子にぎょっとした。

「おはよ、みんな。…あれっ?」
 固まっている一堂に、今度はキラがきょとん。
「どうしたの? みんな…」
「………」
 イザークは微妙な表情で、キラとアスランを見比べている。
 その視線に気付いて、…そして皆が何を驚いているのかというところへやっと思い至って。
 はにかむように小さく微笑んで、イザーク達のところへ歩み寄った。
「…ごめんねニコルさん、心配かけて。ディアッカも…。…仲直り、できたから」
「……………」
「色々ありがとう、イザーク。ほんとに、ありがとう。でも、もう大丈夫だから」

 はぁ、と思わず短い溜息をついてしまう。
「その様子じゃ、仲直りどころの話じゃなさそうだな」
「えっ?」
 ぼん、と顔が赤くなるキラ。…まったく、こういうときくらいちょっと気を使った嘘はつけないのか、と言ってやりたくなってしまう。
 …けど、こんなに幸せそうに微笑むキラは初めて見たから。
「わかったから席につけ。もうじき平和大使の連中も揃うだろう」
「うん」
 指示された場所に座るキラ。ドア側の隣には身元預り人であるアスランが、反対側の隣には主治医のニコルがつく。アスランの手前には イザーク、ディアッカと続き、アスランの正面にはアイシャが座った。彼女の隣に、平和大使達がやってくる。…フラガに足止めされる 予定のカガリを除いて、だが。

「…おい、アスラン」
「……何だ」
「………もしまたキラを泣かせるような事があったら、その時は無理矢理にでもかっ攫っていくからな。大体、ラクス・クラインとの 婚約がまだ解消になってないって事、忘れるなよ」
「わかってるさ。…婚約解消の件は当人同士では合意してる。あとは頭の固い大人を説得するだけだ。それに、キラのことも…。お前の 言葉、覚えておく」
「…フン」
 アイシャとあれこれ楽しそうにしゃべっているキラのとなりで、こっそり交わされる言葉。

 そこへ、血相を変えたミリアリアと、どこかうざったそうなフレイが飛びこんでくる。
「アイシャさん!!」
「え?」
 突然名を呼ばれ驚いて振り返ると、ミリアリアはそのまま駆け寄ってアイシャの腕をぐいぐいと引っ張る。
「ちょっと来て下さい、大変なんです!」
「落ちついて、どうしたの?」
「カガリ大使がキラを探すって言って、飛び出して行っちゃったのよ」
 どうして私が探しまわらなきゃいけないのよ、とでも言いたげな調子で後ろからフレイが答えた。その言葉に、アイシャの顔色が変わる。
「え? フラガ大使は!?」
「おっかけてますよ、勿論! あたしたちがキラと一緒にごはん食べるって話、カズイから聞いて、それでフラガ少佐、じゃなかった、 フラガさんとケンカになっちゃって、それでフラガさんに当身いれた隙に飛び出して…」
 アイシャの口元が強張る。
「みんなで追っ駆けてますけど、見失っちゃって…!」
 焦るミリアリアと深刻なアイシャ。正反対に、キラはくすっと微笑んだ。
「なんか、カガリらしい。迷惑かけてなければいいけど…あ、どうせだからこっちから迎えに行っちゃおうか! アスラン、だめ?」
「……。…しょうがないな」
「!」
 咎めるような視線がアイシャから飛ばされるが、今のアスランにはキラとカガリを会わせないでおく理由が見つからなかった。彼女は 確かに破天荒ではあるが、話を重ねれば不正を最も嫌うまっすぐな性格だということはよくわかった。
 だから、キラをそのまま連れ帰るような暴挙には出ないだろうと判断したのだ。
「もし進入禁止区域に入ってたら、お説教の一つもしてやらないといけないしな」
 言いながら、立ちあがるアスラン。
「それじゃ、決まりだね。行こうか」
「えぇ? 私もう走り回るの嫌ぁ〜。ねえキラ、ここで待ってましょうよ。ね?」
 女の勘というべきか、見れば解るというべきか、キラとアスランの間に男女の匂いを嗅ぎつけたフレイが二人の間に割り込み、キラの 腕に自分の手を絡ませる。
「でも、やっぱり放っておけないよ。僕も、カガリにも会いたいし」
「だから、この人達が行けばいいじゃない」
 じろりとアスランを睨み、それからイザークたちをねめつけるフレイ。ムッとしたイザークが、ずかずかと近付いてフレイとキラを引き 剥がした。
「行くなら全員で行ったほうが早い。大体そいつはキラを探してるんだろう。キラが出てったら喜んで飛びついてくるんじゃないか?」
「ったく、人騒がせだなァ。そんじゃ、あのじゃじゃ馬姫様をキラで釣りにいくか」
 茶化すように言ったディアッカの言葉に思わず笑ってしまうニコル。二人ももう椅子から立ち上がっていた。
「…、っ……」
 すっかりカガリを探しに行く流れ。アイシャはきゅっと唇を引き結んだ。こうなったらキラについて回って、カガリを見つけた瞬間 無理矢理引き離すしかない。不自然ではあるが、もうなりふり構っていられない。
 今ここで真実を明かすわけにはいかないのだから。

 だが、そう諦めたアイシャと、彼女を捕まえたミリアリアが食堂から一歩外へ出た瞬間、それを狙ったかのようなタイミングで警報が鳴った。
「!?」
「なっ、何!?」
「ちょっと、何よこれ!」
 はっとするアスランやアイシャ、キラ、ミリアリアと、不安そうにキラに縋りつくフレイ。
 対するようにニコルとイザーク、ディアッカは三人で顔を見合わせ、複雑な視線を絡ませた。
「何だ!? 敵襲か!?」
「敵襲…って、地球軍!? フレイ、ここに居て!」
「ええっ!? ちょっとやだ、キラっ!!」
「待って下さいキラ、アスランも!」
 廊下に飛び出そうとするアスランとキラを、フレイとニコルが止めた。
「この基地の連中が対処することだ。オレ達が関わる義理はない」
「イザーク!? 何を! ここにはキラもいるんだぞ! 戦闘状態に入って放っておけるか!」
「演習だ! …地球軍と示し合わせた、下らない茶番だ」
「何?」
「イザーク、どういう事?」
 アスランとキラが畳みかけるようにイザークに問いかけた瞬間。
「皆、伏せて!!」
 反射的に体を伏せるイザーク達。アスランはキラを庇い、アイシャはミリアリアを庇いながら食堂へ飛びこむ。

 その直後、廊下の窓ガラスが銃撃で破られた。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
さすがフレイ、女の勘鋭し。
ていうかむしろキラさん首筋にキスマ…げふげふ。
残ってそうな気も…ごほごほ。
さて。
獅子の娘を鷹が子守り。結果、失敗。みたいな。
ほんとに一瞬の隙ついて大暴れされたんだと思います。フラガが弱いわけでは断じてありません。ええ。