BRING ME TO LIFE
第十八章・『発芽』
(2)
ぱらぱらと、ガラスの欠片が落ちる。外では激しい銃撃戦の音が、破壊音が、絶え間なく飛び交う。
「…大丈夫?」
「は…はい、ありがとうございます…」
腕の中のミリアリアの無事を確認するアイシャ。アスランはアスランで、咄嗟に庇ったキラの無事を確認している。
「………キラ」
「平気、ありがとアスラン。…フレイは」
「…………だ、大丈夫…」
信じられない事態に、呆然と答えるフレイ。
この銃撃が、ではない。…たまたまフレイの至近距離にいたため、ニコルが咄嗟に彼女を庇ったのだ。不本意ながら「コーディネイター」
が守ってくれたことに戸惑い、ニコルに複雑な視線を送っている。
「お怪我はありませんか?」
「え、…え、ええ……」
視線をそらしてそう答えるフレイ。ニコルも、彼女にそれ以上何かを言おうとは思わなかった。…彼女の気性からして複雑な心境であろう
ことは、目に見えてわかっているから。
そして、再び顔を見合わせるニコルとイザーク、ディアッカの三人。
だが先の時とは顔色が違う。
「…おい、なんなんだよこれ」
「おかしいですよ、この間とは明らかに戦闘の様子が違います!」
「くそっ! どうなってる!?」
「それはこっちのセリフだ! イザーク、これのどこが茶番だと!?」
「アスラン、それより基地の人に聞いたほうが早いよ」
「駄目よ! キラちゃん、私から離れないで!!」
「えっ?」
怒鳴り合うような話の流れのまま、事情を聞きに行こうとキラが立ちあがったところを、アイシャがその腕を掴んで止めた。
「いいから、あなたはここに」
「でもっ、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
「キラ! 俺が行く! お前は残れ!!」
「でも僕だって」
「キラ―――っ!!!」
押し問答の中、廊下の端に金髪が揺れた。
最悪だ。
アイシャの表情が凍り付く。
「え…っ、カガリ!」
「!! キラぁっ!!!」
その声に呼ばれ、キラは咄嗟に食堂から飛び出してカガリの姿を見つける。
カガリもキラを発見して、迷わずキラへ照準を定め直す。
そのまま、キラを目掛けて走り出した。
「! だめだカガリ、危ない!!」
彼女をめがけて、キラもまた飛び出す。
「キラ、今は出るな! 戻れ!!」
「ちょっと、イヤよキラ!! 撃たれたらどうするのよ!!」
「キラちゃん! 戻りなさい!!」
「アイシャさんっ、あれ!!」
「!?」
アスランとフレイの叫びはキラを止めることは出来ず、そしてどうにかキラの腕を掴んだアイシャはミリアリアの言葉に反射的に
示された窓の外を振り返ってしまい、その隙をついてキラはするりとその手を解いて走り去ってしまう。
「!! あっ、キラちゃん!!」
ミリアリアに示された、基地内の施設が占拠されてゆく様子に驚き、そして一度は届いた指先からすり抜けたキラを振り返るアイシャ。
「チッ、あいつ!!」
追って走り出す、アスラン。
「カガリ!! 待て、止まれ!! 来るなキラ!!」
彼女の背後から追いすがってきたフラガが叫び、彼女を捕らえようと走り、腕を伸ばす。
「ああっ、いた!! フラガさんいたよ!」
「フラガさん! 大変です!!」
「今攻めてきてるの、地球軍じゃないですよ!!」
「何!?」
更に後ろから追ってきたカズイ、サイ、トールの言葉に、思わず振り返ってしまうフラガ。
伸ばされたフラガの手は、しかし指先がカガリの髪を掠めただけだった。
「キラ―――――っ!!」
「カガリ!」
「キラ!! 待て!!」
ツキン
「痛っ!?」
一瞬走った頭痛に眉を寄せたのは、カガリ。
ズキッ
「う…っ」
うめくように喉を鳴らして、アスランが頭を押さえた。
激しい波のように酷くなっていく頭痛。
「った…! なんなんだ、急にっ」
「………っ…っく……!?」
思わず足を止めてしまうカガリと、息も詰めてしまうほどの痛みに声も出せず、頭を抱えて膝をついてしまうアスラン。
「…………………………」
そして、キラは。
ぎく、と体を震わせて立ち止まったきり、一点を見つめるように目を見開く。まばたきさえ忘れて。
息はほとんど詰めてしまって、浅く浅く早い小さな呼吸を繰り返す。
「…おい、キラ!? どうした!?」
異変に気付いたイザークが三人に、キラに駆け寄る。
「…………………まさか…」
三人の様子に、アイシャは愕然としてしまう。
「―――――――――ああぁぁぁ………っ!!!!!」
両手で頭をかかえて、唸るような悲鳴を喉から絞り出す。
「うわっ!?」
その声が衝撃波になって襲ってきたかのように、イザークが吹き飛ばされた。
「うわあっ!? …な、なんだ!?」
イザークの後ろから追っていたディアッカに激突し、二人でその場に倒れ込んでしまう。
「イザーク! ディアッカ!」
二人に駆け寄るニコル。だが、大したことはないと見るや、三人のほうへ目を向けた。