BRING ME TO LIFE
第二章・短い安息
(2)
アイシャとの最初のティータイムから数日後。
まだぎこちなくはあるものの、アンディとアイシャの二人がかりでかまわれては、キラも頑なでばかりはいられなくて。
結果、それなりに馴染んでしまっていた。何より、この二人があんまりかまってくるから、ここが敵地だという事もつい忘れさせられて、
ふとトール達を思い出してしまう。
いい大人のはずなのに、みんなと変わらないじゃないか。…なんて、思ってしまったり。
それでもふとした時に語り合う、この戦争の行く末については、考えさせられてしまうけど。
「…バルトフェルドさんって、答えは絶対言わないですよね」
「そうだね。…私の答えは私の答えだ。他人から良い影響を受けるのは大事だが、君くらいの年頃の子が相手では、気を付けないと私の
答えを摺り込む事になりかねない。自分の答えは、自分で見つけ出さなければ意味がない。たとえ、そこにたどり着くまでにどんなに
苦しもうと、回り道をしようと」
「…」
「人の数だけ答えがある。重なることも似通うこともあるだろう。だがそれは、まず自分で自分の答えを見つけることができてこその
結果にすぎないのだからね」
こんなふうにじっくりと語り合う時間も、キラの心を落ち付かせる要因になっていたのだろう。
ちなみにアンディに没収されたままになっていたプロテクターは、アイシャに頼むとあっさり返ってきた。
しっかり胸は抑えているものの、ふとした仕草に女性を感じさせられたりする事もあって。
「彼女が女である事を隠し通せなくなったら、君の責任だな。アイシャ」
自分に付き合ってエスプレッソを飲んでいる『愛人』に、そう話題を振る。
「あら、どうして?」
「あれから君と彼女とのティータイムは日課になってしまっただろう。知らない内に、君に影響されてきたんじゃないのか?」
「ふふ。それじゃあ責任を取って、キラちゃんは私達で引き取って娘にしましょう」
ぶっ、と思わず吹きそうになるアンディ。
「ア、アイシャ」
「そうね。娘にするにはまず私達が結婚しないといけないわね。早く戦争を終わらせましょう、アンディ」
にっこり。
必殺の笑顔に呆気に取られ、はぁと溜息をつく。
「…本当に、娘にでもできれば、このままここに置けるんだがな」
重くなった彼の声に、アイシャの顔からも笑顔が消えた、
キラが捕虜になってから、一週間。
今日、上層部から指定された使者が到着する。
キラを…、『白い悪魔』とザフトを震撼させたストライクのパイロットである『裏切り者のコーディネイター』キラ・ヤマトを、本国
プラントへと連行する為に。
アイシャを経由して、彼女がストライクに乗ることになるまでの経緯は聞いた。その直前には、彼女が背負った本人さえ知らない
秘密も知った。
その時点で、アンディの中からも彼女へのわだかまりは消えていた。
それに、彼女が時々見せる大人びた表情が気になって。
唯一の大切なものを置き去りにしてしまったままの老人のような、哀愁を漂わせるなんともいえない顔。
更に、知ってしまった彼女の宿命…その重さに、むしろ守りたいと。
そう想うようにさえなっていた。勿論、アイシャも同じように。
だが、彼女はあと一時間もすれば本国へ連行される。
しかも使者の一人は、あのエリート意識に凝り固まったクルーゼ隊の所属者だという話。
…これ以上、彼女が利用される事にならなければいいのだが。
アイシャも、そしてあまり態度には出さないがアンディも、それを心配していた。
地球軍にとっては『貴重な戦力』の彼女。それが捕虜にされたとなれば、黙っているとは思えない。キラには知らせていないが、
アークエンジェルは昨日、連合本部の方向へ移動を開始した。
確かに彼らにとって主戦力の片翼であるキラがいない今、下手にザフトに攻撃を仕掛けるよりもさっさと連合本部へ向かう方が賢明
ではある。だが、『貴重な主戦力の片翼』を取り戻そうと引き返してくる可能性もゼロではない。
ザフトにしても、彼女の戦闘能力自体は高く評価している。戦闘がまだ続いている現状で捕虜として捕えたとなれば、裏切り者としての
処刑よりも、自軍の戦力にする事を考えるだろう。
そして――――――――。
もしも、彼女が、『目醒めて』しまったならば。
一体何が起こるのか、それがこの戦争にどう影響を及ぼすのか、想像もつかない。
プラント評議会に圧力をかけた『ラボ』はどう出る。彼女を、一体どうするつもりなのだろうか。
…彼女の行く末を案じれば、暗雲ばかりが立ち込める。
このままここに隠してしまおうか。
アイシャは一瞬、それも本気で考えた。
だがアンディの立場を考えれば無理な相談であることも重々承知している。
やるせない沈黙が、空気を重く感じさせた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
アンディはどっちかっていうと
「娘というには大きすぎるな。君の妹の方が説得力があるぞ」とか何とか
反論するつもりだったものと思われます。
…さて、これで次にキラを迎えに来たのがイザークとかディアッカだったら蹴られるかな(笑)
大丈夫です。やっと大本命登場です。
…やっとアス×キラらしくなるか…??