BRING ME TO LIFE
第四章・姫君と歌姫の密談
(1)
…あのね。
――――――――――ずっと、訊きたいことがあるんだ。君に。
「――――――――キラ様!」
数秒動きが止まってしまったが、とにかくシャワーを止め、『彼女』の様子を注視。
「……リィ……、アス…ラ…………」
うわ言で人の名を呼べるのだから、大事ではないだろう。
ホッと旨を撫で下ろし、頭を抱えるようにして頬をぺちぺちと叩く。
「キラ様、しっかりなさって。キラ様!」
しかし、意識を取り戻す気配はない。
「………」
人を呼ぶわけにはいかない。
…『彼女』は、自分がどうにかしなくては。
ラクスは決断が早い。そして、おっとりしているように見えて決断してから動くのも早い。
彼女は実に、一人でキラをバスルームからドライエリアへ引きずり出し、彼女の体を拭いてバスローブを着せ、ベッドへと運んだ。
火事場の馬鹿力的なものもあったが、実際、細腕のラクスが必死になれば何とかなる程度に、キラは軽かった。
食事を全く摂らなかったわけではない。
―――――AAで、食事を摂る度に…戻していたのだ。
人の命を殺めた自分が、また別の命を奪い取る。自分が生き続ける為に奪い摂る。
その行為に、どうしても。どうしても。どうしても。
そんなのは感傷に浸っている自分の綺麗事だと戒めても、考え付く様々な理屈で頭を納得させようとしても、体は勝手に拒絶してしまって。
バルトフェルド邸にいたほんの数日の間でさえ、それがなくなることはなかった。
彼とアイシャの暖かい心に触れて、いくらかましにはなっていたけれど。
仮にも医師免許を持つ者として、緊急時に多少の処置が行える程度の医療器具は用意してある。それをベッドサイドのテーブルに広げ、
ラクスはキラの診察を始めた。
…軽度の栄養失調。それに、緊張と、疲労。…いや、過労だろうか。
軽く発熱している。
とにかく栄養を摂らせて、心も体も安静に。
…栄養のある食事を用意することはできる。体を安静にさせる環境も用意できる。ヴェサリウスやプラントへの送致も、キラのこの
状況を伝えれば延期できるだろう。
けれど、心は。
「…アスランが素直になって下さったら、一番いいのですけれど…」
はぁ、と溜息をついてそう呟くと、キラがゆっくりと瞼を開いた。
「…?」
「! キラ様、気が付かれました?」
うっすらと開かれた瞳は、同性の自分から見てもとても魅惑的で。
「………ラクス…? 僕……」
「キラ様、バスルームで倒れられましたのよ」
「えっ…? !!」
びくっと体が震えて、飛び起きようとする。
「いけません!」
それを驚くほど強く、ラクスが止めた。
「キラ様、熱があるのですから安静にしていて下さいませ。必要なものは、わたくしが用意致しますから」
「で、でも」
「あ、でも」にっこりと笑って。「男装用のプロテクターを取ってきて、というお願いだけは聞けませんから、そのつもりでいらしてね♪」
おいおい。
安静にさせるんじゃなかったのか、病人にショック与えてどうする。
そうつっこめる人物は、この部屋には存在しなかった。
にっこり微笑んでいるラクスが何を考えているのか、キラにはさっぱりわからなかった。
ただ、彼女にまで自分の秘密を知られてしまったことだけは確か。
「………あ、の………」
「嬉しいですわ。わたくし、歳の近い女の子のお友達がおりませんでしたから、憧れていましたの」
「え?」
「まさかキラ様と女の友情を結べるなんて、あまりにもわたくしの願い通りで怖いくらいですわ、本当に」
あっさりとそう言ってのけるラクスに、キラは明らかに熱のせいではない眩暈を覚える。
「ラクス、あの…迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
とにかくまずは、倒れてしまった自分の世話を一人でしてくれたらしい彼女に、その謝罪を。
「まあ、迷惑だなんて! 大体キラ様は軽すぎます。ちゃんとお食事を摂っておられまして?」
「えっ、いや、あの、………お願いです。この事、僕のこと……誰にも言わないで下さい。秘密にして欲しいんです」
必死に訴えるキラに、ラクスはきょとんとしている。
「……………まあ、勿体無い」
…がくっ。
ああ、そういえばアイシャも似たような事を言って『キラちゃん』と呼ぶのをとうとう最後までやめなかったっけ。
やっぱりこの二人、似てる。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
やたらキラに似てる似てると連呼させているラクスとアイシャですが。
ごめんなさい。これ、海原の勝手な個人的感想(主観かな、もう)が混じりまくってます。
…アイシャさんっていい意味で結構クセありそうな人だと思うので…。
そういう意味では是非一度本気でイザークと舌戦を繰り広げてほしかったなぁと(笑)