++「BRING ME TO LIFE」第四章(2)++

BRING ME TO LIFE

第四章・姫君と歌姫の密談
(2)







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 肩を落とした自分の顔を覗き込むラクス。
 その顔があんまり無邪気で、つい小さく笑ってしまう。
「…お願いです。両親との…約束なんです」
「……何か事情がおありですの?」
 苦笑しながら、キラは首を横に振る。
「僕にもわからないんです。時が来れば教えるけど、今は難しくて言ってもわからないから、キラが二十歳になったらね、って。それ以上 のことは…結局教えてくれなくて」
「まあ」
「でも、子供心に、それは僕だけじゃなく両親にとっても大事なことなんだっていう、緊迫感みたいなものは感じて…。だから…お願い します」
「………」
 ラクスは少し淋しそうに微笑んだ。
「……キラ様の意志を無視して無理に暴こうとするのなら、倒れているキラ様を見つけた時に、人を呼んでおりますわ」
「…それじゃ…」
「残念ですわ。折角アスランに良いお相手が出来たと思いましたのに」

 ………。
 今、彼女の口から物凄く薄情な言葉を聞いたような。
「あんなに大事に想っているキラ様が女性だとわかれば、もう間違いなくノックアウトだと思うのですけれど」
 ………………。
 更に追い撃ちをかけたような。

「…」
 ええっと。
 つい額を抑えて俯きこむキラに、はっと表情を引き締めるラクス。
「キラ様?」
「ああっ、いえ…大丈夫です。そういうのじゃなくて」
 体調を誤解されたと悟り、すぐに彼女を振り仰ぐ。
「…あの、ラクスはアスランの婚約者…ですよね」
「はい」
 …笑顔で肯定するわりには、かなりとんでもないセリフを聞いた気がするのだが。
「…あの…そのわりには、なんだかアスランが僕を好きになったらいいみたいな言い方したけど…」
「ええ」
 …ええって、そんな普通に微笑みながら言われても。
 汗マークを頭上に乗せて絶句しているキラに、ラクスはふふふっと微笑んだ。
「わたくし達、仮面婚約者ですのよ」
「仮面、婚約者?」
「本当はお互い他に愛する人がいるのに、世間の目を欺くために夫婦になる方が稀にいらっしゃるでしょう? その婚約者版ですわ」
「え…」
 どうリアクションすればいいのか困惑するキラ。
 しかしラクスは、歌姫ラクス・クラインではなく、恋する少女の顔で微笑み、言葉を続ける。
「…………わたくしには、とても、とても好きな方がいます。それは残念ながらアスランではないのです。彼もそれは承知していますわ。 わたくしも、彼がわたくしに恋愛感情を持っていない事は存じています」
「…そんな」
「わたくし達の婚約は元々、わたくし達が産まれる前に親同士が決めた事です。わたくし達の意志を無視したところで勝手に決められても、 わたくし達がその通りになるかどうかなんて、わからないでしょう? その話を聞いた時だけは、お父様の神経をちょっと疑いましたわ」
 クスッと悪戯っ子のように微笑。
「アスランと約束しているんです。わたくしにも、アスランにも、好きな人ができたその時には、きちんと婚約を解消しましょうって」
「…だけど…ラクスとアスランの婚約は…」
 極端な少子化と激増する不妊症によって種としての存続が危ぶまれているコーディネイターの、未来を切り開く希望だったのでは。
「希望といわれましても、恋する心は止められませんわ。それに、愛する人の子供を産んでこそ、本当の希望でしょう? 偽りでメッキを した希望など、長く輝くものではありませんわ」
「……………」
 なんて、つよい人だろう。
 自信をもって語るラクスが、とても眩しく見えた。

「…こんなに素敵な人を婚約者に持って、好きになれないなんて…アスランって女の子を見る目がないね」
 微笑しながら言う。…うまく、笑えただろうか。
 ラクスはただ、優しく微笑み返すだけだった。

「それでキラ様、話が戻りますけれど、キラ様の体調が回復するまでは、あのプロテクターはわたくしが預からせて頂きます」
「え、ええっ!?」
 突然話題を戻されて、しかもとんでもない事を言われて、キラは一瞬パニクッてしまう。
「キラ様。ご自分の胸のサイズをもう少し自覚なさらないと。あんなもので無理に押さえていては、もとが健康体でも体に悪いですわ」
「え…っと…」
「事情がおありなら、仕方がないとは思いますけれど。でも、あんなものでぺったんこにしては、形も崩れてしまいます」
 …最後の部分で微妙に話の方向がズレたような。
「せめてさらしを巻く程度にしておいて下さいませ」
「さらし? って、何?」
「あら、歴史の授業で出てきませんでした? 西暦の頃に女性が男装するために使った布のことですわ。ぎっちり巻きつけて胸をつぶすん ですけれど、同じ胸をつぶすのでも、あの金属プロテクターよりもよほどマシですわよ」
「マシですわよ、って…ラクス、使ったことあるの?」
「母が生前、古代オリエント舞踊をなさる時に使っているのを見ておりました」
「ああ、それで…。で、でも、そんなにすぐ用意できるものでもない…ん、じゃ…」
 …笑顔の崩れないラクスに、キラの語尾が崩れる。
「ご安心下さい。何かの役に立つと思って、持ってまいりましたわ」

 …何の役に立つと…まあ、布なら包帯の代わりにはなるかな…。

 思わず苦笑して、そのままクスクス笑い出してしまうキラ。
「…やっと少し、元気が出てきましたわね。キラ様」
 そんな彼女の様子に、優しく微笑む。
「なんか、ほんとにラクスにはかなわないや」
「フフフ。そうですか?」
「うん」
 クスクス笑い合う二人。

「………少し、外の空気を吸ってみた方がよろしいかもしれませんわね」
「え?」
 ここはラクスの為に用意された部屋。特殊強化硝子のはまった窓に目をやれば、訓連用の中庭が見える。捕虜を拘束する部屋に移され れば、窓などないだろう。…キラの処遇に関して、アスランと基地の責任者に意見しなくては。
 ラクスは内心そう思いながら、ベッドに上半身起こしているキラの肩をゆっくり押した。
「もう暫く休んで下さいませ。とにかく安静第一。栄養摂取が第二ですわ。…目が醒めたら少しお散歩をして、それからお食事に しましょう。体を動かせば御飯も美味しく感じますわ」
「…、でも、僕は捕虜だよ? そんな自由にしたら…」
「キラ様はそんなご心配なさらないで。とにかく今は、ご自分のことを第一に考えて下さいませ」
「……………」

 いいんだろうか。
 …よくは、ないだろう。
 ラクスは勿論、彼女と共に捕虜引き取りの任に就いているアスランにも、迷惑がかかるのではないだろうか。
 押されるままにベッドに横になりながらも、そう考えるととても眠ってなどいられない。そもそも、ここはラクスの部屋の筈。捕虜が いつまでもこんな所にいるのを、他の兵士達は不審に思わないのだろうか。
 眉間にしわをよせて悩み込んでしまったキラに掛け布団をそっとかけると、ラクスはそっと、子守唄を歌い始めた。
「―――――………」

 優しい、優しい子守唄。
 懐かしい子守唄。


「……昔…………僕が小さい頃、母さんも歌ってた…この歌……」

 にっこりと微笑みながら、歌い続けるラクス。



 その内に、キラは眠りついてしまった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
えー…ラクスのお母さん勝手に亡くなってる事にしちゃったけど…本編ではどうなってたっけ…?(かなり不安)
それから、アスランとラクスの婚約の関係…コーディネイターが少子化+不妊症っていうの、合ってたかな…。
二人の婚約が決まったのがいつだったのかも未確認…。
あのへんのビデオ、上から録り重ねちゃってもう確認できないのであります…。DVD待ち…。
かな〜り不安要素てんこもりです。トホホ。

でもって、歌姫様本領発揮な必殺子守唄でした。
…しかし…書いてる私が言うのもナンですけど、アス×キラなのに二人全然顔合わせてないなぁ…^^;