++「BRING ME TO LIFE」第六章(1)++

BRING ME TO LIFE

第六章・巡り合う戦士達
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「二人で中庭にだと!? お前らには危機感ってものがないのか!! あの捕虜はっ、あのストライクのパイロットだぞ!! G操縦の ための特殊訓練を受けた地球軍の軍人なんだぞ!!」
「はっ、は…申し訳ありません」
 一回りは年下であろう少年からの叱責に戸惑う兵士をよそに、チッと舌打ちを残してさっさと中庭に向かうイザーク。
「ここは戦場の筈じゃないのか!? 地球ってのはこんな暢気な処だったのか!!」
「少し落ちつけ。ラクスなら大丈夫だ」
「煩い!!」
 お前の言葉など聞く耳持たんとばかりに、そのままの勢いでずんずん進んでいく。歩調を緩める気配はない。
「でも、僕にはどうしても信じられないんですけど」
「何が?」
 苛立つイザークと彼を追うアスランに代わり、ディアッカがニコルの言葉に答える。
「特殊訓練を受けた軍人に、あのラクスさんが気を許すでしょうか」
「……まあ、あんまり想像できない光景だな。マッチョマンと並ぶ歌姫ってのは」
 はぁ、と小さく溜息をついてしまうアスラン。

 皆、キラのことを知らないからそういう発想にしか行かないのだろう。
 無理もない。『裏切り者のコーディネイター』の事はトップシークレット。父たるパトリック・ザラによって隠匿された情報だ。それは ごく一部の者しか知らない事実。
 でも、だからこそ。
 キラがコーディネイターだと知った時、彼らはどうするだろう。

 悩みながら中庭に下りると、遠くに人影が一つ。
「なっ……」
「あれっ、ラクスさんは!?」
「あいつか…!!」
 命綱ラクスの不在に顔色を変えるアスランと、獲物を見つけた肉食獣の瞳になるイザーク。
 走り出す。それを察したアスランが咄嗟に腕を掴む。
「ちょっと待て!」
「離せ!!」
「イザーク、その前にラクスさんを…」
 止める間もなく。
「おい貴様!!!」
 叫んだイザークの声に気付いて、ストライクのパイロットは振り返る。

 半分以上沈んだ夕日を背に。

 強い風に流れる茶色の髪と、逆光で色はわからないが子供のように大きな瞳。頬に光る筋は、涙の跡だろうか。
 細い体。
 ――――女のような、細い手足。


「――――――っ」
 真っ先に固まったのはイザーク。
 人違い、だろうか。いや、確かに中庭には見張りの兵以外にはラクスと例の捕虜しかいないという話だった。そしてあれは、ラクス ではない。何より彼は囚人服を着ているではないか。
 間違い、ない、…らしい。

 アスランも、同じように魅入られていた。
 キラは親友で、改めて確認するまでもなく、男だ。
 でも、そんなことはどこかへ吹き飛んで。
 綺麗だと。美しいと。
 ……………ふれたい、と。
 素直にそう思って、魅入ってしまった。

 ディアッカも一瞬目を丸くしたようだが、イザーク程極端な反応ではなくて。
 そしてニコルは、一瞬芸術写真のようなその光景に見惚れてしまったものの、すぐに別のところに気付く。


「…あの…誰、ですか?」
 アスラン以外見知らぬ集団。しかし、彼を含めて四人。
 この人数で何かを察しない程、キラは想像力が乏しくはない。

 ひょっとして―――奪取されたGのパイロット達。

 固まった彼らにこちらも一瞬面食らったけれど、涙を拭いて問い返してみる。
 自分の想像が正解かどうか確かめる為に。

 しかし、キラのその問いが、イザークの逆鱗を逆撫でした。
「――――――誰ですか………だと……!?」
 それこそ夜叉か羅刹のような顔で、イザークはキラの目前に迫り、ぐいっと腕を捻り上げた。
「うわっ!?」
「貴様がストライクのパイロットだと!? ふざけるな!!」
「イザークやめろ!!」
 顔色を変えたアスランが、キラの腕を解放する。しかしイザークは、今度はキラの両腕を掴んでぐいぐいと揺さぶった。
「イザーク!」
「こんなっ、こんなひ弱そうなナチュラルにっ、オレが!? そんなバカな話があるか! こんな奴にGを動かせるわけがない!!」
「痛っ、は、離して下さい!! 何なんですか一体!」
「やめろと言っているだろう! 落ちつけ!」
「そうだ、お前は本物のストライクパイロットを隠すための偽者だろう! お前なんかに、お前みたいなナチュラルに…!!」
「っ」
 ぎり、とイザークの指が腕に食い込み、反射的にそれを振り払う。
「!!」
「いい加減にして下さい! 突然わけのわからないことを! 間違いなく、僕がストライクのパイロットですよ!」
「キラ! お前までキレてどうする!」
「ん? おいちょっと待てアスラン、お前こいつの事知ってんのか!?」
「話を混ぜ返すなディアッカ! とにかく二人共、一度落ち付いて…」
「…貴…様ァ………!! ナチュラルの分際で!!!」
 混乱する外野をよそに、イザークの拳がわなわなと震える。
 殴りかかるか、とアスランが警戒し、キラがくっと緊張したその時。

「あなたは…コーディネイターですね?」

 ニコルの言葉が、響いた。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
本編でも一度こうやってみんなで衝突してくれたらなぁ、という海原の願望が
ところ狭しと詰まりまくっております(笑)
なんていうか…そうしたら結構スッキリしたんじゃないかなぁ、キラもアスランも…。とか思ったり。
…ニコルのいない今、もう完全に叶わぬ望みですけどね…。
(だからこうやって勝手に引き合わせたんだけど。)