BRING ME TO LIFE
第六章・巡り合う戦士達
(2)
「……コー…ディネイター………だと……?」
凝視してくる銀髪の少年。他の二人も、自分をじっと見ている。アスランだけは、戸惑ったように三人の様子を伺っているけれど。
キラは複雑な表情で…でもしっかりと一度、頷いた。
深く溜息をついたのはニコル。
「…やっぱり…。…薄々、そうじゃないかとは思っていたんです。あの動き、それに、あんな稚拙なOSを、動かせるレベルにまで改良
する能力…。特殊訓練を受けたと言われるよりも、よっぽど説得力があります」
「って、んな落ちついて分析してる場合かよ。つまりお前って、裏切り者。だろ?」
「っ…」
けろっと言われたように聞こえるが、しかしディアッカの目は明らかにさっきまではなかった厳しい光を宿していて。
「僕は…! 僕はっ…」
「……違うとでも言うつもりか!?」
キラの煮え切らない態度に再び爆発したイザークが、キラの胸倉を捻り上げる。
「やめろ!! クルーゼ隊長との条件を忘れたのか!」
「煩いっ!! 腰抜けはすっこんでいろ!!」
「何!?」
「何故ナチュラルどもの味方をする!? …あれだけの…」
…自分に傷を負わせる程の。
「…あれだけの力を持っていながらっ、何故裏切る!!」
「…っ僕は裏切ったんじゃない!! 友達を守りたかっただけだ!!」
「友達だと!? ハッ、ではそいつらが足付きのナチュラルか!! 貴様、ナチュラル共が何をしてきたか知らないとは言わせんぞ!
それを知っていて、それでもナチュラルを友だと言うのなら、裏切ったのと同じだ!!」
「っ………」
どうして。
どうして、どうして、どうして?
コーディネイター同士に特別な仲間意識があるのは知っている。絶対数が少ない上に、血のバレンタインの悲劇に見舞われて。
コーディネイターであれば家族の一員、特別な仲間。…そんな強い絆があるのは知っている。
自分は両親がナチュラルで、第一世代だから。中立国にいて、ナチュラルの中で暮らしていたから。だから、それを実感できないだけ
かもしれない。
でも。
どうして、友達を守りたいという、ひととして当たり前のことだけで、裏切ったことにならなくてはいけないんだろう?
「やめないか! …そんな事…聞き出せるものなら、俺がとっくに聞いている」
イザークを諌めながら辛そうに吐き出されたアスランの言葉に、しかしキラはキッと彼を振り返りざま、イザークの手を振り解く。
涙を、瞳いっぱいに貯めて。
「君がいつ、何を聞いたっていうんだよ!?」
「何?」
「君はいつだって一方的だったじゃないか!!」
「何だとキラ!! 俺は何度も聞いただろう! 何故ナチュラルの味方をするのかと! そうだ、それこそ今イザークが言ったことを、
ずっとお前に聞いてきた! お前は友達がいるとしか言わなかったじゃないか!!」
「だから!! 友達がいるから、友達を守りたいからって、ずっとそう言ってるじゃないか! それなのに、君はずっと一方的にこっちに
こいとか、そんなことばっかり! 行けるものならとっくに行ってるに決まってるだろ!? でもみんなは、ずっと独りだった僕を支えて
くれた、大事な友達なんだ! 君と会うまで僕がどんなだったか、どうしてこうなったのか、君はそんなこと一度も聞かなかったじゃ
ないか!!」
「そう聞いたらお前は戻って来たのか!?」
「そんなのわかんないよ! でもきっと今より違ったよ!! こんな…っ!! ……僕がどんな思いで君と戦ってきたか知らないくせに!!」
「それはこっちのセリフだ!! お前をっ、…撃たなきゃならない、そう決断しなくちゃいけなくなった俺の気持ちなんか、お前は
考えもしなかったんだろう!!」
さっきまで止める側にいた筈のアスランも、頭に血が昇って。
逆ギレしてしまったキラも、もう止まらなくて。
そしてここに、キレたまま置いてけぼりにされている人物がもう一人。
「貴様らいい加減にしろっ!! わけのわからんことばかりごちゃごちゃと!!」
「お前には関係ない! ちょっと黙ってろ!!」
「何!? お前、まだ裏切り者を庇う気か!?」
「庇ってなどいない!!」
「だったらどうしてすぐこいつをオレに会わせなかった!! 自分の知り合いが裏切り者だと知られるのを恐れたからだろう!! この
腰抜けが!!」
「イザーク!! お前…っ!!」
「そもそも貴様さえ裏切らなければ!!」
左手でキラの服を掴み、右拳をぐっと引いて。
そのままキラの頬にヒットすると思われたイザークの拳を横からすっと流したのは、なんとニコルだった。
「なっ」
流れるような動きで二人の間に割って入ると、キラの頬を容赦なく平手打ち。
「!!」
「…ニ、ニコル」
あっけにとられるイザークとアスラン。ディアッカはヒューと口笛をひと吹き。
打たれたキラは左手で頬をおさえ、しかしやっと頭がスッと冷静に戻る。
「………例え理由はどうあれ、あなたは僕達の仲間を数多く殺してきた。それを許す事はできません」
「……………」
穏やかに。しかし、厳しく。
ニコルの言葉は、キラの心の傷口を開く。
痛むのは、それが逃れようの無い真実だから。
徐々に俯き込むキラをじっと見据えていたニコルだが、不意にアスランに向き直る。
「彼があなたの友人であったとしても、同胞を殺した人物には違いないんです」
「…そんな事は…わかっている…」
「だったら、彼を庇いすぎるのもどうかと思います。彼は、裁きを受けるべき事をしてきたんですから」
霧のかかったような頭の片隅で、キラはアイシャの言葉を思い出していた。
『仲間を殺したと彼を責めるの? なら、あなたも責められる覚悟はあるのでしょうね。彼にとっては私達もまた、仲間を殺した仇なのよ』
でも、それを言い訳にしたくない。
『勿論それが免罪符になるわけではないわ。でも、そのメビウスの輪を絶ち切れないから戦争が終わらないのも、また事実なんじゃないかしら』
アイシャさん、それはそうかもしれないけど。
だけど、じゃあ僕はどうしたらいいの?
遠くでみんなが喋ってる。
僕のことを話してる。
何か、言わなくちゃ。
何か。
ぐらり、と不意にキラの体が揺らいだ。
「!!」
話している内にアスランに歩み寄っていたニコルが、その気配に気付いて振り向くより早く。
イザークが、キラの鳩尾に一撃入れていた。
「イザーク! 何を!?」
「フン、やはりこいつは裏切り者だな。多勢に無勢で何をする気か知らないが」
「おいイザーク。………オレの目にはそいつ、倒れそうになってたように見えたけど?」
「何?」
やれやれ、と頭を押さえるディアッカと、訝しんでキラを見るイザークと。
ずる、と力の抜けたキラの体が地面に落ちる。
「キラ!!!」
―――寸前、アスランがそれを抱きかかえた。
「おい、キラ!?」
抱えなおして顔を見ると、かなり顔色が悪い。首筋に冷や汗をかいていて、鳥肌が立っている。
「キラ! キラ!!」
「アスラン、落ちついて! とにかく、彼を寝かせてここの軍医を呼びましょう」
「あ、ああ」
ニコルに諭され、キラをお姫様抱っこで抱えて、兵舎の方へ向かうアスラン。
「イザーク。あなたなら彼の様子がおかしいことくらい、気付けたんじゃないですか? いきなりボディブローは乱暴すぎますよ」
呆然としているイザークを小さく責めるような視線で見据えてそう告げる。
「…フン、あの程度で済ませてたまるか」
はっと我に返ったイザークはそう言い捨てて、しかしバツが悪そうに視線をそらした。
「彼はあなたの個人的感情で処罰されるべき人じゃない。違いますか?」
「お前も殴っただろう!」
「ああでもしないと、場が収まらないでしょう。僕が好きでぶったと思ってるんですか?」
「…」
ムッとして押し黙るイザークに背を向け、ニコルはアスランの後を追った。
「…やれやれだぜ、まったく」
はぁ、と溜息をついて、両手を頭の後ろで組むディアッカ。
「念願のストライクのパイロットの顔を拝んだご感想は?」
「……………………最悪だ!!」
一言だけ言い捨てて、自分も兵舎に向かう。
アスランの後を追うためではなく、ここに滞在している間に使う予定の自室へ戻るために。
「……………あら?」
日が暮れてからやっと戻ってきた歌姫は、一人ぽつんと立っていたのが明らかにキラではないと分かり、かなり驚いた様子。
ん、と振りかえったディアッカも、そこにラクスの姿を認めた。
「よ。歌姫様」
「…? あの方は?」
「おいおい、まずあの裏切り者の心配かよ」
「まあ、ディアッカまでそんなことを仰るの?」
「そうヘソ曲げるなって。あいつにはあいつの事情があるんだろうが、あんな風にキレられちゃその事情もさっぱりわかんねぇし」
「………」
ディアッカの言葉に、かなり穏やかならぬものを感じ取るラクス。
「…あなたが地球にいらっしゃるという事は、ひょっとして他の皆様も…?」
「ああ。来てるぜ。でもってストライク野郎と一悶着」
「まあ! それで、あの方は!?」
「ブッ倒れてアスランに連れてかれちまったよ」
「……………」
絶句、するより他にない。
…これが吉と出るか凶と出るか。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
前のツブヤキにも書きましたが、…いっぺんこうやってみんなでぶちまけ合おうよ。
という海原の願望劇場でした。はい。
ニコルが少しキツすぎたかな…とも思いますが、彼は結構芯のしっかりした子だと思うし、
あの泥沼をどうにかできるのはニコルだろうなぁ、と思いまして。
ディアッカってあんまり進んで仲裁に入る人じゃなさそうだし。
ニコルは天性の仲裁役かな、と。
弁護士とか検事っていうより、裁判官とか裁判長。そんなイメージ持ってます。