BRING ME TO LIFE
第八章・絶望の余韻
(1)
…キラ。
――――――――――ずっと、訊きたかったことがあるんだ。
警報は、既に数分前に止まっていた。
「―――……」
ニコルは唇を噛んだ。イザークも眉を寄せ、ディアッカは仏頂面で腕を組んでいる。
敵襲の知らせに外へ出ると、地球軍の陸軍隊が攻めて来ていた。
Gがあれば応戦できたのだが、今回は『緊急にストライクパイロット引き渡しの任で降下するため』、という納得できるようなできない
ような理由でMSの同行は認められず、ニコル達に自機はない。
だからと言って黙っていられるかと陸戦用バクゥで出ようとしたところ、この基地所属の兵士に止められた。
「いいんだよ、ただの恒例行事なんだから。君達は兵舎でじっとしていなさい。大した被害は出ないから。それにどうせ、すぐ終わる」
どういう事だ、と詰め寄ろうとしたイザークをディアッカが止め、問い詰めようとしたニコルも止めて、二人はディアッカに引きずられる
ように彼の自室へ戻った。
その途上偶然見てしまった、信じられない光景。
「………どうする」
憮然と言葉を放つイザーク。
「…どうするも何も、…隊長に…連絡して」
「おいおい、クルーゼ隊長に報告してどうすんだよ。これって完全に管轄外だろ」
戸惑いながら答えるニコルの言葉を遮って、すぱっと言うディアッカ。
「……だったら誰に報告する。オレ達はクルーゼ隊だぞ。クルーゼ隊長に報告するのが筋だろう」
反論するイザークに、ディアッカは小さく溜息をついた。
「何だ!」
苛ついて噛み付くイザークだが、ディアッカは難しい顔のまま。
「…報告したって多分、変わらないぜ」
彼らが見た光景。
それは、ザフト兵と地球軍の兵士が、日の暮れた夕闇と銃撃戦のどさくさに紛れて取引をしている現場。
地球軍の兵士から渡された鞄には、袋に小分けされた白い粉。ザフト兵が渡したアタッシュケースは、…札束。
何の取引かは一目瞭然。
「……最近、地球製の麻薬が…一部のプラントで流れているっていうのは、聞いていましたけど…。…まさか、こんな風に……
持ち込まれていたなんて………」
医療に関わる者としても、軍人としても、そして勿論、ニコル・アマルフィ個人としても…やりきれない。手を組んで額を乗せ、深く
溜息をついてしまう。
「…それだけじゃないな」
ディアッカが言葉を続ける。
「多分、こうやって適当に地球軍と交戦する事で、物資調達や補充、予算の計上なんかを調整してるんだろ。…どっかで適当に水増ししてな」
「な………っ!?」
「同じ事を、地球軍側もやってるんだろうぜ。お互い確信犯ってやつさ」
ぐっと拳を握るイザークに、ディアッカは淡々と告げた。
「……これも戦争の実情だ。オレ達には、たまたま今まで見えなかっただけで」
…争いのどさくさに紛れて悪魔の薬を売り、その利益で私腹を肥やし、又は裏ルートから内密に違法物資を入手して。
戦争が終わらないのは、なにもナチュラルとコーディネイターの戦力が思いの他拮抗しているからだけではない。
戦争によって利益を得る者が多くいるから。
それも否定できない一面。
しかも現在戦局は疲弊し、泥沼化している。それにならうように地球の経済も疲弊し、プラントにも少なからずその影響は及んでいる。
戦場と化す街。価値を失う紙幣。絶たれる流通。
焼かれる田畑。失われる物資。吊り上がる値段。
―――――活発に取引される兵器。
「………くそっ!!」
がんっ、と壁を叩くイザーク。
「こんな腐った奴らがいるから、いつまでたってもナチュラル共が大きな顔をするんじゃないか!!」
「…だからこそオレ達が勝って、正していかなきゃだろ。こんなフザけた事はよ」
「わかってるそんな事!! …くそっ、くそっ!」
どんなに詰ってみても、罵ってみても、正論を吐いてみても。
…今、自分達にどうこうできる問題ではない。
やりきれない沈黙が、重い。
「………僕、アスランに…この事、伝えてきます。キラさんの診察も、放り出して来ちゃったし」
何とか気丈に立ち上がるニコル。
「………アスランに言ったって、どうにもなりゃしないだろ」
「…警報が鳴って、様子見てくるって出てきたんです。一応、報告はしないと」
釘を刺すディアッカにそう言い置いて、出ていく。
「……………くそ…! 絶対にオレが終わらせてやる…!!」
「………」
何を、とは言わない。
ディアッカとて志は同じだ。そうでなければ、わざわざ軍に志願などしない。
ザフトに勝利を。そしてこの争いに終止符を。
「………」
ふと、ディアッカがニコルの出ていった扉を見る。
「…何だ?」
「いや。…そういやお前はともかく、アスランがあんなにテンション上げてるところなんか初めて見たなと思って」
いきなりそっちに話が飛ぶかと思いつつ、眉を寄せる。
「ニコルが手を上げるのも初めて見たしな。ま、肝心のストライクパイロットに、一番度肝抜かれたけど」
「………確かに…あのアスランがあそこまでキレるとはな…。キラだかピカだか知らないが、あいつ一体何者だ?」
「それこそ、本人に聞くしかないだろ? その本人が意識不明じゃどうしようもないぜ。それともアスランに聞くか?」
「…」
不愉快極まりない。
そう主張した表情で立ち上がるイザーク。
部屋を出ようと扉に歩み寄るが。
「…おい」
「ん?」
「…頼みがある」
珍しく殊勝な態度におやおやと肩を竦ませ、歩み寄る。
「何だよ」
「……………」
そうして彼から聞いた言葉に、え、とまぬけに口を開いてしまう。
それを了承と受け取ったのか、彼はそのまま部屋を出ていった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
このシリーズで、海原がイザークボイスで実際に聞いてみたいセリフのトップ1が出ました。
さてどれでしょう。
「(前略)キラだかピカだか知らないが、(後略)」
かなりマジで聞いてみたいです。特に↑抜粋したとこ。
ちなみに第二位は第六章(2)の「……………………最悪だ!!」だったりします。