++「砂時計」3−1++

砂時計
再会
(1)







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 直接メンデルと連絡を取ろうかと思ったが、マリューはメールにはこまめに返信をくれるものの、あまり通信を受けてくれたことがない。 それに、キラがディアッカと会ったことを、彼女は教えてくれなかった。キラが人と会える状態にまで回復していることも。
 …そこに何か、理由があるのなら。
 なら、彼女よりもディアッカに先に話を聞いたほうがいいだろう。
 隠すということは言えない事情があるという事。そしてマリューはそういう事情を決して口にする人ではない。軍人、しかも少佐という 地位にあったためなのか、元来の彼女の性格なのか…なんとなく後者のような気はするが。
 ともかくそういうことなので、まずはキラと接触した、しかも比較的口を割らせることができそうなディアッカを問い詰めるべく、 オーブへ降りた。
 ラクスのところにもカガリからこの情報は伝わっていたらしく、寄り道の許可を願い出ると、にっこりと笑顔で『わたくしの分もキラの 様子を伺ってきて下さいね』と念を押された。…その笑顔が妙に恐ろしく感じたことは、少々大袈裟にしてディアッカに伝えなければ ならないだろう。


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 オーブ本土、オノゴロ。
 一度は都心部を自爆させたこの島だが、今は復興作業が急ピッチで進められている。
 そんな都心から離れた町の、ミリアリアの実家に程近いマンション。ディアッカはここで彼女と、結婚を前提とした共同生活をしている。 要するに同棲ということだが、それを言うとミリアリアが照れながら怒る。…照れるくらいなら怒らなくてもいいのにと、彼女の反応が アスランには謎だった。
 自爆の被害を免れたこの地域は、停戦協議開始が決定するまで大西洋連合の占有地になっていた。当然地球軍が駐在していたが、 カガリがオーブ再興を掲げてからはあっさりと引き上げ、駐在軍に怯えるように細々と暮らしていた国民達も続々と動き始めた。確実に 以前の活気を取り戻しつつある。


 ピンポン、とインターホンを鳴らす。
 何の連絡もせず、とにかく一直線にここまで来てしまったが、よく考えたら電話の一本くらいしておくべきだったな、と今ごろ気付く。 二人共オーブ復興のため働いているのだから、留守の可能性もあるのだ。こんな簡単なことにも気付かないくらい動揺していると、それも また今になって気付く。
「はーい、誰?」
 インターホンを介さずに、相変わらずの声がドア越しに聞こえた。そして、そのまま扉が開く。
「っ…………」
 自分の顔を見た瞬間、ギクッと強張るディアッカの表情。
「…久しぶりだな」
 わざとではないのだが、険悪になってしまう声。
「…ア…アスラン、……なんで」
 はっ、と不自然に言葉が切れ、足元を見るディアッカ。
 その視線を追うと、以前訪れた時には見なかった革靴。

 ―――――――まさか!?

 礼儀も何もかもふっ飛んだアスランは、無理矢理ディアッカを押し退けて玄関に上がる。
「うわっ、ちょっ、おい待てって!!」
 慌てるディアッカに構わず、乱暴に靴を脱ぎ捨てて短い廊下を過ぎ、リビングの扉を開ける。
「キラ!!!」
「!?」
 だが。




 怪訝そうに振り返ったのは、イザークだった。




「……………」
 力が抜けてしまう。イザークは逆にみるみる表情を険しくしていくが、アスランの眼には映っていない。
 …キラじゃ、なかった。…ただその事実に、呆然としてしまって。
「…ったく…タイミング悪いったら…」
 頭を押さえ、溜息をつきながら歩み寄るディアッカ。アスランが我に返って彼を振り返るよりも早く、イザークがアスランの胸倉を ねじり上げた。
「アスラン貴様ぁッ!!!」
「!?」
「っ、おい!!」
 ディアッカを避けてリビングの壁へ押しつけられる。
「なぜキラのことを最初に言わなかった!!」
「なっ、どういう意味だ!」
「なぜストライクに乗ってるのがキラだってことを、オレ達に言わなかった!!」
 今度はアスランが眉を寄せてしまう。ディアッカから詳しい話を聞いたにしても、『キラ』といきなり呼び捨てにするとは、まるで キラがイザークの知り合いのようではないか。確かこの二人は、結局何の会話もないままだったはず……。
 はっ、と息を飲む。まさか。
「…イザークお前、キラに会ったのか!?」
「誤魔化すな!!!」
 傷跡の消えた端整な顔が、険しく歪む。




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