++「砂時計」3−2++

砂時計
再会
(2)







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「なぜ黙ってた!! 同じコーディネイターが…、昔からの友達があれに乗っていると、なんでオレ達に言わなかった!!」
「…な…、イザーク、なにを言っているのかわからない!」
「言葉どおりだろうが!! あいつがあんなヤツだと知ってたら…こんな事にはならなかったはずだ!! ニコルだってキラが、ストライク に乗ってるのがお前の友達だと知ってたら、あんなことにはならなかったかもしれないだろう!!」
「…っ!」
 カアッ、と頭に血が昇る。
「言ったらどうなった!! 地球軍に与して同朋を殺す裏切り者だと、キラのことをそう責めて、ますますストライクを落とそうと したんじゃないのか!!」
「それは貴様がそう思っていたからだろう!!」
「何!?」
「キラが貴様を裏切ったと、お前自身そう思っていたから、そういう発想になるんだろうが!!」
「違う!!」
「そうじゃなくて…オレ達のこと、信じてなかっただけだろ」
 横から冷静にディアッカの声が割り込む。
「チームワークが良かったなんて、お世辞にも言えなかったからな。クルーゼ隊も、ザラ隊も。仲間だって意識もなけりゃ、別に友達でも ない。……そうだろ。アスラン。少なくともあの頃はさ」
「……………」
「信じられなきゃ、そんな大事なこと、打ち明けられねェもんな」
 まっすぐなディアッカの視線に、責められているような気分になってしまう。…わかっている。責められているような気分になるのは、 図星を指されたからだ。
「イザークだってそうだろ。勝負ふっかけたりとかして、コミュニケーションだけは取ってたけど、それで仲良くなったわけでもなけりゃ、 ハラ割って話し合える関係になったわけでもない」
 ムッとして、でも反論はできずに顔を背ける。
「…とにかく、いっぺん落ちついて座れば。二人とも」
 もっともなディアッカの言葉によって、アスランはイザークから解放された。

「ほら、まァちょっと待ってろって、今紅茶でも出すからさ」
「…すっかり所帯くさくなったなお前…」
「自分がカノジョいないからって妬かない」
「あぁ!? 誰が妬くかバカヤロウ!!」
 キッチンに向かうディアッカの背中に一吼えして、どすっとソファに座るイザーク。アスランもその正面に腰を落ちつける。
「……お前も、キラに会ったんだな」
「…順番的にはあいつの次だがな」
 ぎりっ、と拳を握り締めてしまう。
 ディアッカの次は、イザーク…。自分は、どんどん後回しにされているのか。
「…あのさァアスラン」
 ポットのお湯を使わないのはディアッカのこだわりなのか、ケトルを電気コンロにかけながらこちらを振り返る。地熱発電による豊富な 電力は、以前と変わりないらしい。
「あんま一番とか二番とかって拘んなよ。キラにはキラで、思うこともあるんだからさ。オレとイザークが呼ばれたのはまァ、…なんつーか …リハビリみたいなもんだから。お前呼ぶ時が本番」
「リハビリ?」
 顔を上げると、ディアッカはイザークに同意を求めるような視線を投げる。イザークは息を吐きながら視線を逸らすが、その仕草は アスランには肯定のように見えた。
「そんなに早く会いたいっていうんだったら、オレからも聞いてみるよ。そろそろ本番イケるかってさ」
「…ああ。頼む」
 素直に頭を下げたアスランに、イザークはいらっと奥歯を噛み締めた。
「………本っ当に貴様はどうしようもないな」
「え?」
「オレやディアッカには平気で怒鳴り込むくせに、キラにはいつも防衛線を引きやがる」
「防衛線…って」
「あいつが傷つかないように、自分が傷つかないように。…オレ達に確かめる前に、直接メンデルへ確かめに行くくらいの根性はないのか」
 不愉快げに顔を背けるアスラン。
「おいおいイザーク!」
 挑発するようなその言い様に、ディアッカも慌てた。
「フン! 情けない。ちょっとでも見直したのがバカバカしくなってくる」
「何だと!?」
「イザーク、やめろって!」
「キラもキラだ! あんなに会いたい会いたいって言ってる癖に、なら呼べと言ったら途端に怖がって引っ込む始末だ。さすがに幼なじみ だけあって、そういうところはそっくりだよ、お前らは」

「………キラが………会いたい……?」

 引っ掛かった単語はそこだけだった。
 キラも、会いたいと言ってくれているのか?
「ああ。もう耳にタコが出来た」
 ぶっきらぼうに返されるイザークの言葉。

 すっ、と立ち上がる。
「ディアッカ、突然すまなかった」
「え? おいアスラン、待てよ!」
 さっさと玄関へ向かうアスランに、とっておきの茶葉の缶を開けようとしていたディアッカは慌ててしまう。
「とっとと行ってこい!」
「って、え!? お前マジ!?」
「ああ。おかげで吹っ切れた。ありがとう」
 アスランには珍しい、自然な笑顔。それは勿論嫌味ではなく、素直な感謝の気持ち。
 踏ん切りのつかなかった自分の背中を押してくれた二人への…特に、乱暴に蹴り押してくれたイザークへの感謝。
 唖然としているディアッカを置いて、アスランはそのまま家を出て行った。
「…おいおいおい、マジかよ〜! ヤバいって!」
「キラには知らせるなよ」
 通信端末に手を伸ばしたディアッカに、ぴしゃりとイザークが言い放つ。
「え!? なんで!」
「あいつにも荒療治は必要だってことさ」
「はぁ?」
 眉間にシワをよせてハテナマークを飛ばしてしまう。
 だがイザークは、どこか満足そうに微笑みを浮かべているだけだった。




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