SHADE AND DARKNESS
two
「Wait and See 〜リスク〜」〜オーブ〜
(1)
渋い顔のアスランを説得して、四人は服を調達した。
…AAの所在に関する情報を掴むだけなら、もう目的は果たしている。
キラがいる。つまり、AAはここにいる。アスランにしか分からないけれど、それははっきりしている。
けれど。
…結局彼は、私服のキラとゆっくり会えるという誘惑に勝てなかったのだった。
初対面のふりをしなければならないことは、少し辛いけれど。
それでも、何のしがらみもなく偶然出会った二人として、少しの間だけでも一緒にいられるチャンス。
恐らくはもう、最初で最後のチャンス。
「電子マネー、それなりに工面してあるじゃん? 軍資金ってのは使うためにあるんだぜ」
偽造IDのデータの中に組み込まれている残金を確認したディアッカの一言。
ある意味その通りではあるが少々乱暴なディアッカの言葉に、ニコルはやれやれと肩を落とした。
服とアクセサリーを買って、上陸した岩陰へと戻り隠した荷物を取って、急遽用意した安ホテルの部屋にチェックインし、着替える。
今や彼らはすっかりイマドキの若者の姿。
そして。
荷物の中から、盗聴機を取り出して。
黒服系ファッションのアスランは腕に通したシルバーバングルに、可愛らしい顔立ちの映える上品な装いのニコルはブレスレットに、
フォーマル系で揃えたイザークは指輪に、長身を活かしつつカジュアルにきめたディアッカはチョーカーに、それぞれ細工してゆく。
「どうせだからこのロボット鳥にも映像装置とか取り付けちまおうか」
「やめておいた方がいい」
小さな籠に入れたトリィを見て言うディアッカに、アスランが冷たく釘を刺す。
「彼女がメンテナンスしたら、すぐに見つかってしまうぞ。あれだけの重要機密部に入っていけるんだ、そのくらいの手入れは自分でする
だろう」
「まあ、いくら優秀とはいえ所詮はナチュラルだ。オレ達が本気で組み込めば気付きやしないだろうが、流石にこう急じゃあな」
イザークが肩を竦める。ディアッカはやれやれと眉を上げて、そのまま籠を鞄に放りこんだ。
ふぅ、と溜息をつくアスラン。…本当は、自分とキラ以外の人間に、トリィをさわられたくなかった。
すっ、とアスランがユニットバスに入る。
荷物の中からケースと布を取り出し、布に薬品をたっぷりと含ませた。
その布をケースに収めて、ケースの機密性を確認。これを持ち歩く自分が薬に当てられてはシャレにならない。
………このまま連れ帰ってしまえばいい。あいつは騙されているんだ、狡猾なナチュラル達に。
友達? そんなのはキラがそう思い込んでいるだけだ。キラは人が良くて優しいから、だからうまく騙されて利用されているだけなんだ。
キラがどんなに彼らを慕い、守りたいと切望していようとも。
「………」
そう。結果的に騙されているにしても、それはキラが彼らをそれだけ純粋に思っているという証明でもある。
無理矢理引き別れさせれば、彼女は絶望し、自分を責めるだろう。
だが。
彼らがキラを利用していたという事が判れば、それも覆る。
………けれど。
お人好しではあるけれど、それ故かキラは悪意を持つ人物には妙に敏感に気付いた。その彼女が心を許すくらいなのだから、もしかして
本当にそこに友情があるのだとしたら?
離れていた三年の年月。それだけあれば、新しい人間関係が生まれていて当然だ。自分も、そうだったように。
いや。
だけど。
でも、もし。
「アスラン? そろそろ出掛けますよ」
不意のニコルの声に、はっと我に返る。
「あ、ああ」
ケースをポケットに入れユニットバスを出て、三人と合流。
「さァて、行きますか」
やたらと楽しそうなディアッカを筆頭に、部屋を後にする。
約束の時間から十五分。
「………遅いですね……」
「フン! これだからナチュラルは…」
「おーい、まさかこのペット鳥諦めたとか言うなよ〜?」
「……………」
ディアッカの一言にちくっと胸が痛んだ。
…まさか、これを機にトリィを俺に返そうとか…キラがそんな事を考えてはいないだろうかと。
刃を交える者との思い出などいらないと、そう割り切ろうとしている?
後ろ向きな考えを振り払おうと小さく首を振って、視線を上げる。
その先に。
「………」
サウスポートステーションから、キラが走ってくる。
その姿が、あの時と重なって。
『………アスラン!?』
戦場のヘリオポリス。
不意に舞い降りた、黒い天使。
……三年ぶりに出会った、キラ。
あの時と同じ服。袖をベルトで止めた、彼女の好みそうなデザインの。
「ご、ごめんなさい!!」
全力疾走で駆け寄ってくるなり、頭を下げるキラ。その拍子に髪から雫が振り落ちる。
「あっ、髪の毛乾かさずにすぐ来たんですね!? だめですよ、風邪ひいちゃいますよ!」
「すみません、でも…時間が」
「けど折角シャワー浴びても全力疾走したらおんなじじゃん。そんなに大事なんだ、こいつ」
鞄からちらっと籠に入ったトリィを見せるディアッカ。キラは素直に頷いた。
「…」
顔が赤くなりそうになって、アスランは思わず視線を逸らす。
「結局、キラちゃん一人なんだ」
「あ、はい。他のみんなはまだ仕事が…その、僕も無理矢理抜け出してきたようなもので…」
「あーらら。それじゃ、その分楽しんで行かなきゃな。オレはディアッカ。こいつはイザーク。で、こっちがニコル。そっちの仏頂面が、
アスラン」
「初めまして。よろしく、キラさん」
にっこり微笑んで、手を差し出してくるニコル。どこかぎこちなく微笑みながら、キラはその手を取った。
横からするっと自然にイザークの指が伸びてきて、キラの耳もとの髪を一筋すくう。
「まったく、こんな濡れねずみじゃ、先に新しい服を用意してやった方がいいな」
「え!? そ、そんな」
「エスコートされる側は黙って頷いてろ」
気の強そうな微笑。その迫力に、思わずぐっと詰まってしまうけれど。
「でも僕っ、そういうつもりで来たんじゃ…」
「まァまァ。帰る時にはこのロボット鳥、ちゃんと返してあげるからさ」
さりげなくキラの肩を抱いて、街へと方向転換。
「まだお店空いてるでしょうか。時間が時間ですし…」
「あれっ、お前チェックしてないの? このへんの店はどこも基本的に二十四時間営業だぜ」
「えっ、どこもですか!?」
「だから夜は自動営業になってるとこがほとんどだけどな」
「どっちににしても早く行くぞ。彼女をあまり遅くまで引き止めるわけにもいかないだろう」
「だな。…おいアスラン、突っ立ってないで行くぜ?」
はっ、と弾かれたように顔を上げるアスラン。
なんて光景だろう、と思った。
平和な街で、みんな軍服など着ていなくて、そしてキラがその中にいる。
…ちゃっかり肩に手を回しているディアッカには殺意を覚えたが。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
そういえば、キラのこの服本編ではどこにいったんでしょう。
フリーダムを駆って「ザフトでも地球連合軍でもない」と言うからには、
地球軍の制服着て欲しくなかったんですが…。
MIA認定された時に遺品とかいって片付けられて処分されちゃったとか…?
まあどっちにしろすぐオーブの軍服着ることになるんだろうなぁ多分。
…あ、なにげにカガリとお揃い?