SHADE AND DARKNESS
two
「Wait and See 〜リスク〜」〜オーブ〜
(3)
ふ、と顔を上げるキラ。
「? どうかしましたか? キラさん」
「え、あ、いえ…、この曲、さっきのお店でもかかってたなって…」
レタスを挟んだまま止まってしまった手を動かして、取り皿へそれを移す。
「あっれ〜? この曲今超ヒットしてんだぜ? 知らないの?」
そこへにゅっと出てくるディアッカ。
「それとも最近本土に来たとか?」
「いえ…そういうわけじゃ。最近、…会社に、篭りっきりだったから」
「ふぅん。忙しいんだ。キラちゃんってどこのセクション?」
トマトサラダを取りながら、さりげなく会話を進めていく。だが、キラはそれに惑わされなかった。
「すみません、僕…守秘義務の厳しいところにいるから、同じ会社の人にも話せないことになってて」
「あ〜らら。…って事は、ひょっとして実は相当ヤバい事してんじゃないの?」
ディアッカの冗談混じりなカマかけにも、微笑で返して。
「僕、先に席に戻りますね。イザークさん達もおなかすいてるだろうし、あんまり待たせたら悪いから」
はいはい、と目で答えるディアッカに笑い返して、二人の待つ席へ戻る。
…そう、忘れてはいけない。
彼らは、僕から情報を得るために近付いたんだ。
ストライクと、アークエンジェルの情報を…。
席へ戻るキラの背中を見送ってから料理の乗ったテーブルへ向き直り、チッと小さく舌打ちをするディアッカ。
「色んな意味で、結構ガード固いな」
「しっかりした人ですよね。まあ、最重要機密を任せられる程の人ですから、それくらいは覚悟しないと。焦ってこちらがボロを出したら
身も蓋もありません。長期戦で行きましょう、ディアッカ」
「はいはい」
「おいお前ら」
そこへトレイに皿を乗せたイザークがやってくる。
「何か情報は引き出せたのか?」
「いんや。あの姫落とすの、結構骨だぜ」
「フン」
二人がやりとりをしている間に、テーブルを振り返るニコル。キラとアスランは向かい合わせに座ったまま、二人共動く気配がない。
「…? イザーク、アスランは?」
「食欲がないんだとさ」
そっけなくそう言って、レタスだけさっさと取ったイザークは去ってしまった。
そして。
何故か二人きりで取り残されてしまったキラは、微妙な居心地。
アスランと会えたのは嬉しいし、二人だけで話をするなら、きっと今がチャンス。
それは分かっているけれど。
でも。
………今更一体何を話せばいいんだろう。
逢えずにいた間は、沢山沢山話したいことがあった筈なのに。
こうしていざ逢ってみれば、どれもこれも空々しくて。
それなのに、彼に会えたのは嬉しくて。その感情は、どうしようもなく間違いなくて。
「………僕、狡いね」
ぽつりと零した言葉に、アスランが視線を上げる。
「なんにも知らないフリして、こんな風に笑いあってるなんて」
「…」
「みんな、………そうなんでしょ?」
アメジストの瞳が揺れるのを、アスランもまた、複雑な思いで見つめ返す。
「………ああ」
「……やっぱり狡いね。僕は」
哀しげな声に、アスランは思わず視線を逸らしてしまう。
そんなアスランに、キラは淋しそうに微笑した。
今更そんなことを言われても、彼も迷惑に違いない。
命のやりとりをする相手の事なんか、知らない方がいい。
フラガの言葉がよぎる。
戦うしかあるまい。互いに『敵』である限り、どちらかが滅びるまで。
バルトフェルドの叫びが、蘇る。
…アスラン。
僕達、こんなところで再会しない方がよかったのかな?
君の仲間と…出会わないほうが、よかったのかな。
また次に会う時は、きっと戦場でしかないのに。
深刻そうな表情で、窓の外をぼーっと見ているアスランを、…じっと見つめているキラ。
そんな風景に、ニコルは一瞬声をかける事が躊躇われたけれど。
「お待たせしました。あっ、キラさん、先に食べててくれてよかったのに」
言いながら、さりげなく彼女の隣に座る。
「でも、やっぱりみんな揃ってからの方が」
「…優しいんですね」
「…」
にっこり微笑むニコルに、複雑に視線を少し落としてしまうキラ。
「それよりアスラン、本当にいいんですか? 体もちませんよ」
「本当にあまりそういう気分じゃないんだ。一食くらい抜いたって平気だから」
「そうですか?」
「ああ」
ストレートのアイスティを飲むアスランに、小さく溜息をつく。
そんなアスランを気遣わしげに見ているキラに気付いて、おやっと首を傾げて。
「おっまたせ〜。あっ、ニコルお前、勝手に姫の隣に座るなよ」
そこへ戻って来た二人。
「こういうのは早い者勝ちですから。ねえイザーク」
「…」
さっさとニコルと反対側に座るイザークに、悪戯っぽく声をかける。彼はムッとしたように一睨みして、視線を逸らした。
つまり、キラの左右はニコルとイザーク、そして正面はアスランという配置で。
ディアッカは「あーあ」と溜息をついて、仕方なくアスランの隣に座った。
「…っていうかあの…ディアッカさん、今の姫っていうのは…」
「ん? キラちゃんに決まってんじゃん」
「………それはちょっと…あの、恥ずかしいから止めて下さい………」
顔を真っ赤にして俯くキラに、四人ともうっと言葉を詰まらせてしまって。
「…キラさん、可愛い」
「えっっ、ちょっ、ニコルさん冗談やめて下さいよ」
「冗談じゃないですよ。キラさんとっても可愛いです」
真摯な素直さは時として強大な武器。
キラは益々顔を赤くして、手を口元にあてる。
にっこり微笑むニコルと、見惚れてしまう二人と、咄嗟に目を逸らしてしまうアスランと。
三年もあれば、変わる。
いつのまにこんなに女らしくなったんだ、と動揺してしまって。
それを誰にも悟られたくなくて、全員の視線がキラに注目している間に、なんとかいつものポーカーフェイスを取り戻す。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
姫。…なんかディアッカなら女の子キラをそう言いそうな気がして。
ていうか気が付いたら呼んでました。
すっきりしない終わりになると連呼しているこの「SHADE〜」ですが、もうちょっとほのぼの路線のままです。