++「SHADE AND DARKNESS」2−4++

SHADE AND DARKNESS

two
「Wait and See 〜リスク〜」〜オーブ〜
(4)











「あ、あの、とりあえず…食べませんか?」
 いつまでもじーっと見られているのが居心地悪くなってきて、苦笑しながら切り出した。
「…って、おい。お前、普段からそんな少食なのか? それともベジタリアンだとか言うんじゃないだろうな。そんなもんで栄養が足りる と思ってんのか?」
 その途端隣からクレームをつけられて、うっと首を竦めてしまう。
「…いえ…そういうわけじゃないですけど…。…普段からそんなに食べる方じゃないし」
「そうなんですか…でも、お仕事ハードなんでしょう? ちゃんと食べないと、体もたない事ないですか?」
「あ、うん、まあ…それなりには食べてるから」
「あっ、わかった。ダイエットだろ?」
「別にそういうわけじゃ…ていうか、…おんなじこと、会社の、友達にも言われます。もうちょっとしっかり食べろって」
「ハハ、だろォな〜」
 談笑しながら、自分の皿に取ったものをつつき始める一同。

 キラ、食が細くなった。
 昔はもっと、女の子なんだからもうちょっと控えろよ、なんて言いたくなるくらい食いしん坊だったのに。…ただし、好物に限ってだが。
 その頃のような食べ物に対する感動も、今の彼女には見られない。黙々と、口に運んでゆくだけ。
 苦々しい気分で、アスランは再び紅茶を飲んだ。


「なァ姫。マジでオレと付き合おうぜ。これでも結構本気で言ってんだけど?」
 唐突に隣から聞き捨てならないセリフが飛び出し、アスランはぎょっとした。
「いえ、あの…いきなりそんなこと言われても…」
「そうですよディアッカ、ちょっと唐突すぎますよ」
「どうせ女に飢えてるだけだろお前は」
「イザーク! そういう言い方ねェだろ? ったく」
「そうとしか思えないんだよお前は! この間も部屋にグラビア雑誌なんか持ち込みやがって」
「うわっ、本当ですか!? 末期ですねディアッカ…」
「末期って何だよ! 健全で健康な男だって証拠だろ〜!?」
「あ、あの」
 エスカレートしていく三人の会話に、苦笑しながらストップをかけるキラ。
「…あの、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、僕、今誰ともつきあう気はないから」
 意外な程はっきりと告げる。
「……彼氏がいるのか?」
 イザークの問いに、はっとアスランが反応した。
 即座に視線をキラに固定する。
 そんなリアクションを、ニコルがしっかり見ていた事には気付かずに。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「え〜、だったらいいじゃん。お試し期間ってことにするとかさァ」
「…………最近、失恋…………したばっかりだから」
「……」
「その人のこと、………まだ…好きだから………………」

 爆弾発言。
 但し、アスラン限定の。


 失恋?
 最近失恋?
 ………最近、失恋?

 キラとは三年前、結婚を約束した。勿論、子供同士の口約束という、稚拙なものではあるけれど。でも。
 その時にお互いの気持ちは確認し合った筈だ。
 ヘリオポリスで意外な再会を果たして、敵となってしまって、お前を討つとも宣言したけれど。でも。
 お前を想う気持ちまで変わったなどとは、一言も言った覚えはない。
 なのに、失恋したって?

 ……………誰に?



「……おいアスラン!」
 イザークの刺々しい声に、はっと顔を上げる。
「何呆けてるんだお前は」
 気付けば皆、自分に注目している。
 その雰囲気からして、どうやら店を出る方向で話が決まったらしい。
「…ああ、すまない。ちょっと考え事してた」
「姫の水着姿でも想像して、没頭しちゃったんじゃないの?」
「ハハッ、まさか。あなたじゃあるまいし」
 爽やかに笑いながらぐさっとディアッカに刃を刺して、ニコルが立ち上がった。
「このあたりを周遊する小型遊覧船に乗りに行こうっていう話になったんです。いいですか?」
「俺は、まあ…。キラ、さんがいいなら」
「なら決まりだな。行くぞ、キラ」
「うん!」
 イザークに満面の笑みを向けるキラに、少しムッとしたような顔をしてしまうアスランだが。
「…キラさん、遊覧船って乗ったことないらしいんですよ。地元だと逆に、あんまり行かないみたいで。それで少しはしゃいでるんです」
「そ、…そうか」
 さっさとキラを連れていくイザークとディアッカの背中を見ながら、ニコルが小声で教えてくる。
 ホッと胸を撫で下ろして、しかし、あれっと思う。
「…なんで俺にわざわざそんな事言うんだ?」
「え? …アスラン、自覚ないんですか? 嫉妬全開! っていう顔でキラさんと、主にイザークの事見てましたよ?」
「なっ、…!?」
「そんな怖い顔じゃ、キラさんも好印象いだけませんよ? ほら、行きましょう」
「あ、ああ…」
 思わず動揺してしまって、片手で口元を覆ってしまう。
 そんなに露骨だっただろうか…、と自分を戒めながら。






BACKNEXT
RETURNRETURN TO SEED TOP


UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ニコルにバレバレです、アスラン。
ていうかそんなチェック目線バリバリだと普通にバレますってば。
キラはAAの上から海に出た事はありますけど、こうやって完全に観光というか、純粋に楽しむことを目的にして海に出るのは 初めて、…という感じです。
いつ戦闘配備になるかわからないって意味で、AAの上じゃ完全に油断して寛ぐことってできなかったと思うので。