SHADE AND DARKNESS
three
「exist for you」〜athrun to kira〜
(1)
五人が遊覧船の搭乗ゲートに辿りつき、受付へ声をかけた時には、もうこれが今日の最終便らしかった。
「二人乗りの小型遊覧船しか空きがないそうです。それでラスト」
「当然、姫と姫をエスコートするもう一人…だな」
含みのある言い方でディアッカが告げ、ちらっと三人を見回す。
譲る気はないぞ、と睨み返すイザーク。
二人の間で火花が散った。
が。
「それじゃアスラン、お願いしますね。ちゃんとエスコートしてあげて下さいよ」
「え?」
「えっ、ニコルさん、あの」
戸惑う二人の背中をぐいぐいと押して、ぺいっとばかりに遊覧船へ押し出してしまう。
「あっ、おいニコル! お前何してんだよ!」
即座に抗議の声を上げるディアッカだが、無人の自動運転で移動する遊覧船は、二人が乗ったことを察知すると、周遊プログラムを
起動させ、自動運転を開始した。
「いってらっしゃーい!」
怒りの表情で駆け寄る二人に構わず、離れてゆく船ににっこり笑って手を振るニコル。
ぽかんとしてこちらを見ている船上の二人が、やけに可愛かった。
「ニコル! どういうつもりだっ!? なんでよりによってアスランのヤツなんかにキラを任せるっ!!」
噛みつくイザークに、やれやれと小さく息をついて。
「お二人共、落とすとか言ってる割には、キラさんの事見てないんですね」
「何ぃっ!?」
「キラさん、ずっとアスランの事気にされてましたよ。アスランの方も、俺には関係ない、なんて顔して、その実キラさんをずっと目で
追ってるんですから」
「だからって、あいつに船の上で二人きりなんてシチュエーション、耐えれらると思うのかよ? だんまりになっちまうのがオチだろ!」
イザークの隣から口を挟んでくるディアッカに、まったくもう、と振り返る。
「そういう問題じゃありませんよ。より好意を抱いている相手の方が、油断しやすいでしょう?」
ずいっ、とモバイルを取り出して二人に差し出す。
「キラさんを本気で口説くなとは言いませんけど、僕達の目的は情報だった筈ですよ。 色恋沙汰より、任務が優先です!」
「……」
「……」
正論。
黙ってしまった二人に歩み寄りながら、モバイルを操作。ディアッカは鞄から人数分のイヤホンを取り出して、モバイルに接続。
アスランの盗聴機の周波数に合わせ、各々イヤホンからの音に耳を澄ませる。
『……綺麗ですね、キラさん』
『え? ……あ…は、はい………』
波音とボートのモーター音に混じって聞こえてきた会話は、とてもとてもぎこちないもので。
「おいおいおい、こんな調子でイケんのかよ〜」
「うるさい! ちょっと黙ってろ」
「約三十分のコースですから、まだ勝負はこれからですよ」
『………あの、向こう側見ても、いい…ですか?』
『え? 夜景を見るなら…』
『夜の海を見てみたいんです』
『…。いいですよ』
アスランが優しく微笑んだのがわかる。
「あっ、いい感じになってきたんじゃないですか?」
「ちぇ、なんかオレ的にはビミョーだなぁ」
『…キラさん、さっきの話…。失恋、したって…』
『え? ………ええ……』
『……本当なんですか?』
『…本当、ですよ』
何故か二人共声が硬くなって。
『…キラさん危ない!』
『え? ひゃっ!!』
「!?」
三人がイヤホンに集中する。
ガタガタッと倒れるような激しい物音と、ザリザリッと布擦れしたような音が重なり、それから軽く空を切るような音がして。
ちゃぷん! …ごぽごぽごぽごぽ………ザ――――――ブツッ。
「……」
押し黙ってしまう三人。
「…アスラン…あンの、馬鹿がぁっ!!!」
遠慮なく叫んだイザークが、イヤホンを乱暴に抜いて地面に叩きつけた。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
やっとアスキラらしくなってきました。(←ほんとか?)
タイトルインデックスでもアナウンスしていますが、次回はキラとアスランの修羅場です。って修羅場かよ! …と一人ボケツッコミして
おいて。
でもってその次から雲行きが怪しくなってきます。ご注意を。